ゆらゆら帝国 2005.4.2:日比谷野外大音楽堂
3月のあたま頃だったか、WEEKLYぴあを読んでいてゆらゆら帝国がフリーライヴを行うことを知った。フリーとは言いながら、ハガキで応募して当選した人だけが入場できるというシステムになっており、私はオフィシャルサイトの要項で応募。そしてライヴの1週間前に案内が届いたのだが、なんと「キャンセル待ち」だった。当選ではないが、しかし状況によっては入場できるかもしれないという微妙な立場。とりあえず、ダメもとで現地に行くだけ行くことにした。
会場は日比谷大野外音楽堂。当選者のチケット交換は午後2時くらいから行われていて、既にたくさんの人が入り口前に集まっていた。キャンセル待ちの人が集合を指定された時間よりも1時間以上も早く着いてしまったが、リハーサルの音が漏れ聞こえてきていたので、あまり退屈はしなかった。少しして指定時間よりも早く案内があり、受付でハガキと身分証明書を提示してチケットを受け取る。これでひと安心だ。
やがて開場時間になり、整理番号順に入場。私は番号がかなり遅く、むしろ後ろから数えた方が早い位置だったので、こりゃ椅子席は無理で立ち見かな、なんて思っていた。が、実際中に入ってみると、ステージ向かって右の方は結構空いていて、こちらに陣取ることに。開演時間を少し過ぎたところで、スキンヘッドの紳士がステージに登場。バンドのマネージャーの清水さんという人で、危険な行為や人に迷惑をかける行為だけは慎んでほしいという注意を促し、またたくさんの人が集まってくれてバンドもスタッフ一同も感激していると言っていた。日比谷野音のキャパシティは約3000。ゆら帝がふだんライヴをやっている会場はほとんどがライヴハウスだと思われ、そう考えると今回のライヴはバンドにとってかなりの規模ということになるのだろう。
予定時間から15分くらい経った頃だろうか、ステージ向かって左の袖の方から、ゆら帝の3人がふらっと登場。坂本が「こんばんわ」と挨拶し、そして亀川と2人でしゃがんで機材のチューニングをした後、いよいよ演奏がスタート。どうやら新曲らしく、しかしこれまでのゆら帝のたたずまいと何ら変わることがなく、ルーズでダルな独特の雰囲気が漂う。
機材は、ステージ前方の中央部にこじんまりと集められている。装飾らしい装飾は何もなく、特に後方はガラガラで、ステージ全体がやたら広く感じられる。ドラムセットを軸にするようにして坂本が右、亀川が左に陣取るという具合。ライティングが唯一の装飾と言えば装飾で、それも少し暗めにメンバーを照らしていて、ムードを出している。客席から見ると、ステージの上の方には高層ビルが立ち並んでいるのが確認できて、こんなところで野外ライヴというのはなんだか違和感がある(その違和感がまたいいのだけど)。
坂本はギターを全く交換することなく、まるで自分の体の一部であるかのように自在に操る。ヴォーカルは思った以上に伸びがあり、そして鮮明だ。曲により、間奏でインプロヴィゼーションを繰り広げ、そのときの足の運びがやたらにスムーズで、まるで地面から生えているかのようだ。亀川は客席に向かって半身の格好で、上体を坂本に向けるようにして淡々とベースを弾く。そしてドラマーだが、セットの中に埋もれてよく見えないが、発せられる音は凄まじい。ギターはもちろんだが、ドラムとベースの音もことのほかクリアに聞こえ、さすがは野外だなあと感心する。
中盤の『侵入』~『恋がしたい』のところになると、ライティングが赤くなり、ステージが暗めになった。すると、計算なのかそれとも偶然なのか、3人のシルエットがステージの後方に大きくなって映し出され、一層妖しい雰囲気になってくる。メリハリのあるドラムビートと低音のベースのリズム隊が底辺となり、坂本のヴォーカルにはエコーがかかっていて残響し、幻想いや幻惑されるような感覚に陥る。
たった3人であり、しかもおのおのが発する音がいずれもクリアであるために、ともすれば音はすかすかになりがちだと思うのだが、そのような隙間感はなく、バンドとしてのコンビネーションは、音自体もそして肉体的にもタイトにまとまっている。そうした中から生み出される、独特の雰囲気。自分たちだけの雰囲気を持っているバンドというのは、そうはいない(増してや日本のバンドとなると)。
場内だが、曲に合わせて小刻みに体を揺らすファンがいることはいるが、決して踊り狂うというわけでもなく、大歓声が飛んだり大合唱になったりするわけでもない。食い入るようにステージを見つめるというか、バンドが発する魔力に吸い込まれていく、とでも言えばいいのか。4月頭ではさすがに夜はまだ肌寒いのだが、このライヴが放出する妖気は、観る側の体感温度を一層下げている感じに思える。そしてこのたたずまいこそが、ゆら帝のライヴなのかな。
ライヴは相変わらずMCもなく淡々と進むが、序盤は1曲1曲をじっくりと演奏していたような感じだったのが、徐々に曲と曲との間がなくなり、次から次へと連射されるモードにシフトチェンジしてきた。見せ場はなんといっても坂本のプレイで、ギター1本であるにもかかわらず、実に多種多彩な音を発している。ディストーションを効かせまくりで、時にはメタルバンドばりの軋んだフレーズを弾いたかと思えば、一瞬ではあるがロバート・フリップのような音もちらつかせている。
肉体的なプレイも、徐々にエモーショナルになってきた。ブレイクダンスのような足運びでステージ上を動き、えびぞりジャンプを3連発でかまし、のけぞって弾いていたかと思えば、一転して今度はうずくまるようにして弾き続けている。場内も、決してダンサブルでもなくタテノリにもならないが、このプレイにぐいぐいと引き込まれていく。そうして1曲1曲がクライマックスのようなムードになり、いつライヴが終わってもおかしくないような状態になってくる。
フリーライヴということで、こじんまりと5~6曲やっておしまい、なんてこともあるかなと思ったのだが、この内容は恐らく彼らがふだんやっているライヴとほぼ同等の密度だろう。特に、坂本が「あと2曲です」と言ってからのその2曲が、かなりのヴォリューム感のあるものになり、観ている側としてはすっかりお腹いっぱいにさせられてしまった。アンコールこそなかったが(いつもなのかな?)、1時間半たっぷりと、彼らのライヴを楽しませてもらった。非常に贅沢なひとときを過ごさせてもらった。
昨年、6年間の活動を総括するベスト盤をリリースし、そして今年ソニーに移籍。5月には新譜がリリースされ、またツアーも行うようだ。今回のフリーライヴはその先陣と思われ、ゆら帝の活動が第二期に差し掛かったのではないかと思われる。今後はより露出度が高まり、より集客し、よりメジャーになっていくのかな。スーパーカーやピールアウトをはじめ、ある程度のキャリアを築いてきたバンドが解散していくのも珍しくない中、ゆら帝の動向からはますます目が離せなくなってきた。
(2005.4.3.)