Brett Anderson  2008.12.9:Shibuya-AX

スウェード解散から早5年。ブレット・アンダーソンは一時期バーナード・バトラーと組んでティアーズとしての活動を行うも、メインは自身の名を冠したソロ活動のようだ。去年のサマーソニックでソロライヴを観てはいるが、そのときはバンドスタイルで、そしてスウェード時代の曲も演奏していた。そして今回、ソロセカンドとなる『Wilderness』リリースにリンクするように、単独での来日公演が行われた。





開演前にアナウンスがあったが、この日のライヴは2部構成とされていた。時間ほぼきっかりに客電が落ち、少しの間SEが流れる。やがて、ステージ向かって左の袖から、女性とブレットが登場。どうやら、この2人だけでのライヴになるらしい。女性は向かって右に陣取りチェロを構える。一方のブレットは、向かって左のピアノの前に座った。ブレットの「one,two,three,four...」というカウントにより、演奏がスタートする。


私はステージ向かって右前方に陣取っていたので、ブレットの姿がちょうどピアノにかぶさってしまい、かろうじて顔面が見える程度になってしまった。ブレットはピアノを弾きながら切々と歌い、女性チェリストはブレットに合わせるようにして淡々と弓でチェロを弾く。だだっぴろいステージには装飾など全くなく、2人のアーティストによる音そのものが空間を彩り、また支配することとなる。


ブレットは曲間を切らすことなく、ほとんどメドレー形式で5~6曲ほどを披露。演奏しているのはだいたいソロになってからの曲で、正直言って私はほとんど聴いていないのだが、ただそれでもシンプルな編成による演奏が緊張感を伴っていて、観る側の背筋も自然と伸びてしまう。後半になると、ブレットはピアノを離れてステージ前方に出てきて、椅子に掛けながらアコギ弾き語りで切々と歌った。もちろん女性の方もブレットに呼応するようにチェロを弾いた。最後はまたピアノに戻ったが、そうして約40分くらいを費やし、第一部が終了。2人は一度袖の方にはけて行った。


インターバルは、約20分くらいだった。第一部がシンプルな編成だったので、では第二部はバンドスタイルになるのかなと想像していた。のだが、ステージ上はセットチェンジが行われる様子もなく、スタッフが椅子の配置などの微調整をしたのみで、ドラムセットなどがセッティングされることはなかった。結局第二部も、ブレットとチェリストの2人だけでスタートしたのだ。





第二部はアコギの方が主体となった。ブレットはリラックスした様子で、適度に「thank you♪」「アリガトウ♪」というMCをしつつ、演奏自体は淡々と進めた。ノドが本調子ではないのか、時折声がかすれることもあったが、それはライヴ全体の出来から言えば大きな問題にはならなかった。一方の女性チェリストは、ほとんど無表情であり、そして終始無言だった。


そしてこの第二部では、スウェード時代のナンバーが次々に繰り広げられた。『Europe Is Our Playground』『Living Dead』は、いずれもシングルのカップリングナンバーだった曲だ。ファンの方なら重々ご存知のことだが、スウェードはシングルにこだわりを持っていたバンドであり、よってカップリングもかなりのクオリティを誇っていた。だからこそ、『Sci-Fi Lullabies』という優れた2枚組カップリング集があるのだ。


披露されるとすればオーラスではないかと予想していた『Saturday Night』も、中盤でピアノ弾き語りで演奏された。更にスウェード時代の曲は続き、それもキャリアを横断するようにファーストやセカンド『Dog Man Star』からもチョイスされていた。去年のサマソニでもブレットのライヴを観ているが、そのときはバンドスタイルでそしてスウェードの曲も演奏していて、どうしてもスウェード時代の曲の方がエネルギッシュでインパクトがあった。なんだかんだ言いながら、ブレットもスウェードやりたいのかなあ、という複雑な気にさせられてしまったのだ。


がしかし、ここでのブレットは、スウェードのキャリアを冷静に見つめ、振り返り、批評性を以て再構築しているように見えた。チェリストと2人だけという編成、アコギやピアノというスタイルというのもあったかもしれないが、これがスウェードが持ち合わせていた独特の美学を浮き上がらせ、場内を感動的な空気で包むことに成功していた。この第二部は、『2 Of Us』を経て、『Asphalt World』で締めくくられた。





さてアンコールだが、これがまさかまさかの『So Young』だった。バーナード時代のスウェードを代表する曲のひとつで、それを今のブレットが演奏するとは思わなかったのだ。もしかすると、今のブレットは何者からも解放されていて、変なこだわりもなく、自由な状態にあって、その状況を生かすことにしたのではないだろうか。『So Young』は、原曲は若さや瑞々しさ、眩しさに溢れた曲だが、ここでは大人っぽさが漂っていて、まさに今のブレットを象徴するかのようだった。


続くは『Everything Will Flow』で、始める前にブレットは一緒に歌ってほしいとMC。サビの「Everything will flow~♪」のフレ−ズになるとブレットはマイクを外し、オーディエンスに歌うよう促していた。そして、オーラスは『Trash』だ。ブレットはアコギを弾かず、そのボディを叩いてリズムを作り、ほとんどアカペラに近い状態での熱唱となった。オーディエンスの合唱比率もこの日最大となり、感動のライヴは幕を閉じた。





予備知識をほとんど持たず、去年のサマソニのイメージを抱いてこの日のライヴに臨んだのだが、いい意味で裏切られまくってしまった。バーナードと組んでティアーズをやっても、自身の名義で活動を始めても、やっぱりどこかにスウェードを引きずっていて、観ていて複雑な思いをさせられることが少なくなかったのだが、この日のブレットを観た限りでは、スティングやデヴィッド・シルヴィアンのように、バンドとうまく折り合いをつけながらソロ活動を進めていけるのではないか、という希望を抱かせる出来だったのだ。




(2008.12.21.)
















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