Guns N' Roses 2007.7.14:幕張メッセ 国際展示場ホール

当初は4月に予定されていたガンズ・ン・ローゼズの来日公演だが、それが直前にベーシストがケガをして、7月に延期に。ほんとうに日本に来るのだろうか、またドタキャンするんじゃないだろうかという不安もあったのだが、10日に成田空港到着の報が流れ、日本に来たことはまず確認できた。そして来日初演となるこの日だが、こともあろうに7月としては異例の規模とされる、台風4号が日本列島に接近。冷たい雨が降りしきる中を会場入りし、ステージ後方の出店で焼きそばとコーラを買って飲み食いしながら、前座のムックをBGMにして休んでいた。





 セットチェンジになったときにALブロックに入り、ステージ向かって左前方のポジションを確保。オーディエンスはBGMが1曲終わる毎に歓声を上げていたが、ことガンズに関してはいつになったら出てくるのか皆目見当がつかないので(ちなみに5年前のサマーソニックでは予定より50分遅れだった)、あぐらをかいて眠ることに。やがて客電が落ち、オーディエンスの歓声のヴォリュームが一段上がったときに私も立ち上がった。時計を見ると、ムック終了からちょうど1時間が経過したところだった。ガンズ・ン・ローゼズにしては、まだ「まともな」登場ではないだろうか。


 ステージからはスポットライトがランダムに点灯していて、シンフォニーのSEが流れ出す。少しして、ステージ向かって右に長髪でシルクハットを被ったギタリストがお目見えし、『Welcome To The Jungle』のリフを少しだけ弾く。そのシルエットが一瞬スラッシュに見えたのだが、もちろんスラッシュであるはずはなく、この人は現在のアクセルの参謀格であるロビン・フィンクだ。ロビンはオーディエンスが沸くと弾くのをやめ、ちょっとしてからまた少しだけ弾き、というじらし作戦に出る(笑)。やがて演奏そのものがスタートし、すると今度はステージ正面にスポットが当たる。そこには、アクセル・ローズが立っていた。


 アクセルは黒いロングコートをまとい、ブロンドのロングヘアーを後ろで束ねていて、サングラスをかけていた。体型はやはり太めだが、ハイトーンヴォイスが健在であることにまず驚き、そして感激した。声が続かず途切れ途切れになってしまってはいるが、これは想定の範囲内。そして、ステージ上を右に左にと走り回っては、端に行き着いたときにはそこでしばし歌い上げ、また後方の壇にも上がって、と、最初からアクティブだ。続くは『It's So Easy』で、今度は一転してローヴォイスで歌い上げるアクセル。ドタキャンもなく、大幅に遅延することもなく、ガンズのライヴがほんとうに目の前で始まっているんだと、ここで実感する。


 ステージは、後方の壇の上には黒人ドラマー、キーボード、パーカッション&キーボードの3人が陣取っている。そして前方だが、アクセル、来日延期の原因にもなったベーシスト、ロビン・フィンク、そして2人のギタリスト(つまりギターは計3人)がいて、ベーシスト以外の4人は忙しくステージ上を動き回っていた。結構な大所帯であり、パーカッションまで動員されていることに、個人的にはびっくりした。ステージの左右及びバックドロップにはスクリーンがあって、メンバーやオーディエンスを捉えたり、映像が流されたりしていた。





 『Mr.Brownstone』を経ての『Live And Let Die』が、最初のクライマックスだ。ご存知映画007の主題歌であり、ポール・マッカートニーのカヴァー曲である。そしてここでは、ポールのライヴでもそうされているように、歌詞が「Live And Let Die ~♪」のところに差し掛かったときにステージから炎が爆音と共に吹き上がり、オーディエンスの興奮度を一層高めた。アクセルは、ロングコートを脱いでいた。この後はロビンのギターソロコーナーとなり、他のメンバーはステージを後にしてロビンのひとり舞台となる。ロビンも、ここに来てシルクハットを脱いでいた。


 そのロビンによる印象的なリフで始まったのが、『Sweet Child Of Mine』。更には『You Could Be Mine』と続き、ガンズが世に送り出してきた曲がアンセムばかりであることを思い知らされる。アクセルはいつのまにかサングラスも取っていて、素顔をオープンに。MCもちょくちょくしていたのだが、日本人女性の通訳をステージに呼び、彼女を介してオーディエンスに一歩下がるよう呼びかけた。アリーナクラスの会場でのオールスタンディングのライヴも今や珍しいことではないはずなのだが、フロアの前方はかなり危険な様子だったらしい。にしても、アクセルが自らこういうことを言ったのには正直驚いた。


 更には、ダメ押しのようにボブ・ディランのカヴァーである『Knockin' On Heaven's Door』まで。先ほどの『Live And Let Die』といい、またこの日演奏こそされなかったが、ローリング・ストーンズの『Sympathy For The Devil』のカヴァーもしている。ガンズはそうした偉大なる先人たちの正しき継承者でもあるような気がして、そのガンズが解散の危機を克服し、アクセルがステージに立ってくれていることが、奇跡的であるように思えてきた。確かにアクセルはほとんど1曲毎に袖に引っ込んでいて、次の曲の自分が歌う直前にやっとステージに舞い戻るというありさま。袖に行ったときには酸素吸入器でも吸っているのだろうという想像もするが、そうまでしてもステージに立とうというアクセルの姿勢は、エンターテイナーとしては立派ではないだろうか。





 ガンズには、ここ数年リリースされるされると言われながらなかなかされない『Chinese Democracy』という新作があって、そこに収録されているであろう曲も、この場でいくつか披露された。ネットで知りえた情報によると、この日演奏されたのは『IRS』など4曲だった。以前のガンズの曲のような一撃必殺のインパクトこそないが、ヘヴィー・ロックに寄ったような音楽性が漂っていて、バンドとしての成長と成熟が伺える、なかなか面白い作風であるという印象を受けた(できてるんなら早く出せよ/笑)。


 ライヴは時間的にはもっとコンパクトに収まってしまうのかと思いきや、いくつかのサブコーナーをはさみながら継続される方式になっていた。ジャムセッションもあり、キーボードの人によるピアノソロコーナーではローリング・ストーンズの『Angie』が弾かれていた。セカンドギタリストのソロコーナーもあって、まずはこの人だけで弾いていたのだが、やがてロビンが加わって2人でギターを寄せ合いながらの共演となって、そこではなんとXジャパンの『Endless Rain』のリフを弾いていた。これって、やっぱり「日本仕様」だよね。


 アクセルが自らピアノを弾きながら切々と歌う、『November Rain』。いったん曲が終わったような状態になるものの、その後延々とギターソロが繰り広げられるというドラマティックな展開を見せる曲であり、ステージの上部から火花が振り落ちてくるという演出もあった。ギタリストたちがみなアコギに持ち替えてイントロを奏で、それに被せるようにアクセルが口笛を吹いて始まる『Patience』も、これまた感動的だった。そしてアクセルは、『Nightrain』で本編を締めくくった。





 あまり間を空けることなくアンコールとなり、『Madagascar』を経て、オーラスはこれしかないという『Paradise City』だ。この日何度目かの炎が上がり、紙吹雪も舞い、こうしてライヴは幕を閉じた・・・かに思われた。実際私は、終演後の混雑を避けるべくこの後すぐ会場を後にしていたのだが、その後ネットして知りえた情報によると、再度アクセルとバンドメンバー数人が登場し、ラフなアレンジで『Don't Cry』が披露されたとのことだった。このハプニングだけでなく、ライヴ全編を通してアクセルはサービス精神旺盛であり、ファン思いだった。それがアメリカ国内でのライヴならまだしも、極東の島国でやってくれたことには、正直に言って感動したというよりは驚かされたという気持ちの方が強かった。








 私は、はっきり言ってそれほど熱烈なガンズファンではない。今回チケットを取ったのも、後々になって、ああやっぱりあのとき観に行っておけばよかったという「気持ち」を残さないためであり、あまり前向きなものではなかった。しかしライヴは事前の予測を上回る出来で、結果的に非常に満足している。アクセルの体は肥え、声は途切れ、でもそれは、言わば「裸の王様」である。バンドもスタッフもオーディエンスも、そういう今のアクセルを受け入れ、共有し、楽しんだのだ。そして、はっきりと断言できることがある。それは、アクセル・ローズのエンターテイメント魂が錆び付かずに輝いていたことだ。 




(2007.7.15.)

















Guns N' Rosesページへ



Copyright©Flowers Of Romance, All Rights Reserved.