Mum 2008.1.16:Duo Music Exchange
Mumのライヴは過去にフェスなり単独なりで何度も観ているのだが、それらはいずれもステージからある程度の距離をおいてだった。しかし、今回はチケットの整理番号が早かったので、頑張って最前列に陣取ることに。今回の会場であるDuo Music Exchangeは、もともと狭い内装でもあり、曲毎に楽器を変えるMumのメンバーの動きも細かに追えいかけられるはずだ。
まずは、定刻より少し遅れてオープニングアクトがスタート。スカッカマネージというバンドで、Mumのオルヴァルやグンナルがプロデュース参加しているアイスランドのバンドである。メンバーは無骨な風貌のギター&ヴォーカル、イケメン風のベース、タンクトップ姿のドラム、女性ピアニスト、巨漢キーボードという編成。音については、Mum人脈が絡んでいるからといってエレクトロニカ寄りというわけでもなく、ヴォーカルとベースがエモーショナル、ピアノとキーボードが脇を固め、ドラマーが屋台骨を支えるという、むしろストレートなギターロックだ。キーボードの人は曲によりギターもこなし、そして途中からはもうひとり加わり、ハーモニカを奏でていた。この人は、スーツの左腕の裾を束ねていた。
セットチェンジを経て、午後8時を10分近く回ったところで再び客電が落ち、Mum(ムーム)の面々が登場。宣材写真を見ると7人編成だったが、ステージには8人いた。向かって左から、ピアノ、ギター、ドラム、金髪の女性ヴォーカル、バイオリンの小柄な女性、ヴィオラを弾く女性ヴォーカル、ピアニカ、そしてベース、という感じだ。そして向かって右奥にいるベーシストは、先ほどのスカッカマネージのときに途中参加してハーモニカを弾いていた人だった。恐らくこの人がオルヴァルなのだが、今度はTシャツ姿になっていて、ちゃんと左腕も出している。さっき袖を束ねていたのは何だったんだ?
演奏は、昨年秋にリリースした新譜『Go Go Smear The Poison Ivy』からが中心になった。ヴォーカルは金髪の女性、ヴィオラの女性、そしてピアニカの人=グンナルのトリプル編成で担い、ピアニカも金髪女性とグンナルのツイン編成だった。新譜を聴いていた限りでは、男女のコーラス状態でのヴォーカルになっていたので、これは想定の範囲内だ。というか、こういう体制を取っていることに、逆に以前のメインヴォーカルだったクリスティン・アンナ・ヴァルティスドテーの存在と、その不在を思わずにはいられなかった。しかし、いくら思ってもいないものはいないので、もう仕方がない。それよりも、メンバーの解体~再編成を経た今のMumの姿をこそ、この目に焼き付けるべきだろう。
大半のMCを担いバンドを牽引するのはグンナルで、大柄で存在感がある。その後方にいるオルヴァルも、時折マイクを取っていた。ヴィジュアル面を担っているのは、中央前方に陣取る2人の女性だ。2人とも常に笑顔を絶やさず、楽しそうに歌っている。この2人の奥でバイオリンを弾く女性は表情が硬かったが、恐らくこういう人なのだろう。ドラマーやキーボードの人は普通、ギターの人はほとんど表情を変えないクールな仕事人のように見えた。
ドラマー以外のメンバーがそれぞれ複数の楽器をこなし、曲毎に編成が変わる。これはMumにおいては当たり前の光景であり、またそうすることによって、さまざまな音の世界が繰り広げられるのは、観ていて圧巻である。さて最前列の優位性を生かし、各メンバーの職人芸を追ってみた。オルヴァルはiBookでサンプリングを流しつつベースとピアノをこなし、グンナルはピアニカとプログラミング、それにシタールっぽい音が出る不思議な楽器をこなしていた。ヴィオラの女性もバイオリンやリコーダーをこなし、金髪の女性はピアニカとリコーダーを。奥に陣取るバイオリンの女性は常にマンドリンを背中に背負っていて、時折持ち替えて弾いていた。ギターの人はウクレレを、キーボードの人はトランペットを、という具合だ。
エレクトロニカとは言ったものの、電子音響の側面を担っているのはオルヴァル操るサンプリングと、そしてギターの人だった。私はギターの人に近い位置で観ていたので、この人のプレイが特に細かいところまで見えたのだが、ギター自体は同じなのに、機材のチューニングを微妙に調整したり、ピック以外にも金属製の小物を使って弦を弾いていて、通常のギターが発する以上の電子音に近い音を出していた(宣材写真を見ると、この人だけ見当たらないので、この人がサポートだったのかも)。
終盤になると、女性2人とグンナルとのトリプル編成でリコーダーを吹き、その曲がいつのまにかKissの『I Was Made For Lovin' You』になっていて笑った。オルヴァルが、恥ずかしがらずに一緒にハーモニカを吹いてほしいんだ!と呼びかけると、フロアからわずかにハーモニカの音が聴こえてきた。それが客だったのかどうかはわからないが、まもなくスカッカマネージのベースの兄ちゃんがフロアからステージに上がった。袖の方からもスカッカマネージのヴォーカルとキーボードもステージに現れ、大人数でステージは狭くなってしまった。
本編ラストはこの大所帯での演奏となり、グンナルとスカッカマネージのベーシストで1本のマイクを共有しながらハーモニカを吹き、またバイオリンの女性もキーボードの人の横について小さなハーモニカを吹き、つまりハーモニカがメロディーの核になった。オルヴァルはピアノを弾き、スカッカマネージのヴォーカルの人は筒状のもの(なんて楽器?)を振ってマラカスを振ったときに出るようなしゃかしゃかした音を出し、そうしておのおのがやりたい放題やりながらもバンドとしても見事にまとまっていて、圧倒的な音の世界が構築されていた。
アンコールでも2曲を披露し、ライヴは約1時間半に渡った。本編の後半の辺りでクリスティン在籍時代の曲も何曲か演ってくれて、少し安心できた。メンバーは日本のことをあまり細かくは覚えてはいないだろう、なんて思っていたのだが、オルヴァルがMCで、ボクたちはココ(Duo Music Exchange)に隣接しているO-Eastでも、向かいのO-Nestでも、ライヴを演っているんだ!と話してくれて、こっちの方がびっくりしてしまった。Mumはサマーソニックにもフジロックにも出演歴があるので、もしかしたら今年の夏もどちらかのフェスに出演してくれるかもしれない。
(2008.1.20.)