The Rock Odyssey 2004 Aerosmith

 セットチェンジの間に日は沈み、場内は日中の灼熱地獄とはまた違った、神秘的な夜の景色に彩られる。ステージ両端のスクリーンには、なぜか中田横浜市長が映し出され、またジョン・カビラがどこからかアナウンスしているという状態。日中は空席が目立ったアリーナだが、フーの頃から埋まり出し、いよいよトリのエアロスミスの頃になると、さすがにほぼ満席状態に(フーを観終えて退席した人も、いないわけではなかったけど)。





 予定時間になってもライヴは始まらず、ステージ上ではスタッフがまだ準備中。ステージは左右に花道が伸びているのだが、そこに電飾を設置している(ここまでのアーティストは、花道を活用することがほとんどなかった。ジョシュ・トッドが、何度か途中まで歩くことをしたくらい)。そうして10分ほど遅れ、やっと場内が暗転。メンバー5人がぞろぞろと現われ、それぞれ持ち場につく。まずは『Back In The Saddle』『Toys In The Atic』という、70'sナンバー2連発だ。


 黒いタンクトップ姿のスティーヴン・タイラーは、相変わらず細身で、なのにアクションはパワフルでキレがある。この人の左肩には、毎回日本語のペイントがあるのだが、この日は「猛暑」だと(笑)。ジョー・ペリーとのコンビネーションも今まで通り抜群で、ストーンズのミックとキースのそれよりも、より親密なさまに思える。もうひとりのギタリストであるブラッド・ウィットフォードや長身のベーシストであるトム・ハミルトン、ドラムのジョーイ・クレイマーは、今回は特に大きなアクションというのがなくって、演奏に徹している様子だ。


 序盤は『Love In An Elevator』まで一気に飛ばし、続いてはミドルテンポのブルースのカヴァー『Road Runner』でシフトチェンジ。カヴァーといいつつアレンジはエアロモードで、あまり違和感は感じない。ジョーイのドラムが印象的な『The Other Side』、必殺バラードのひとつ『Cryin'』、新たなエアロの顔的な曲になりつつある『Jaded』など、続いてはお馴染みの曲が続く。個人的には、この10年のエアロの来日公演にはコンスタントに足を運んでいることもあって、意外性は薄いが、安心して観ていられるという気分。さすがに大会場慣れしているし、風格も漂っている。





 他の海外アーティストがこのフェスのために来日したのに対し、エアロだけは単独のほぼ全国ツアー(しかも、会場はドーム中心)をこなした後でのフェス参戦だ。彼らがこの春リリースした新作『Honkin' On Bobo』は(ドラムセットには、カタカナで「ホンキン」と書かれていた/笑)、なんとブルースのカヴァー集。これまでの作品やライヴでは、断片的にバンドのルーツとしてカヴァーをいくつか披露していた彼らだが、今回の作品はそれを前面に打ち出している。


 なので、ツアーはいちおうこの新作にリンクしたということになるはずだが、もちろん選曲は新作のみに偏ることはなく、新旧トータルで現在のエアロを表現するという形を取っている。個人的には、セットをカヴァー曲に絞ったツアーをすれば、もっと狭い会場で観られるのに、なんて想像も膨らませるのだが、そんなマニアックな方向には走らず、少しでも多くのファンと同じ楽しみを共有したいというスタイルを取るのが、彼らの彼らたる所以なのだろう。


 そのサービス精神が最もにじみ出ているのは、なんといってもスティーヴンだ。バンドのスポークスマン的な役割を担い、ファンとの交流も積極的だ。ステージでのアクションも最も多く、最も大きく、最も派手である。メンバーやスタッフの間では、表現者としての厳しい顔を持っているのかもしれないけど(『Making Of Pump』という映像作品で、それが確認できる)、ファンを前にしたときは、まるで少年のようにはしゃいでいる。


 スティーヴンが少年だとすれば、そのすぐ横にいるジョー・ペリーはクールガイだ。私はこのフェスの前に雑誌でジョーのインタビューを読んでしまったのだが、この日本公演終了後、バンドはしばらく活動を休止するそうだ。レコーディングとツアーを繰り返し、メンバーはほとんどボロボロの状態らしい。この記事を読んで、そして実際にライヴを目の当たりにして思ったのは、現在のエアロの手綱を握っているのは、実はスティーヴンではなく、ジョーの方ではないかということだ。


 今やエアロのライヴバンドとしてのステータスは不動だが、その裏には身を削らんばかりの苦闘があった。ステージでのスティーヴンは、時にメーターを振り切らんばかりにやりすぎることがある。現にこの日本公演中も、大阪で足を踏み外して痛めてしまい、広島公演をキャンセルせざるをえなかったくらい。咽喉の方も、長年の酷使のためか、必ずしも万全ではないらしい。残された時間を限りなく有効に使うための、活動休止。そこまでせざるをえなかった、いやそこまでやってくれた、5人の勇者たち。それに気付いたときに、すっかり聴き慣れてしまった曲や見慣れてしまったはずの5人の勇姿が、とても愛しく思えてきた。





 ジョー・ペリー・コーナーは、『Back Back Train』『Stop Messin' Around』と、いずれも新作に収録されているブルースナンバー。後者はライヴでは既にお馴染みの曲なのだが、最初に聴いたときは(確か98年の公演のときだったと思うが)、違和感ありありだった。スティーヴン不在とはいえ、エアロとブルースというのが、当時の私の中では結びつかなかったのだ。だけどジョーは自分のコーナーではこの曲をほとんど外すことなく演奏し、今年になって世の中やファンの方が追いついた感がある。


 いよいよ終盤。スティーヴンの熱唱が光った、必殺バラード『Dream On』。中盤のインプロヴィゼーションが見せ場になった、『Draw The Line』。ブルースの『Baby Please Don't Go』を経て、本編ラストは『Walk This Way』から『Sweet Emotion』という、必勝リレーとなった。エアロのライヴに何度か足を運んでいるファンにとっては、「またか」と思われても仕方のない展開だが、個人的には意表を突く選曲よりも、この磐石の運びの方が嬉しかった。





 アンコール。まずは、エアロ第2のピークを象徴する曲(と思っている)、『Living On The Edge』。アンコールでこの曲というと、個人的には、初めて彼らのライヴを観た、94年の武道館公演を思い出さずにはいられない。あのときは確かに第2のピークだったと思うが、ではそれ以降は下降したのかというともちろんそんなことはなく、ピークを維持したままさらに驀進を続けて今に至っているのだ。そして幕引きは、スティーヴンが、自分が「train kept a-rollin'」と歌ったら、みんなは「all night long」と歌うんだよ、という指導(笑)をしてから始まった、『Train Kept A Rollin』だった。














 彼らの単独公演に比べると、ややコンパクトなセットで、日本のファン向けには外せないだろうと思っていた、『I Don't Want To Miss A Thing』も演奏されることはなく、少し意外ではあった。だけど、フェスティバルを暑い中午前中からずっと観続けてきた身としては、体力的にそれはありがたかったし、コンパクトにしたことで、ライヴそのものの密度はむしろ濃くなっていたと思う。もちろんいつもながらの入魂のパフォーマンスだったし、この後は少し休んで、身も心もオーバーホールして欲しいと思う。

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(2004.8.14.)






























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