Magic Rock Out'04 Iggy & The Stooges

 午後6時にスタートしたマジック・ロック・アウトも、時刻は11時半に差し掛かり、いよいよハイライトのときが来た。ここまで5組のアーティストのライヴが行われてきたのだが、正直客入りはさほどでもなく、ライヴが始まってから人が集まってきて、それでもフロア内はまだスペースが充分あるという状態だった。がしかし、今度ばかりは始まる前からフロアには人が密集し、そして異様な雰囲気が漂っている。なぜなら、イギー・ポップがザ・ストゥージズを引き連れてライヴをするからだ。





 イギーコールが自然発生的に沸き起こる中、ほぼ定刻通りに場内が暗転。ステージ後方には「STOOGES」の電飾がお目見えし、歓声のヴォリュームが更に上がる中、メンバーがゆっくりと登場し、それぞれ持ち場に着く。そして最後がイギーで、例によって例の如く、上半身裸にジーンズ姿で、ぴょんぴょん飛び跳ねながらステージに現れた。


 『Loose』『Down On The Street』と、ストゥージズのセカンド『Fun House』からの2連発で、これは実は昨年のフジロックのときと同じ出だしだ。しかし、そのときと今回とで決定的に違っているのは、言うまでもなくバンドである。フジのときは、トロールズという3人組が務めていて、見た目もサウンドもヘヴィーメタル寄り。あくまで脇役の域を出ていなかった(でもイギーでは仕方ないか)。


 しかし今回のバンドは、なんと言ってもストゥージズ。バックバンドどころかイギーと対等に渡り合い、それがイギーが本来持ち合わせているパフォーマーとしての力量に、更に拍車をかけている。イギーはステージ上を忙しく歩き回り、アンプの上によじのぼっては腰を振る仕草をする。マイクを何度も持ち替えて歌うのだが、左手にマイクを持って歌っているときは右手は後方に投げ出していて、このサマになるポーズも相変わらずだ。





 印象的な歪んだリフで始まる、『1969』。このリフはやはりロン・アシュトンその人の指から発せられなくてはならなかった。ストゥージズが活動していたときからは30年以上が経ち、体型こそすっかりご立派になってしまったが、しかしギターの音色の方は相変わらずで、むしろ表現力を増しているのではないだろうか。ロンの兄弟であるドラムのスコット・アシュトンも、パワフルなリズムを刻んでいる。


 ベーシストだけは実はサポートで、現在はザ・フォグとしてJマスキスと活動を共にしている、マイク・ワットである。もともとはJのライヴにロン・アシュトンがゲスト出演して共演したことが、今回のマイクの参加、すなわちストゥージズ再編のきっかけにもなっているらしい。そしてストゥージズの一員としてステージに立つことを許されたマイクは、その役割を充分理解したかのようなプレイをしている。サウンドにせよパフォーマンスにせよ、適度に自己主張しつつバンドとしてのバランスを保っているのだ。


 『I Wanna Be Your Dog』では、途中イギーの姿がステージから消える。恐らくは、最前の柵にへばりついているファンたちとタッチを交わしているのだろう。今回のフロアは左右にブロック分けされていて、その真ん中が通路になっているのだが、イギーはそこまで歩き、そしてフロアに突入したようだ。やがてステージに生還すると、今度は向かって右のスピーカーによじ登ってそこで歌う。


 この怒涛の勢いそのままに、今度は『T.V. Eye』へ。イギーのソロライヴでもストゥージズの曲は演るのだが、それは一部の決まった曲に留まっている。しかし今回は、ストゥージズナンバーのオンパレード。オリジナルのストゥージズが活動していたのは、60's後半の数年足らずのこと。つまりほとんどの日本人は、イギーのライヴは体験してはいても、ストゥージズのライヴは未体験なのである。まさかこの曲が聴けるとは・・・。その曲は人によって異なるだろうが、ストゥージズナンバーに触れられる喜びを噛み締めたのは、私だけではなかったはずだ。





 『Dirt』を経て『Real Cool Time』となり、場内も先ほどの大騒ぎが嘘のように、落ち着いた状態になる。がしかし、ここでまたまたイギーは言い放った。「come on ! come here ! 」と、オーディエンスを呼ぶ。それに呼応するように、前の方のオーディエンスが次々にステージに上がり、2度のフジロックでの『Passenger』のときの状況がまたも発生。今回は屋内である分、ステージ上の騒ぎが余計に生々しい。


 しかしステージに上がる人も、ただ上がるだけならまだしも、イギーにしがみつこうとするのはどうか。これでもしイギーにケガとか機材のトラブルでも起こったら、いったいどうするんだ。イギーもイギーで、よくも懲りずに毎回毎回こんなことするよな(そこがこの人の憎めない部分でもあるんだが)。そんなイギーを支えているのが、終始ステージの袖に陣取っているひとりのスタッフ。イギーの動きに合わせてマイクコードを引っ張ったり、スタンドを立て直したりしている。このときは、必死になってイギーを支えていた。





 イギーのソロライヴでは、ラストに歌われることが多かった『No Fun』。そして『1970』へ。この2曲が立て続けに演奏されることに、ある種の感慨を覚えたのは私だけだろうか。『No Fun』はセックス・ピストルズに、『1970』はダムドに『I Feel Allright』としてそれぞれカヴァーされ、彼らの代表曲のひとつにもなっている。ピストルズは再結成ツアーを繰り返して今や自虐パロディ状態だし、ダムドの方は近年は目立った活動をしていない(96年にデイヴ・ヴァニアン&キャプテン・センシブル名義で来日していたが)。フォロワーを数多く生んでいるイギーだが、フォロワーたちが失速するのを尻目に、この人は未だに現役で突っ走っているのだ。


 そしてここで、ステージ右の袖の方からゆっくりと姿を見せて演奏に加わった人がいた。テナーサックスを吹きまくるこの人は、セカンド『Fun House』に参加していたスティーヴン・マッケイである。当初来日メンバーとしてクレジットされていながら、序盤はステージに姿がなく、あれどうしたのかなと私は不思議に思っていたのだが、ここで登場というわけだ。曲は続いてタイトル曲『Fun House』となり、演奏の密度は更に増して行く。





 昨年リリースされたイギーの最新作『Skull Ring』では、ストゥージズと実に4曲も共演している。今回はそこからも3曲が披露され、タイトル曲と『Dead Rock Star』、そして『Little Electric Chair』で本編は締めくくられた。この前までの5組は、いずれもアンコールなしでライヴを終了していたのだが、イギーのライヴがここで終わるとは到底思えず、場内の雰囲気もそれを許さなかった。もちろん、イギーとストゥージズは再登場。イギーはなんと自らジーンズをずり下ろして半ケツ状態になり、それを戻そうともせずそのまま歌い続け、ラストは『I Wanna Be Your Dog』をリプライズ。1時間20分に渡った夢のようなライヴが、ついに幕を閉じた。

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(2004.3.23.)















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