The Rolling Stones 2006.4.2:さいたまスーパーアリーナ

さいたまスーパーアリーナに入るのは、今回が初めてだった。私が入手したチケットは、最も安い(それでも18,000円もするが)B席で、400レベルと言われる2階スタンド席だった。席に着き、場内を見渡してみる。横浜アリーナをひと回り大きくしたような印象で、先に東京ドーム公演を体験してしまったこともあり、やはり狭く感じる。これくらいのキャパシティで、ストーンズを観られるのはありがたい。そして私のポジションは、ステージ向かって右側のほぼ真横で、角度的にはきついもののステージとの距離は近く、これまたありがたかった。


 しかし客入りは芳しくなく、ブロックまるごと空席というのがあちこちにあるのが、遠目にもわかった。このような状況を考慮し、客が入るのを少し待ったのか、前座のリッチー・コッツェンが登場するのも定刻より20分ほど遅れた。ステージはアリーナ仕様で巨大ビルはなく(サイズ的に入らないだろう)、後方は客が描かれた絵の幕で覆われ、コッツェンは幕の手前にこじんまりと設置された機材を前にしてプレイ。ドームのときと同様、ガンダムの曲を中心に約30分のステージをこなした。





 セットチェンジを経て、7時20分過ぎに場内が暗転。いつのまにか幕が落ちていて、後方のスクリーンに惑星が爆発するCG映像が流れる。私のポジションからは正面のスクリーンはほとんど見えないが、代わりにサイドにも小さなモニターがあって、それで映像を確認できた。ミック、キース、チャーリー、ロニー・・・。銀河の中に、4人の顔がうっすらと浮かんでは消える。と、映像に目を奪われているうちに、いつのまにかキースがステージ前ににじり寄っていて、『Jumping Jack Flash』のリフをかきならした。


 続いてミックが勢いをつけてステージ前に躍り出て歌い出し、ロニーとダリル・ジョーンズも登場。もちろん、ステージ後方中央のドラムセットには、チャーリーが鎮座している。曲は『It's Only Rock'n Roll』~『Let's Spend The Night Together』と続き、合間合間に発せられる、ミックの日本語MCも冴える。「マタコレテ ウレシイ♪」「ハジメテノ サイタマ ハ サイコー♪」など。ステージ前方の床には3枚の紙が貼ってあったのだが、恐らくミック用のカンペだったのではないだろうか。


 ステージが近い。ストーンズの4人が近い。3年前の武道館公演横浜アリーナ公演の興奮がよみがえってくるが、座席の違いなどもあって、さすがに今回はそのときよりは幾分冷静だ。双眼鏡でじっくり見てみると、機材の後方でスタンバッているスタッフの姿までもが確認できる。そしてステージ前方に視線をやると、暴れているミックやキース、そしてロニーもだが、マッチ棒のように足が細い。更に私がびっくりしたのがチャーリーだ。スティックを握ってしっかりとリズムを刻むその上腕は、驚くほどに筋肉質だったのだ。やはり、この人ダテじゃない。





 新譜『A Bigger Bang』からの『Oh No Not You Again』を経て、日替わりセットリストコーナーに突入だ。この日はまずは『Sway』で、ミックのヴォーカルとロニーのスライドギターが冴える。続くはなんと『Wild Horses』!キースのセミアコの音色が心地いいこの曲は、日本では3年前に大阪で1度演奏されただけの曲で、つまり非常にレア度が高いのだ。それにしても、名盤『Sticky Fingers』から曲順もそのままに連打されたことがたまらなく嬉しく、感謝感激だ。


 24日は聴けなかった、『A Bigger Bang』からの『Rain Fall Down』。ミックはギターを弾きながら歌い、キースとロニーがミックの後方で同じくギターを弾いている。モニターはこの3人を正面から捉え、ストーンズのギタリスト3人体制をまざまざと示していた。これが観たかった。そして『Midnight Rambler』となるのだが、まずはチャーリーのドラムとミックのブルースハープが呼び水となり、序盤はミックが歌いながらブルースハープで牽引。それにキースとロニーのギターが絡むようになり、緊迫感が徐々に濃くなってくる。聴いている側にとってはゾクゾクする瞬間の連続で、ストーンズがまぎれもないライヴバンドであることを改めて思い知らされた。





 『Tumbling Dice』でホーンセクションがお目見えしてフルバンド編成になり、そしてメンバー紹介へ。サックスのボビー・キーズが紹介されるときはロニーがボビーに駆け寄り、チャーリーが紹介されてドラムセットから出てきたときは、キースがエスコートする。どれもこれも、お馴染みの光景だ。最後に紹介されるのがキースで、そのままキースコーナーとなる。曲は24日と全く同じ『This Place Is Empty』と『Happy』の2曲。今回のツアー、キースが歌う曲は固定なのかな。


 そしてこのとき、私はキースの仕草に注目していた。熱心なキースファンの方にとっては今更だろうが、私はつい最近ネットして知ったことがあった。キースは紹介されてステージ前方に歩み寄るとき、決まったポーズをする。右手で頭を2回叩き、次いで胸板を2回、最後に下腹部を2回叩くのだ。今まで10回以上ストーンズを観てきて、その都度キースはこの仕草をしてくれていたはずなのだが、私は何も感じず見過ごしていた。今回はしっかり確認できた。そして『This Place Is Empty』に入る直前、キースは吸っていたタバコをポーンと後方に投げ、ここで場内がどっと沸いた。絵になる人だ。





 ミックが生還して『Miss You』となり、ギターを弾きながら歌うのもこの日2度目だ。やがてステージ上に動きが出てくる。チャーリーが叩いている状態でドラムセットがステージ前方に移動され、その右後方にキーボードもセットされる。キーボードのチャックもこちらに移動。ストーンズの4人とダリル、チャックの6人が中央部に集結したところで、このスペースがせり上がり、そしてアリーナ席方向への移動が始まった。


 東京ドームで既に観てはいるが、アリーナのキャパシティでのBステージへの移動は一層ゾクゾクする。そして、3年前の横浜アリーナ公演の興奮が今一度よみがえってくる。私は今回は2階スタンドだが、それでさえ、相手があのストーンズだと密室感を感じてしまうのだ。興奮が収まらないうちに、メンバーらはいつのまにかBステージに到着していた。Bステージはアリーナ席後方寄りにあって、その近辺の客は自分の席もへったくれもなく(笑)、とにかく少しでもメンバーを近くで観ようと、ステージ近くに押し寄せていた。


 演奏されたのは、まずは新譜からの『Rough Justice』。ミックは歌いながら四方を動き回ってオーディエンスを煽る。これはお馴染みだが、今回はキースもロニーもギターを弾きながらステージ内を1周し、臨場感が一層高まってくる。そして『Start Me Up』だ!この電撃のリフをBステージでやられた日にゃ、全身総毛立ちますって(笑)。ミックはミネラルを口にしながら歌うが、合間合間に近距離のオーディエンスに向かって「放水」。一方オーディエンスはプラカードを掲げたり、用意したプレゼントを渡したいが渡せないもどかしい状態でいて、そんな光景も観ていて微笑ましい。


 Bステージのラストは『Honky Tonk Women』。キースが前かがみになりながら右手の指だけで弾くイントロは、何度観てもカッコいい。そして曲の途中でまたステージがせり上がって、メインステージへの移動を開始。この演奏しながらの戻っていくひとときもまた興奮モノで、ついに隣接するファンからステージにプレゼントが投げ入れられ始めた。キースに蹴飛ばされたりもしていたけど(笑)。そうしてメインステージに生還。私のポジションからは、距離的にはBステージよりもむしろメインステージの方が近かったのだが、それでも興奮しっぱなしのひとときだった。





 『Sympathy For Devil』では、終盤でリサ・フィッシャーと男性コーラスがステージ中央に出てきてミックとの掛け合いになった。続くは『Paint It Black』で、エスニックなイントロからチャーリーの力強いドラミングで始まった。私が聴くのは、ひょっとしたら90年の初来日公演以来だろうか。そして本編ラストは『Brouwn Sugar』。背中越しではあったが、間奏のボビーのサックスソロも間近で観れて感激だ。しかし、ここはやはりミックの独壇場で、左右の花道の先まで走っては「イェー!イェー!イェー!フーッ!」のフレーズのところで煽り、更には中央の花道にまで躍り出て煽った。この日は終盤のインプロを執拗なまでに引っ張ることはなく、割かしシンプルに締めていた。


 アンコールは、ホーンセクションのイントロが心地よい『You Can't Always Get What You Want』。ゆったりとしたテンポで始まるのだが、これが徐々にテンポが早くなり、このタイトルフレーズを連呼するところになると、ミックは「イッショ ニ ウタッテー♪」と日本語でMC。もちろんオーディエンスは呼応して、場内は大合唱だ。そしてオーラスは必殺『Satisfaction』。演奏が終わった最後には、天井から紙テープと紙吹雪が舞い、これで約2時間のステージが終わった。


 バンド全員が整列して礼をし、そしてストーンズの4人だけで改めて礼。キースやロニーは真っ先にステージを後にしたが、チャーリーとミックはなかなか下がらず、そこでまた拍手が沸いた。やがて2人もステージを後にし、ステージを照らしていたライトが消え、場内は真っ暗に。しかし私のポジションは、ステージを降りて楽屋に向かわんとするメンバーの姿も見える位置だった。もちろん誰かまでは判別はできなかったが、小さいライトで足元を照らすスタッフに連れ添われながら、足早に歩いていくのが確認できた。白のバスローブをまとっていたようにも見えた。








 セットリスト的には、先に行われた東京ドーム公演の22日と24日を足して2で割って、そこに『Wild Horses』を加えたという感じだろうか。この日の公演にはテレビカメラが入っていて、5月下旬にWOWOWで放送されることになっている。なので、テレビ用に無難なセットリストに収まってしまうのではと危惧していただけに、結構楽しめた。「残る」公演として、もちろんテレビカメラを意識してはいただろうが、変に他のライヴとの落差をつけることがなく、いつも通りにやってくれたのが嬉しかった。


 そして改めてではあるが、ストーンズ4人の力量に驚かされ、圧倒された。何度かあったであろう解散の危機を乗り越え、40年以上に渡ってロックの頂点に君臨。このことだけでもう奇跡的なのだが、それ以上に奇跡的なのは、その現役度の高さだ。ストーンズならば、今や特別凝ったことをせずとも、その存在感だけでライヴができてしまえそうなものだ。なのにオーディエンスを飽きさせず、最高のパフォーマンスを提供せんとする、プロ意識の高さが随所に伺えた。ストーンズの前に道はなく、ストーンズの後に道はできる。前人未到の領域を、これからもストーンズは突き進んで行くのだろう。




(2006.4.4.)
















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