Mice Parade 2007.6.17:Shibuya O-Nest
Shibuya O-nestに入るのは初めてだった。O-Westと同じビルにあって階は上になるのだが、O-Westの入り口が外の階段になっているのに対し、O-nestはまずエレベーターで6階まで行き、バーラウンジを抜けたところでチケットを切ってもらって、階段をひとつ降りた5階がライヴスペースになっているという具合だ。洋楽アーティストがライヴを行う会場とは思えないくらい狭かったが、開場後しばらくの間は寂しい客入りで、正直ガラガラのまま開演を迎えてしまうのではと不安になった。しかしそれも杞憂で、開演間近になるとなんとか満員に近い入りになった。
まずはオープニングアクトで、ウルトラ・リヴィング。キーボード、ドラム、ギター、ウッドベースの日本人4人組で、キーボードの人がリーダーらしく、1曲毎にMCを入れていた。曲はヴォーカルが入ったものとインストとが半々くらいだったが、正直言ってヴォーカルには難があり、演奏を締まりのない感じにしていた気がする。インストは聴く側も音のみに集中できるので、彼らの技術を堪能することができた。彼らのライヴをダグ・シャリンがステージの袖から見ていたのだが、やがてダグも加わって、ツインドラムでのジャムセッションがしばし繰り広げられた。
セットチェンジは、スタッフだけでなく本人たちも行っていて、やがて再び場内が暗転。いよいよマイス・パレードのライヴスタートとなるのだが、まずはアダム・ピアースひとりだけが登場。意外に大柄で、ヒゲの生え具合が写真で見ていたほどでもないこともあり、表情自体は若々しく感じた。そして、なんと腹が大きく出ていた・・・。アダムがエレアコ弾き語りで1曲を披露した後、他のメンバーがステージに登場してフル編成となった。
そのメンバーだが、ダグは後方のドラムセットに収まっている。前方はというと、まず中央左にアダムで、箱に腰掛けている(ハコはこの後活躍するが、詳細は後述)。その左にはエアロスミス『Draw The Line』のジャケがプリントされたTシャツを着たイケメンのベーシスト、及びシンセサイザー。向かって右には、まずアダムと並ぶようにしてメガネのギタリスト(なぜかO-EastのTシャツを着ていた)が腰掛けながらエレアコを弾き、その右にはビブラフォンのディラン・クリスティが。
そして右端にいるのが、紅一点のキャロライン・ルーキンだ。体は華奢で、表情は瞳がくりっとし、口元に薄い笑みを浮かべていて、レコーディングや去年のツアーに参加していた元Mumのクリスティンとはまた異なる、不思議な魅力を備えている。後になって知ったのだが、彼女は日本で活躍している女性シンガー、オリヴィア(テレビアニメ「Nana」のオープニングテーマ等)の実妹だった。そのオリヴィアも、自身のHPでキャロラインがマイスパレードのメンバーとして来日していることを告知していた。
演奏は、まずダグのパワフルにして緻密なドラミングがベースとなり、アダムともうひとりによるツインギターが前面に出ている。ディランのビブラフォンは、音量こそ大きくはないのだがきらびやかな音色が心地よく響き渡り、アクセントをつけることに成功している。キャロラインはiBookを操作してサンプリングを発しながら自らも歌い、それが絶妙なスパイスとなっていた。そしてアダムが腰掛けているハコは、実は「カポン」という打楽器だった。曲によりアダムはギターを手放してカポンを叩き、それがダグのドラムとのツイン状態になって、魔法のようなリズムが刻まれていた。
中盤、他のメンバーがステージから去り、ギターの人だけが残ってソロプレイを繰り広げるコーナーがあった。そして今度は、その人と入れ替わりにトム・ブロッソウというシンガーが登場。トムは今回のマイス・パレードの公演に帯同し、他の公演ではオープニングアクトとして出演していた。のだが、この日だけはマイス・パレードのライヴ中に登場という、やや変則的な形に。マイス・パレードのツアーTシャツを着ていて、体型はかなり細身。そしてその表情は、穏やかと言ったらいいのか、はにかんでいると言ったらいいのか、自信なさげとでも言ったらいいのか。
さて、ここで私がこの日どの辺のポジションで観ていたかを明かそうと思う。整理番号が早かったこともあり、私はステージ向かってやや右の最前列に詰めることに成功していた。その「向かってやや右」というのは、ちょうどトムのまん前だったのだ。狭いステージにはやたらと機材が並べ立てられ、コードも張り巡らされ、プレーヤーたちが歩くのもままならない状態になっていた。まずトムはセミアコにプラグを挿そうとしたのだが、プラグは彼の立っている場所から離れたところにあった。そこでトムはどうしたのかというと、なんと目の前にいる私にセミアコを預けてきたのだ(驚)!
アーティストがライヴで使っている楽器を、しかもライヴの最中に手にしたのは、もちろん生まれて初めてのことだった。手にして思ったのは、びっくりするくらい「軽い」ということだった。また木目ボディには艶が出ていて、この人がギターを大事に扱っているんだなあということも感じることができた。やがて、プラグを持って来たトムにセミアコを返し、演奏がスタート。レッド・ツェッペリンの曲と言って始めた『In My Time Of Dying』や(もともとはトラディショナルソングなのだが)など、3曲を披露してくれた。途中トチってしまって、そのときのトムはやっちゃった~的な表情をしていて、そのありさまにまた和まされた。
この後他のメンバーがステージに戻ってきてトムに加わり、そしてトムがリードヴォーカルを取るスタイルになった。これこそが、この日だけ実現したスペシャルな編成だったのだ。ベースの兄さんが曲によりギターと使い分けていたので、最大ではギタリスト4人という状態にまでなったと思う。演奏は緩く穏やかに始まって、トムはピクシーズの『Where Is My Mind』のカヴァーなどを披露してくれた。
そしてトムがステージを去り、いよいよラストスパートとなる。事前の告知ではアコースティックセットとされていたが、フタを開けてみればほとんど通常スタイルでのパフォーマンスになった。ダグの発するビートが徐々にパワフルな方向にシフトし、それに呼応するようにして他のメンバーにも力が入ってきた。ジャムセッションの様相を呈するようになり、1曲1曲がクライマックスのような状態に。音響系と言われていながら、ライヴの場では生々しさを表現できるのが、マイス・パレードの強みだ。
そんな中で『Two,Three,Fall』のイントロが流れたときには、場内から大きなどよめきが起こった。ここまで息詰まるような攻防が繰り広げられ、そして本編が終了。ここまでやってしまっては、アンコールは到底望めないのではと思っていたのだが、ステージの袖に立っていた日本人(プロモーターの人?)は、もっともっと、というように拍手を煽っていた。少ししてバンドが再登場し、更に2曲ほど演ってくれた。客電がついたとき、時計は夜の10時をとっくに回っていた。
会場を出るためには、まず階段を上がって6階のバーラウンジに行き、そこからエレベーターを使わなければならなかった。最前列にいた私は、逆に退場時はほとんど最後の方になったのだが、6階に上がってみると、いきなりアダムがくつろいでいてびっくり。一瞬だけ躊躇したが、ここで何を迷うことがあるのかと開き直り、握手をしてもらった。そしてまた少し歩いてみると、今度はシンセサイザーの兄さんと一緒にキャロラインがいて、やはり握手。同じ目線で見ることで、改めて彼女の可愛さが伝わってきた。矛盾するような言い方だが、悪くない小悪魔みたいだ(笑)。
この階には物販コーナーもあって、前座を務めたウルトラ・リヴィングのスタッフが大声をあげて懸命にアピール。その脇には当然トムやマイス・パレードのコーナーもあるのだが、売り場に立っていたトム本人とも目が合ったので、手を振ってみたら返してくれた。更にエレベーターの方に歩いていき、待っていると、イケメンのギターの兄さんと話し込んでいるファンがいた。そしてエレベーターに乗る直前、今度はディラン・クリスティが楽屋から出てきたので、がっちりと握手をしたのだった。
(2007.6.24.)