The Rolling Stones 2003.3.10:日本武道館

武道館に着いたのは、開演2時間前の午後5時だった。なのに既にすごい人で、グッズ売り場もとっくに開放されていた。売り場に連なる人の列は時間が経つに連れて長くなり、駐車場もじき満車になった。開演予定の10分前に入場したが、アリーナ席までの通路も人ひとでごった返し、なかなか進めなかった。武道館には今まで何度となく足を運んでいるが、こんな状態は初めてだ。


 BGMとして流れていたのは、R&Bナンバーだった。5年前はオアシスやプロディジーが流れていたのを、ふっと思い出した。予定時間を過ぎた辺りからオーディエンスの興奮度が高まり、1曲終わる毎に歓声が沸く。若者がライヴハウスに集ってのライヴならまだしも、武道館でしかも年齢層の高い今回のライヴでこんな状態になるなんて、思ってもみなかった。しかしなかなか始まる気配はなく、かれこれ40分近い時間が経過。やがて「まもなく開演致します」という女性のアナウンスがあり、するとなんと、ドラムセットの奥の黒い幕から、キースが飛び出してくるのが見えた。





 客電が消え、いよいよ場内は興奮の坩堝に。オープニングは、なんと『Jumping Jack Flash』だ!もちろんストーンズを代表する曲のひとつなのだが、これまでのライヴでは終盤もしくはアンコールのラストで演奏されることが多かった曲で、意表を突いたと言ってもいいだろう。そして、目の前に現れた4人。ミック、キース、ロニー、チャーリー。ほ、ほんものだ・・・。今まではドームのスタンド席から観ていた4人が、すぐ目の前にいる。


 はっきり言えば、『JJF』の演奏はちぐはぐだった。ミックはまともに歌えていないし、キースもろくにギターを弾けていない。しかしだ。オレたちがストーンズだ、文句あっかバカヤロー、という断定的な勢いがあって、細かいことは言いっこなしという気にさせられてしまう。そしてこのオッサンたち、とにかくカッコいい。ミックはブルー、ロニーはイエローのジャケットをまとい、チャーリーは赤のTシャツ、そしてキースはグリーンのシャツの上に白いジャケットを着けている。この見事なまでに色分けされた衣装だけで、この人たちはおのれがプロであり、ヒーローであるということをわかってるんだなと痛感する。





 『You Got Me Rocking』を経て、今や恒例となったミックの日本語のMC。「マタ ニホンニ コレテ ウレシイ デス」「ハジメテノ ブドーカンハ イイ」といったようなことを話す。そして『Live With Me』となり、ここで初めてステージ後方のスクリーンが稼動。画面が4分割されてメンバー4人を同時に映し、これがまたカッコいい~。間奏では、サックスのボビーが見せ場を作った。ステージはドームと同様両端に花道があって、ミックやキースは頻繁に足を運ぶ。北東や北西の1階席の人たち、ある意味特等席だったかもね。


 続くは、ミックがギターを手にしての『Let It Bleed』。そしてロニーがペダルスティールギターを弾く『No Expectations』。スクリーンはモノクロになり、95年のヴードゥー・ラウンジ・ツアーを思い起こさせる。『Rocks Off』でやっとフルバンドとなり、ステージ右側には先のボビーを含む4人の管楽器隊が構え、一方左側には2人のキーボードと3人のコーラス隊が陣取る。リサ・フィッシャーは、髪が短くなっていた。





 そしていよいよレアコーナー突入。初期ストーンズが取り組んでいたR&Bの中のひとつである、『Everybody Needs Somebody To Love』。更にはなななななんと『Worried About You』!このときミックは前半はキーボードを弾きながらファルセットで歌い、後半はキーボードを離れ、シフトチェンジして地声で歌う。スクリーンに顔がどアップになると、しわがはっきりと見えてしまって(笑)、さすがに年輪は隠せない。だけど足は細いわ声は出るわで、全くもってなんて59歳なのだろう。レア曲を単なる蔵出しのマニア向けに留めさせない、ミックの力量はさすがだ。


 そして個人的にはこの日のピークだった、『Midnight Rambler』。ブルースハープを操り、マラカスを振り、シャウトするミック。60's終わりのバンドが極めて危うかった時期、そうした窮地を逆にプラスのエネルギーに変えることで、ストーンズはこんにちまで生き永らえているスーパーバンドになった。この時期に書かれた曲は今でもライヴのハイライトを飾るが、この曲自身は日本では実に90年の初来日以来の演奏になる。ストーンズには珍しい長い曲で、かつライヴでこそその良さが一層引き立つ曲だと思う。特に中盤以降はジャムセッション風になり、スリリングで緊迫感が漂い始める。ドームではなく武道館での公演が実現してよかったと、私が痛感した瞬間だ。





 メンバー紹介を経て、キースコーナーへ。勇み足でステージに現れたことからして、この日のキースはかなりノッていたのではと思う(あるいは、もしかして酔っ払っていたのか?)。曲は『Slipping Away』『Before They Make Me Run』の2曲。『Slipping Away』は、歌いやすいのかそれとも余程のお気に入りなのか、今やキースコーナーには欠かせない曲のひとつになりつつある。ライヴ全般としては、ギターソロはだいたいロニーが担っていたのが少し気になった。しかしこの人は、極め技的なイントロのときにきっちりと勝負する。この人の場合、これでいいのかな。


 『Start Me Up』『It's Only Rock'n Roll』という御馴染みナンバーになり、この先はヒット曲オンパレードかと思いきや、またまたレアコーナーが。R&Bの『Rock Me Baby』で、恐らくはストーンズの作品としては収録されていない曲ではないだろうか。そして、今回のツアーの目玉的な曲のひとつである『Can't You Hear Me Knocking』で、後半はまたまたジャムセッション風に。スティール・ホイールズ・ツアー以降、演る側も観る側も、どうしてもアクションや演出といったヴィジュアル面に気が向かいがちだった気がする。だけど今回は、音楽そのものが主役になっていて、これが3種類の会場で公演を行うことの利点になっていると思う。





 いよいよ終盤で、『Honky Tonk Women』ではスクリーンにはベロマークと女が戯れるアニメ画像が映り、一方でリサがダリル・ジョーンズの肩に手を置きながらコーラス。そして間奏になると、ステージ右でミックと絡み合うという演出になった。『Tumbling Dice』は管楽器隊メインで終盤が延々と引っ張られ、いつ終わるんだと心配に(笑)なるくらい。本編ラストは『Brown Sugar』、アンコールは『Satisfaction』という、無敵の布陣でライヴを締めくくった。きっかり2時間で、人によってはもしかして曲が少ないと不満に思われる方もいるかもしれないが、個人的には1曲1曲が重厚だったし、これで充分過ぎるくらい満足だ。





 初期ストーンズが追い求めたR&Bがスタンダード化しているように、今やストーンズの曲自体もスタンダード化してしまっているように思う。ヴードゥー・ラウンジやブリッジズ・トゥ・バビロンズのツアーのとき、私はレアな曲ばかりを求めていたのだが、それが不思議と今回はそうした執着は薄く、逆にストーンズ・スタンダードを今一度楽しみたいという気持ちになっていた。


 そしてもうひとつのポイントは、やはり会場。66年のビートルズや70年のレッドツェッペリンを観た人、幻となった73年のストーンズのチケットを持っている人ならまだしも、世代的にそれらのライヴを活字でしか知らない私にとって、武道館は特別な会場というより、数あるコンサート会場のひとつという印象しか持っていなかった。そんな私でも、この日の武道館は特別な会場、特別な舞台に思えた。すり鉢型で、どこからでも見やすい作りになっているという物理的な優位さに加え、この日この場に集まった人たちの熱気が充満して、素晴らしい時間と空間が生み出されたのだと思う。




(2003.3.12.)































The Rolling Stonesページへ



Copyright©Flowers Of Romance, All Rights Reserved.