The Jon Spencer Blues Explosion 99.2.28:Liquid Room

整理番号20番という、願ってもないチケットを手にできてラッキーな私。ステージ最前を取ってジョンの汗や唾を浴びるか(笑)、それともカウンター席に陣取ってライヴの大局をしっかと見届けるか、公演日が来るまで迷いに迷っていた。・・・がしかし、会場はあのリキッドルーム。階段を登りきったところでもう汗だくになってしまい、息も絶え絶えになり、こりゃもういかん。6時の開場とともにカウンター席をゲットする。この日は全国をぐるっと回った後の日本最終公演。各地での評判を見聞きする限りだと、カウンター席でも大興奮させてくれるでしょ、という気持ちもあった。先日のashもこの辺りで見て充分に満足できたし。


 そのashのときも確かソールドアウトだったはずなのだが、断然今回の方が人が多い。フロアはもとより、私が座っているステージ正面のカウンター席の後ろにも人が密着していて、圧迫感があって息苦しくなる。アナウンスではダイヴ禁止のお達しも。ステージ前に構えるセキュリティーには黒人アーミーも2人。グリーン・デイ、マリリン・マンソンでもご活躍の彼ら、最早クリエイティヴマンの専属なのか?





 まずは前座(今回のジョンスペのツアー、各地でオープニングアクトを起用している)。MAD3という日本のバンドだった。g&voの人がベレー帽にムチを持って登場。トリオ編成で3人とも革ジャンにグラサン姿。大戦中のドイツのハーケンクロイツみたいだ。さて肝心の音の方だが、ともすればギターウルフの2番煎じに終始してしまいそうな感じだったのだが(でも、もしかしたらギターウルフよりキャリア長いのかも)、炸裂するds、gとbの張り裂けんばかりの、そしてしつこさすら感じるステージアクション。そして、私が最も気に入ったこと。それは、彼らがほとんど「歌わなかった」こと。ただひたすらおのれの楽器を激しくかき鳴らすことのみに徹している。ガレージロックのインストオンリーというのも結構イカしてる。1月のClub SnoozerでゲストDJとして皿を回したイバラギユウスケが、自分のバンドのオープニングに起用したくなるようなバンドだと思った。終演後、g&voのお兄さんが直々にCDを手売りしていた。結構好青年である。





 ステージセットの入れ替えも終わり、8時きっかりぐらいに不意にメンバー登場。3人ともシルバーのジャケット。通常のライヴよりも、dsがかなり前に設置されている。その前、向かって左にジュダ。右側にはジョン。『2 Kinda Love』でスタート。ダイヴ禁止のお達しが出ていたが、それでもボディー・サーフが早くも炸裂する。2曲目でもうジュダとラッセルはシルバージャケを脱ぎ捨てる。ジュダはラクダ色のシャツ。ラッセルは青のラメシャツ。もう最初からメンバーも激しい。客だって激しい。なにもかも激しい。


 とにかく曲と曲の"間"というものがほとんど存在しない。次から次へと滝のように続くパフォーマンス。クールなジュダ。激しいドラミングのラッセル。そして、あまりgを弾かず、歌うことの方が多いジョン。しかし、gを背中にしょったまま、ステージを右へ左へと動きまくり。フロアに向かって腕を突き出し、客をあおる。飾り気も何もない、剛球一本ヤリのあまりにもストレートなパフォーマンスだ。







だけど・・・。

























私は恐らく、日本でも数少ないジョンスペに対して批判的なファンである。

























 アルバム『Orange』発表以来、彼らに対する評価は絶大的なものと化し、以後批判など見たことも聞いたこともない。がしかし、私に言わせれば、『Orange』も『Now I Got Worry』も"並"のアルバムにしか感じられない。どの曲も似たり寄ったりだし、ベースレスを克服しているようにも思えず、またそれを逆手に取って武器にできているようにも思えない。スカスカな音がとにかく耳障りなのだ。"時代が回転するのが体感できるアルバム"だの、"イントロを聴いた瞬間に体内に電流が走った"だのと、どうしてこうまで絶賛されなければならないのか理解に苦しむ。悪いとは言わないけど。新作『Acme』にしても、明らかに名前負けしている。"Acme"という言葉、絶頂、頂点、極致という意味合いを持ち、性的な隠語として使われることも多いのだが、このアルバムはアクメでもなんでもない。単なるゆるゆるでのっぺりとした音の連続である。


 バンド名通り、彼らはブルースを基調にしているので、その音楽性が画期的に真新しいわけでもない。なので、どうしても偉大な先人たちと比較してしまう。ベースレスといえば、なんと言ってもジョン・ライドンのパブリック・イメージ・リミテッドだろう。あの、この世の果てまでブッ飛んでしまったような鬼気迫る"音"が彼らのアルバムにはあるのか?





ない。



 ジョンスペはアルバムよりもライヴだよ、ライヴ見なきゃジョンスペの真の姿を見たことにはならない、という意見も多い。実は、私は97年9月に、チッタにジョンスペを見に行っている。このときは前座にTrans AM、そしてメジャーデビュー直前のギターウルフを据えていたが、これらのバンドのパフォーマンスは明らかに間延びしていた(なのに、メディアはこのときのギターウルフを絶賛しまくっていた。嘘だろ。『狼惑星』を売りさばくための戦略か何か知らんけど、冗談もいい加減にしてよね)。そしてトリとして出てきたジョンスペも、結局その陰鬱なムードを一掃することはできなかった。最高のライヴパフォーマーなら、イギー・ポップがいる。プリンスがいる。ジョン・スペンサーのパフォーマンスは、彼らのパフォーマンスに匹敵するのか?しのがないまでも、比肩しているのか?または、全く違うベクトルとして独自の世界を作り上げているのか?




ノーだ。



 アルバムを聴きこんでも凄えと思えず、ライヴを見に行ってもやっぱり凄えと思えず、周囲の絶賛だけが日に日に増幅され、それに対して疑問符と猜疑心だけがひたすら蓄積されていった私の1年半である。


 私が今回のジョンスペの公演、当初発表の日程でチケットを取らなかったのは、そうした私の固定観念が、ああやっぱりその通りだった、と認識を一層強固にするのが怖かったからだった。迷いがあった。行くべきか行かないべきか。そして、結局は追加公演になってチケットを取った。そうした私の固定観念が払拭されるのを期待して。





祈りをこめて。



彼らに賭けてみたかった。



























ではこうして彼らのパフォーマンスを再び目の当たりにしていて、果たしてどうか。





























優秀なパフォーマンスだ。

































 ただ、"優秀な"という言葉、私にとっては褒め言葉ではない。悪くもなくよくもない。そういう意味で使っている。この程度なのかな、やっぱり。私が日々足を運んでいるライヴと、どこが違う?何が凄い?1年半前とおんなじ感触しか得られない。昨年9月のマンサン今年1月のマリリン・マンソンを見に行ったときと同じような気持ちになってしまった。ライヴ会場にいるというのに、目の前のパフォーマンスが自分の中に入って来ない。ひたすら自分の頭の中の世界に入ってしまっている。


 本編は『Acme』からの曲を中心に50分ぐらいで終了。ちょっと短いな。これだと、アンコールを含めてもせいぜい1時間15分ぐらいだろうな、という予測を立てる。


 アンコールは『Hell』でスタート。そして来日記念盤『Extra-Acme』からの曲が続く(個人的にはこっちの方が気に入っている。どうして『Acme』から漏れたのか疑問だ)。けれど、相変わらず私の頭の中はああでもない、こうでもない、という能書きばかりが渦巻いている。ライヴを楽しみに来たはずなのに・・・。でも、いいものはいい、よくないものはよくない。誰にでも好みはあるものだし、そこは自分の気持ちに正直でなくてはならない。無理やりよかったと自分自身に思い込ませるのは危険だと思っている。

























が、しかし・・・



























ん、んんーっ!



























ち、ちょっと、待て。

















































 だいたいアンコールなんて、2~4曲くらいをそそくさとやって終わり、というのが常なのに(そんな予定調和には、最近は飽きるのを通り越して諦めの境地で、もっぱら多くを期待しないことにしているのだが)、今回のこのライヴ、終わんねえぞ。終わんねえぞ。いったい何曲演ってるんだ!何分演るつもりなんだ!

























どうなるんだ!

























どうなるんだ!

























このライヴ、これから一体、どうなるんだ!












































ジョンは銀ラメの上着を脱ぎ捨てて上半身を露出。



そればかりか、自らベルトにも手をかけて、ズボンをずり下げている。



そのままステージを右に左に動き回り、最早半ケツ状態(笑)。

























絶叫、









絶叫、









絶叫、







うねるギター、





割れるドラム、





巨大な音量、





突き抜けるビート、





張り裂ける空気、





濃密な空気、





ショートする脳細胞、





分裂する脳細胞、





フッ飛びそうな理性、





ブチ切れそうな血管、



































なんだ、



























どういうんだ、



























どうなってるんだ、



























これから何が起こるってんだ!



























何が始まろうとしているんだ!























































もう間違いなかった。







































去年のクアトロのジャグアーのときのような、







フジロック98のイギーポップのときのような、







96年のデヴィッド・ボウイのときのような、







その場にいた者全てをまるごと呑み込み、







ぐいぐいと引っ張り、







別世界へ、







異空間へと連れ去ってしまうような、







あの感覚だ。







あの瞬間だ。













































間違いなく、ジョンはキレていた。































全てを、出し尽くしていた。



























コイツは、アホだ、



























バカだ、



























ロックに取り憑かれた、バカだ、



























狂ってる、



























しかし、最高にカッコいいヤツだ。



























最高に素敵なヤツだ。



























どこまでも一本気なヤツだ。



























どこまでも生真面目なヤツだ。































生真面目で、そしてデンジャラスなヤツだ。























































 本編が50分。そしてなんとなんとなんと、アンコールも50分!こんなライヴ、今まであったか?こんな奴ら、今までにいたか?とにかく凄まじいライヴだった。アンコール途中からは、もうわけがわからなくなってしまった。どの曲を演ったかなんて、もうトんでしまった。





























 私は今回のライヴ、この場限りのモノだったと思っている。毎晩毎晩、あんなブチ切れたパフォーマンスがこなせるわけがない。日本最終公演ということもあって、彼らの気合いの入りようも違っていたのではないか。おかげで、私の1年半に渡るジョンスペ不信は、完全に拭い去ることができた。行くべきか否か迷った公演だったが、もちろん行ってよかったと思っている。



























し、しかし、凄かった・・・。




(99.3.2.)































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