Magic Rock Out'04 Primal Scream
イギー&ザ・ストゥージズのライヴの興奮も醒めあらぬ中、今度はダブルヘッドライナーのもう一方であるプライマル・スクリームの番だ。フロアは心なしかイギーのときより客が少ない気がするが、なあに始まればまたみんな集まってくるさ。というわけで、定刻より少し遅れて場内が暗転。時間は既に午前1時を回っており、しかも先ほどのイギーのときに大はしゃぎしたこともあり、正直言って、眠い(笑)。
ステージ向かって左の袖の方から姿を見せたメンバー。ボビー・ギレスビーが「say Yeah♪」を連呼して煽り、それに応えるオーディエンス。場内のテンションが一気に高まって行くのが感じられ、このライヴも「来る」という感触だ。オープニングは、近年のツアー通りで『Accelerator』。演奏もボビーのヴォーカルもやや早急気味だが、飾らないあるがままのプライマルの姿がにじみ出ているように思え、ああまた彼らのライヴが始まったんだな、という安心感を得る。
この安心感は、実は危険と隣合わせだ。フェスだ単独だと毎年のように来日しているバンドなので、ともすればマンネリに陥ってしまいがちだからだ(でもこれって、贅沢な悩みだよな)。そしてもうひとつは、ボビーの調子(機嫌)如何によって、ライヴは最高にもなれば、一転して凡庸なモノに留まってしまうこともある。個人的には2002年の単独公演は素晴らしいライヴだったし、それはバンドが『Live In Japan』というライヴアルバムを、しかも日本限定でリリースしてくれたことでも立証されている。かと思えば、昨年夏のフジロックでは、ボビーはマイクをブン投げ、時折不機嫌そうにし、ラリっているのか何なのかと、観ている方が不安にさせられる一幕もあったのだ。
しかし今回の安心感は、間違いなくプラスのものだ。それは、続く『Miss Lucifer』の電撃のイントロが轟いた瞬間に決定付けられた。この曲が次に来るのはわかっていたはずなのに、それでも不意を突かれたようにはっとさせられ、戸惑い、そして次の瞬間に歓喜へと変わった。ライヴハウスでもない、野外ステージでもない、インドアの数千人オールスタンディングという今回の舞台において、私が過去に体験してきた彼らのライヴとは、また違ったステージになりそうな予感がする。
ステージはボビーが中央で、右にはマニとロバート・ヤング。左には、アンドリュー・イネスとケヴィン・シールズ(イギーのときに、フロアでタバコを吸いながらライヴを観ているのを見かけた。禁煙なのに/笑)。後方左にはキーボード、ボビーの真後ろにはドラムといった配置だ。5人のフロントラインも、今やお馴染み。ボビーが曲により軽くリズムを取って踊るのみで、他の4人はほとんど派手なアクションがなく、ただただおのれの楽器の演奏にのみ徹している。
であるにもかかわらず、彼らのライヴは凄い。『Xtrmntr』『Evil Heat』という、近年2作からのエレクトロパンクサウンドがこれでもかとばかりに続けられ、それはステージ上方や側面に設置された、無数のヴァリライトの閃光とシンクロする。観ている方はその音圧に聴覚を奪われ、ライトの閃光に幻惑させられる。曲が終わってメンバーがギターやベースを交換する、そのときすら間延びすることなく、むしろその直前までの演奏の余韻が漂っている。踊り狂っていたオーデイエンスにとっては、ちょうどいいインターバルになっていたのではないだろうか。
1987年にメジャーデビューしたプライマル・スクリームが、こんなにも長く活動を続け、しかも作品をリリースする毎に音楽的な密度を濃くして行けていることを、いったい誰が予想できただろう。『Screamadelica』で一度ピークに達した彼らが、その後行き詰って解散してしまっていても、決して不思議ではなかったはずだ。しかしストーン・ローゼズ解散後にマニをメンバーにし、近年はマイブラのケヴィンをも引き入れている。バンドが深化して行くさまを見届けられたことも、そして今なおリアルタイムでライヴを享受できていることも、ファンとしては嬉しいことだ。
そして、『Screamadelica』期とマニ加入以降とを結び付ける重要な曲が、今や90'sのロックスタンダードと化した感のある名曲『Rocks』だ。先に演奏された『Rise』のイントロが、この曲のそれと酷似しているのもご愛嬌(笑)。タテノリのリズムに場内は揺れ、テンションも上がる。こうしてここまでライヴを体験してきて、時刻が深夜であることも忘れ、またいつのまにか眠気も消し飛んでいることに気付く。
最近のプライマルの作品リリースは、キャリア総括的なものになっている。昨年夏にはフジロックでの来日にリンクするように『Live In Japan』が、秋には『Dirty Hits』なるベスト盤が、それぞれリリースされている。そして今回の来日に際しては、またまた日本限定の裏ベスト『Shoot Speed』といった具合だ。つまりはこれらの作品を聴いておけば、とりあえず今の彼らのライヴには対応できるということになるし、実際私もそうしていた。その中で最も私の気にかかった曲が『Kowalski』だった。
ライヴでのこの曲は、イントロのSEを経た直後の重低音ビートが強烈で、スタジオレコーディングのオリジナルとはまるで印象が異なる曲に仕上がっている。というよりこの曲は、実はライヴで演奏を重ねることによって磨かれ、輝きを増す曲だったのではないだろうか。これは、例えばローリング・ストーンズがヴードゥー・ラウンジ・ツアーにおいて、『It's Only Rock'n Roll』をチャック・ベリー・チックなリフで始めていたことを思い起こさせる。こうしたアプローチができるのも、プライマルが生き残り現役であり続けていることの要因なのだろう。
緊急事態を思わせるイントロから戦闘モードに突入する『Swastika Eyes』で、更に場内のテンションは上がるのだが、この後ちょっとしたハプニングが。ボビーが即興で歌い出し、他のメンバーは慌ててボビーに合わせる。場内も、あれ何が起こったのかなと少しざわつく。この曲は、これまでの怒涛の勢いを覚ますかのようにゆったりとした『Jesus』だった。意表を突く選曲だが、何か特別な意味があったのか、それともただ単にその場の気分でボビーが歌いたかったから歌っただけだったのだろうか。
本編ラストは『Movin' On Up』で締めくくり、そして先ほどのイギーに続いてやはりアンコールが。『Medication』を経て『Jailbird』となるのだが、この曲そしてこのときの演奏にも、先ほどの『Kowalski』と同じようなことを感じた。つまりは、ライヴで鍛え上げることによって、より美しくより深みのある曲へと変わっていっているのだ。リズムが今ひとつルーズなこの曲のことを、私はあまり好きではなかった。ある時期ライヴで演奏されていなかったのにも、納得していた。しかし、今彼らのライヴでこの曲が演奏されないことなどありえない、そんな雰囲気さえ漂うようになっている。そして『Skull X』をオーラスに、彼らのライヴは幕を閉じた。
思いのほか、と言っては失礼かもしれないが、素晴らしいライヴになった。好不調の波が激しいはずのボビーだが、今回は高いテンションを維持しつつ、自らもライヴを楽しんでいるように見えた。なぜそうなったのかというと、そこには彼らより先にステージに立った、イギー・ポップの存在があったからだと思う。パンクのゴッドファーザー的存在としてリスペクトされながら、その地に安住することなく今だ現役アーティストであり続ける、偉大なる先人イギー。その後に同じステージに立つ身として、恥ずかしいライヴはできない。たとえここまで悲壮な決意はなかったにしても、イギーからは少なからず刺激されたと想定される。こうした相乗効果が発生していたのだとしたら、それでこのフェスは成功だ。
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