The Rock Odyssey 2004 The Who
ロック・オデッセイは、ステージセットの切替に要する時間は、20分から25分といったところ。てきぱきと手際よく行われるのは、ありがたいことはありがたいのだが、この時間でトイレや食事、休憩となると、ちと慌しくなる。私は、稲葉浩志のライヴは前半ちょこっとだけ観た後早めの夕飯を摂り、トイレを済ませて「次」に備えた。「来日していない最後の大物バンド」、ザ・フーを観るために。
時刻は午後5時に差し掛かり、さすがに暑さもピークを過ぎた感じに。アリーナでも、ステージ向かって右半分は日陰に覆われるようになってきた。そして開演予定前から、自然発生的に場内に拍手と歓声が沸く。これは昨年のローリング・ストーンズ武道館公演のときと同じような現象で、長年待ちわびた夢が今叶わんという、積もりに積もったファンの想いがそうさせているのだろう。私も観るのは今回が初めてだし、もっと言えば、自ら海外に行くことでもしなければ、フーを観ることは叶わないと半ば諦めていたのだ。
いよいよメンバーが登場し、場内がどっと沸く。今や、オリジナルはピート・タウンゼントとロジャー・ダルトリーだけになってしまったし、結成40周年といえば聞こえはいいが、実際は22年も前に1度解散しているバンドだ。それでも、ついに日本の地を踏むことのないまま解散したバンドや、亡くなってしまったアーティストのことを思えば、この2人が日本の地を踏んでくれたことを、嬉しく思わずにはいられない。
ライヴは、ピートのギターリフで始まった。『I Can't Explain』。メリハリの効いたビートに、サビのコーラス。そして間奏に差し掛かると、ピートは腕を大きく回しながらギターを唸らせ、一方ロジャーはマイクコードを振り回す。続くは、「恋のピンチヒッター」なる邦題がつけられていた『Substitute』、そして『Anyway Anyhow Anywhere』。更には、オーラスに持ってきても遜色のない『Baba O'Riley』が、早くも放たれる。今やビートルズやストーンズの曲がロックスタンダードとして今に伝わっているように、フーの曲もその域に達している。そして、今まではビデオの中の世界でしかなかった、肉体性溢れるパフォーマンス。それを、ナマで拝める日が来るなんて・・・。
ロジャーはビデオで観てきたイメージとほぼ同じだが、ピートはかなり大柄でマッチョに見え、印象が大きく異なる。黒いサングラスも、似合ってはいるが、まるでミスター・マリックみたいだ(笑)。この2人を支えるバンドだが、ジョン・エントウィッスルの代役を務めているのは、ピートのソロバンドのベーシストのよう。かなりの長身だ。ピートの実弟サイモン・タウンゼントがサポートのギターを務め、そしてキーボードもひとりいる。
そして、個人的にはレッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムに勝るとも劣らない、ロック史上最高のドラマーだと思っている(前ふり長いな/笑)、キース・ムーンの代役を務めているのは、ビートルズのリンゴ・スターの息子である、ザック・スターキーだ。この1ヶ月ほど前には、グラストンベリーでオアシスのドラマーを務めたばかりで、他のバンドでもレコーディングに参加したりツアーに帯同したりで、今や英国一のセッションドラマーとして君臨している感がある。
その精悍な顔つきには父の面影がうかがえるが、プレイの方は意外やパワフルでソリッド。バンドのコンビネーションを崩すことがないままに、自己主張ができている。しかも、あのロジャーとピートの後ろで、少しも臆することなく堂々とだ。私は、2000年のフジロックのときにジョニー・マーのバンドでザックを観ているのだが、そのときとは見た目もプレイも、存在感がまるで違う。このザックこそが、ライヴ序盤の最大のサプライズだった。
以前、日本でもCMソングとして起用されたことのある『Who Are You』。フーのドキュメンタリー映画「キッズ・アー・オールライト」では、キース・ムーンがやたらはしゃいでコーラスしていたのが印象だった。続く『5.15』『Love Reign O'er Me』といった『Quadrophenia』からの曲は、私が楽しみにしていた曲のひとつだ。しかし後者のときはロジャーの声の伸びが今ひとつで、曲自体は壮大なドラマ性を帯びた叙事詩的な名曲なのだが、それが最大限にまでは表現されなかったと思う。少し残念。
代表曲のひとつ『My Generation』は、当初は「老いぼれる前に死んでやる」という、あまりにも象徴的な歌詞にばかり気が行っていたのだが、2年前のジョン・エントウィッスルの死を機に、曲の楽しみ方が変わってしまった。この曲は間奏でベースソロが連発されるのだが、これは本来ならばジョンの指から発せられるフレーズ。それを、ここまでは黒子に徹していた感のある長身ベーシストが奏で、スポットを浴びた瞬間だ。終盤では、今年リリースされた40周年記念ベスト『Then & Now』のラストに収録されている、新曲『Old Red Wine』へとつながれる。このまま、キーボードのリフが印象的な必殺の『Won't Get Fooled Again』になだれ込み、本編が終了した。
少し間があった後、メンバー再登場。ピートがギターを激しくかき鳴らし、聴き覚えのあるフレーズとなる。これもバンドの代表曲のひとつ『Pinball Wizard』で、原曲は確かアコギのはずなのだが、近年のライヴではピートは通常のギターで弾いているようだ。続いては『Amazing Journey』~『Sparks』で、これはつまり『Tommy』のDisc 1のA面(敢えてこう書かせてもらう)終盤部分だ。特に『Sparks』は、インストナンバーながら緊張感に溢れ、そしてザックのドラムがこれまで以上に映えている。曲が終了し、場内に余韻が漂い、わずかな静寂が訪れた次の瞬間、ロジャーがあのフレーズを歌い出した。
最初のうちは静かでゆったりめに歌っていたロジャーだが、徐々に力が入り、声のヴォリュームも大きくなってくる。単調ではあるが、しかしこれまたあまりにも象徴的なフレーズ。日中はクソ暑かった場内だが、時間的に日が傾いてきて日陰が差してきていたこともあり、やや涼しめになってきていた。そしてこのフレーズをナマで聴いたことが、寒気を感じさせ、背筋をゾクゾクとさせる。曲はそのまま『Listening To You』へとなだれ込み、壮大な叙事詩的なムードを漂わせながら、ライヴは終了。なんと、ピートはそれまで自分が弾いていたギターをスピーカーに叩きつけ、壊してしまった。
フーの持ち時間は90分とされていて、ピートとロジャーの年齢や体力面からして、コレをフルで乗り切るのは難しいだろうと、私は予測していた。なので、途中でピートをフィーチャーしたアコースティックセットを挟む形を取るのかなと、勝手に思い込んでたのだ。ところが実際は、本編+アンコールというよりも、むしろ2部構成で、第2部は『Tommy』をプチ再構築するという形になった。今回フーを初めて観ることができて、それだけでも満足なのだが、ライヴの構成が、ワイト島フェスのライヴ盤の頃の時期の一端を垣間見れた思いがして、重ねて嬉しかった。
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