ゆらゆら帝国 2005.12.30:Liquid Room Ebisu
今回のチケットは一般発売はなく、一部のプレイガイドでの先行予約と、会場店頭での発売のみだったようだ。私は情報戦に出遅れてしまったので、冬の寒い朝をリキッドルームまで出かけ、1時間半ほど並んでなんとかチケットを入手。その日でもチケットは即完売だった様子で、並んでも買えなかった人もいたらしい。整理番号はかなり後の方だが、入れるだけラッキーと考えるべきなのだろう。というわけで、当日会場内は満員すし詰めになり、バンドの登場を待ちわびる格好になった。
まずはオープニングアクト。Tuckerという、日本人男性ひとりのユニットだ。幕が上がるのとほぼ同時にターンテーブルを操り始め、巧みなスクラッチプレイで場内を沸かせる。かと思えばキーボードも弾き、ターンテーブルと行ったり来たりして双方を交互に使いこなす。更には、サンプリングを流したままでギターやベース、ドラムといった生楽器までこなす変幻自在ぶりだ。
しかしこの人のメインの楽器は、ターンテーブルとキーボードの間に配置されたエレクトーンだ。「白鳥の湖」や「エリーゼのために」といった曲を崩し気味のアレンジで弾き、時折奇声を発し、ぴょんぴょん跳ねながら弾く。やがてエレクトーンの向きを少しずつずらし、オーディエンスに背を向けるようにして弾く形に。最後は弾きながら体を反らしてエレクトーンに預けるようにし、場内大喝采。すかさず幕が降りてセットチェンジとなるが、アンコールを求めるような大きな拍手が沸き起こった。なかなかユニークなスタイルだ。
約20分のセットチェンジを挟み、再び場内が暗転。幕が上がるとゆらゆら帝国の3人が既にスタンバッていて、すかさず演奏が始まった。まずは『少年は夢の中』~『恋がしたい』と、ミディアム調のナンバーでゆったりとスタート。ステージは暗めで、赤い照明だけが妖しく光り、早くも独特の雰囲気を醸し出している。
配置はドラムセットが中央奥で、柴田一郎が鎮座して叩いている。向かって左前方はベースの亀川千代で、長髪のストレートヘアは相変わらずだ。向かって右前方がギターとヴォーカルの坂本慎太郎で、黒いTシャツに赤いパンツというラフないでたち。私は過去ゆら帝のライヴを2度観ているが、それは2002年のフジロックと今年4月の日比谷野音でのフリーライヴ。つまりはどちらも屋外で、屋内での彼らのライヴは今回が初めてになる。開放感のある野外でのライヴもいいが、密閉された空間でのライヴもまた、彼ら独特の世界観を味わえることだろう。
ベースラインもドラムビートもクリアに聴き取れるが、柴田の姿はドラムセットに埋もれてほとんど見えず、亀川もほとんど直立不動でベースを弾いている。ので、どうしても視線は坂本の方に行ってしまう。その坂本、まずヴォーカルは明瞭で、リラックスした風ながらも太くて力強く、聴く側としては安心していられる感じ。そしてギタープレイだが、さりげなく軽快に弾いているようでいて、その音色は心地よく響いている。
演奏は、基本的に曲間を置かずに次々に連射。3~4曲毎にインターバルが入り、汗を拭いたりミネラルを口にしたり、チューニングをしたりする(坂本も亀川も、1度も楽器を交換することなくやり通した)。中盤辺りからはもっかの新譜である『Sweet Spot』からの曲の固め撃ちになり、場内のヴォルテージも徐々に上がってきて、オーディエンスはバンドのプレイに吸い込まれるように魅入っている。ゆら帝独特の磁場が漂い、不思議な魔力に取り込まれてしまっている感じだ。
サウンドの要になっているのは、やはり坂本のギター。ナチュラルなプレイとドラマティックなコード進行は、レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジを彷彿とさせる。ただ敢えて言えば、坂本の方がシンプルで、より研ぎ澄まされたスタイルだろうか。そもそも、坂本はギターを弾いているというより、まるでギターが体の一部であり、手足の延長であるかのように自在に操っている。
そして時折、間奏になると坂本はまるでスイッチが入ったように暴れ出し、凄まじいインプロヴィゼーションを繰り広げる。ネックを振り回し、上体を大きく揺らし、ステージ上の狭いスペースを動き回りながら、ディストーションの効いた音を炸裂させる。しかし軋んだ音は決して不快ではなく、聴覚的にはむしろ爽快。そしてそれをやっている坂本の姿は、視覚的に痛快だ。
終盤にはいよいよ1曲1曲がクライマックスの様相を呈し、いつライヴが終わってもおかしくないほどに演奏の密度が濃くなり、緊迫感が漂う。柴田のドラミングは徐々に激しさを増し、序盤は直立不動で仁王立ちだった亀川も、上体を前後に揺らしながらベースを弾いている。『グレープフルーツちょうだい』で坂本が4度に渡ってえびぞりジャンプを決めたときには、ああこれで終わっちゃうかなと思ったのだが、そうはならなかった。
坂本がこの日初めてまともにMCを。次の曲で終わりですと言うと、場内からはえーっという、終了を惜しむ声が。がしかし、次の「新曲をやります」「できたばっかりなんで」という坂本のことばは、ライヴがオーラスに差し掛かったことを納得させるものだった。その新曲だが、ミディアム調で、そしてゆら帝にしてはトーンが明るめ。シングル向けではなく、特に新展開を感じさせる曲でもないが、彼らの創作意欲が衰えていないことの証明にはなったはずだ。
個人的に、2005年は例年以上に多くのライヴを観た。そして特筆すべきは、観に行ったライヴの約3分の1が、日本のアーティストだったことだ。もともと趣向的に洋楽に偏重していた私だが、近年は日本のアーティストにも可能性を見出せるようになり、洋楽アーティストと同じ感覚で楽しむようになった。ゆらゆら帝国はその典型的な例として挙げられるだろうし、この日のライヴも私の2005年ライヴ生活を締めくくるにふさわしい、非常に密度が濃く、非常に見ごたえのある、素晴らしいライヴとなった。
(2006.1.4.)