Mum 2005.11.30:Shibuya O-East

 Shibuya O-Eastは、洋楽アーティストがライヴを行う会場としてはかなり狭い部類に入ると思うのだが、とはいえウイークデーのライヴだし、フロアは結構スペースに余裕ができるんじゃないかななんて予想していた。のだが、入場してびっくり。なんとみっちり超満員で、Mum人気が一部では根強いのだということを思い知る。開場/開演時間が若干遅めなのも、功を奏したのだろうか。


 まずは定刻通りに、オープニングアクトがスタート。フレックフミエという、日英混合の2人組だ。ギターが英国人男性、そしてヴォーカルが日本人の女性。この人が「フミエ」なのかな。ステージ上は既にMumのセットが準備されていて、2人は前方中央部にこじんまりと陣取っている。iBookで打ち込み音を発し、男がギターを弾き、フミエさんが歌いながらキーボードを弾き、また時にはピアニカを吹く。透明感があり、幻想的な世界観を構築しているのは、Mumにも通じるものがあると思っていて、なかなかだと思う。ただ1曲毎にiBookを触るさまがなんともうざくて、打ち込みに頼りすぎているのはライヴとしてどうよ?と首をひねりたくなった。





 セットチェンジに25分ほど費やされた後、再び客電が落ちてMum(ムーム)が登場。メンバー3人のほか、3人のサポートを加えた6人編成。去年のフジロックのときと同じメンツだろうか。ライヴは、まずはインストでスタート。クリスティンはステージに跪いてアコーディオンを弾き、やがてiBookとも接続されたキーボードに移行して弾き始め、もうひとりがそのキーボードをチューニングする。ほかは、2人がコンピュータープログラミングを、そして女性がバイオリンを弾き、男性がトランペットを吹く。場内には、早くも荘厳なる雰囲気が漂う。


 続いては、プログラミングを担っていたひとりがドラムセットに収まり、キーボードをチューニングしていた人が自ら弾き、そしてクリスティンがステージ中央に陣取って、演奏が始まった。これが、このバンドの基本スタイルなのだろう。クリスティンのヴォーカルは、ウイスパーヴォイスとでも言えばいいのか、シャープな声だがささやくようにか細い。しかしバックの演奏にかき消されることもなく、ちゃんと私たちのところにまで届いている。





 このバンドは全員が複数の楽器をこなす変幻自在の音楽集団で、それが持ち味であり、観る側の楽しみのひとつでもある。クリスティンはアコーディオンが主楽器のようだが、ピアニカも吹けばベースも弾く。キーボードの人はギターやベースもこなし、ハンドベルも鳴らす。プログラミングの人は、ハーモニカを吹いたり鉄琴を操ったりしている。トランペットの人もキーボード(モーグ・シンセサイザー?)を弾くし、バイオリンの女性はトランペットとバイオリンのあいの子のような、奇妙な楽器を弾いていた。


 曲間、あるいは曲の演奏の最中でも、各メンバーは忙しくステージ上を動き回ってはポジションを変え楽器をチェンジし、だけどそうしたアクションはもちろんライヴの流れを止めることはない(ライヴを存続させるためのアクションなのだから)。クリスティンは、曲間にステージの右奥に引っ込むことがたまにあったのだが、特に何もすることはなく、機材の影に立っているだけだった。気を落ち着かせようとしていたのかな。





 ライヴとは、生身の人間による演奏をストレートに体感する場だと思っている。通常のロックバンドのライヴでは、演奏に合わせてオーディエンスが気ままに体を揺らしたり、踊ったり、あるいはコール&レスポンスを始めとするアーティストとオーディエンスとのコミュニケーションがあったりする。Mumのライヴは、その音からしてそうしたノリとは真逆なのだが、しかしステージ上のメンバーたちは明らかに躍動していて、その生々しさが観ている方に伝わってくる。こういう「ノらないノリ」もアリなのだ。


 演奏された曲は、サードにしてもっかの最新アルバム『Summer Make Good』、及びファーストの『Yesterday Was Dramatic - Today Is OK』からが中心になっているようだ。CDで聴くと、サードはかなり内省的で、一方ファーストは電子音が前面に出過ぎている印象がある。がしかし、ここライヴの場では湿っぽさも暗さもないし、電子音一辺倒でもない。むしろオープンであり、音についても各楽器のバランスがとれていたし、コンビネーションも良好にみえる。


 このバンドにとって最も重要なのは、そして恐らくはこのバンドを聴く人が最も求めているのは、彼らの音や演奏から漂う雰囲気ではないだろうか。人口わずか20万人の北欧の国、アイスランド。出身を同じくするビョークやシガー・ロスの音楽もそうだが、透明感に溢れ幻想的な異空間を生み出す才能は、極東の島国に住む者にとってはとても異質で、とても新鮮で、とても眩しく、そしてとても愛しい。





 結局ライヴの方は、アンコールを含んで約1時間半弱に渡って行われた。全てが終了し、メンバーがステージを去って行くときに、うちひとりが「see you very soon」と言い放ち、場内はどっと沸いた。今回来日したばかりだというのに、ごくごく近いうちに何かの形でまた日本に来てくれるということなのだろうか。個人的にはちょっと信じ難く、単なるリップサービスなのかなという気もする。のだが、とりあえず彼らの活動そのものは順調そうだし、今後も素晴らしい作品を届けてくれるに違いないという手ごたえを感じることができて、とても嬉しく思っている。





(2005.12.4.)



















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