頭脳警察/四人囃子 2002.10.25:東京厚生年金会館

今年の4月下旬、「ROCK LEGENDS」と銘打たれたイベントが開催された。70'sに活動していて再評価の気運が高まっている四人囃子と、Charや金子マリらがデビュー前に結成していたスモーキー・メディスン(このときはメディスソ)との対バンという形で行われ、私も会場に足を運んだ。今回は「LEGENDS」第2弾で、頭脳警察と四人囃子の対バン。デビューは頭脳警察の方が早いが、当時両者は事務所が同じということもあってメンバー同士も交流があり、そして1度だけだが、四人囃子が頭脳警察のバックバンドを務めるという形で共演も果たしている。





 ステージは白い幕で覆われ、その中央部には思わずニヤリとしてしまう絵が。頭脳警察ファーストアルバムのジャケットになっている、3億円事件犯のモンタージュ写真が左上に、四人囃子ファースト『一触即発』のジャケットにあるサルが右下に、という絵だったのだ。そして、予定時間を10分ほど過ぎて客電が落ちた。イントロは、なんとフランク・ザッパの『Who Are The Brain Police?』。ということは、頭脳警察の方が先だ。


 白い幕にスポットライトが当たり、メンバーのシルエットが映し出される。そして『銃をとれ!』の重低音ベースが響き渡る。やがて幕が落ち、メンバーが姿を見せた。頭脳警察は、昨年は3ヶ月の期間限定で再々結成していた。それが今年になって命どぅ宝・平和世コンサートにアコースティックスタイルで出演したり、マーク・ボラン追悼イベントに出演したり(例年はPANTA個人として出演)、と、やや変則的な形でその姿を垣間見せていたのだが、ついに本来のバンドスタイルでのお出ましだ。・・・が、ステージからは白いスモークが沸き、きな臭いにおいが立ち込め、視界も遮られてしまう。これも、彼ららしい幕の切り方か。


 『ふざけるんじゃねえよ』まで3曲ほど一気にまくし立てた後、PANTAの挨拶。厚生年金で演るのは30年ぶりと言い、そしてメンバーをさらっと紹介。石塚俊明がステージ中央のやや右、PANTAはやや左に立っている。PANTAの左後方にはベースのJIGEN。中央奥はドラマーで(名前が聞き取れなかった)、この人が首を痛めて入院中だったがために、復活が先延ばしになっていたらしい。右端はギターの藤井一彦で、普段はグルーヴァーズのフロントとして活動する一方、頭脳警察には90年の再結成時以来参加。PANTAと石塚の信頼も厚いのだろう、きっと。





 頭脳警察は、政治的要素の強い過激なバンド。そうしたイメージが定着して久しく、後追いで聴いている私もそう思い込んでいる。しかし今の頭脳警察は、PANTAと石塚が50の齢に達していることもあってか、危険でとんがった雰囲気はなく、純粋に音楽を演っているバンドとして機能しているように見て取れる。時代の移り変わりがそうさせているのかもしれないし、あるいはもしかしたら、頭脳警察というのは言われているほど過激でも政治的でもなかったのかもしれない。


 危険な雰囲気はなくても、2人が放つエネルギーはやはり圧倒的で、そして感動的だ。50の齢を越えたことを意識しつつ、それでも2人はいろいろなチャレンジをしている。今回の対バンもそうだと思うし、暮れには佐渡山豊や遠藤ミチロウらと組んで、沖縄でトラ・トラ・トラというイベントを行うことも発表になった。黙って見ているだけなら、誰にでもできる。他人を批判するだけなら、誰にでもできる。では自分には、いったい何ができるのか。人の心を惹きつけ、動かし、感動させ、というムーヴメントを、引き起こすことができるのか。行動することに、年齢は関係ない。チャレンジに、終わりはない。ギターの弦を2度も切るPANTAの姿は、身を以ってそのことを示しているように見えた。


 選曲は新旧取り混ぜたような構成になり、セルフカヴァーと思しき曲(新曲として聴いてほしい、というPANTAのコメントがあった)も披露。脇を支える若いメンバーの頑張りは、『Quiet Riot』や『万物流転』といった、90年再結成時の曲のときに発揮された。こうして、1時間程度でライヴは終了。アンコールもなく、さっさとセットチェンジが始まってしまったが、このままでは絶対に終わらないという予感があった。





 約15分後、今度は四人囃子が登場。イントロのSEが流れた時点で大きな拍手が沸き、今回は四人囃子ファンの方が多く集まったんだなと思った。私は今年になって四人囃子を知った遅れてきたファンで、それが年に4回もライヴを観ることになるなんて、思ってもみなかった。そうした幸福感を噛み締める一方、どうせ選曲は全く同じだろうという、少し醒めた気持ちも持っていた。しかし・・・、


 オープニングは、インストの『なすのちゃわんやき』だった。フジロックのときはほとんど聞き取れなかった、佐久間正英のリコーダーに、いきなり意表を突かれてしまった。続いては『泳ぐなネッシー』。この曲は4人の短いソロがあるのだが、坂下~岡井~佐久間~森園の順でひと通り短く流した後、今度はじっくりとソロをやるという小技も披露。私は嬉しかった。四人囃子は四人囃子で、同じことの繰り返しではない、今回のライヴに当たってのテーマを設定していたのだ。





 過去3度のライヴでは、通りいっぺんのメンバー紹介以外にMCらしいMCはなかった。もともと四人囃子というバンドは演奏オンリーで勝負するバンドなので、今回もそうなのだろうと思っていたら、森園勝敏が、「ここでメンバー交代を」としゃべり出した。佐久間正英が下がり、初代ベーシストの中村真一が登場。更にはゲストということで、金子マリも姿を見せ、『空と雲』を披露。この曲は、4月のときにスモーキー・メディスソがカヴァーしていたのだが、今回は本家にしてオリジナルメンバーの四人囃子+金子マリという構成になり、いいとこ取り状態になった(金子マリの参加はこの1曲のみ)。


 プロコル・ハルムのカヴァーを経て、佐久間がギターで復帰。四人囃子ならぬ5人編成で、『眠い月』という曲を演奏した。変則的というか、変幻自在というか、懐の深い人たちだ。この後は元の4人編成に戻り、『空飛ぶ円盤に弟が乗ったよ』から必殺の『一触即発』へとつないでライヴを締めくくる。『一触即発』では、森園が歌詞を間違えて(本来歌うべきところを飛ばし、次のフレーズを歌ってしまった)、一瞬坂下と佐久間が森園の方を見るが、その後森園に合わせるようにして演奏を続けたという場面もあった。





 さてアンコールだが、ステージ中央にはパーカッションが用意され、やっぱりと思った。そしてメンバーが登場するが、中村を含めた四人囃子に加え、PANTAと石塚も姿を見せた。両者が過去に1度だけ共演していることは、冒頭に書いた。このときは頭脳警察の他のメンバーが脱退してしまい、日比谷野音での「聖ロック祭」に参加することが決まっていたために、当時はまだデビュー前だった四人囃子を急遽バックに据えたのだ。ライヴの直前、1時間のライヴで10何曲というのは~と森園が言い、PANTAが四人囃子なら3曲だろうと返し、みんなで笑いながらステージに飛び出して行ったそうだ。


 このエピソードは、四人囃子のボックスセット『From The Vaults』のブックレットにPANTAが寄せたコメントに含まれているが、PANTAはこの場でも改めて披露した。演奏はいずれも頭脳警察の曲で、『無冠の帝王』『前衛劇団モータープール』、そしてラストは『さよなら世界夫人』だった。偶然かもしれないが、いずれも「聖ロック祭」で演奏された曲だ。最後は他の頭脳警察のメンバーも姿を見せ、一列に並んで挨拶。心暖まる幕切れとなった。





 四人囃子は、過去3度のライヴを大きくしのぐ、素晴らしいライヴだった。プログレをやっていたつもりはないという彼らの発言があるのだが、この日の演奏はハードでヘヴィーだった。四人囃子のアルバムは、そのほとんどが現在廃盤状態だが、なんとこれがレーベルの枠を超えて年末に再発されることになった。それぞれリマスターやボーナストラック付与などの付加価値をつけ、更に今年のいずれかのライヴを収録したライヴ盤も出るとのことだ。


 一方の頭脳警察だが、実はPAの調子が今ひとつで、特にPANTAのヴォーカルやMCがよく聴こえなかった。また椅子席のホール会場や高い年齢層ということもあってか、客のリアクションも今ひとつで、ライヴトータルとしては少々空回りしている感がなきにしもあらずだ。また欲を言えば、70'sの曲であれも聴きたいこれも演ってほしいという気持ちがあるのだが、それは今後の楽しみに取っておくことにしたい。PANTAは、今後はソロと頭脳警察の活動とを、バランスを取りながら交互に続けていくとのことだし。


 そして最後に実現した、両者の共演(PANTA曰く"頭脳囃子"だと)。これを同窓会と見る向きもあるかもしれないが、個人的には大歓迎だ。それぞれが別々にライヴを行ってそれで終わってしまうのでは、対バンしたことが半分しか生かされないと私は思う。その場だから実現できる夢の共演こそが、対バンの最大の醍醐味ではないだろうか。そして当時はハタチそこそこだった彼らが、29年の時を経て再び同じステージに立って演奏したというのは、当人たちも感慨もひとしおだったのではないだろうか。






(2002.10.26.)
















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