Mice Parade 2006.3.4:Club Quattro

 開場してからしばらくの間は、場内はガラガラだった。土曜日の公演なのにお客さん少ないのかな、がらがらすかすかな中でのライヴになっちゃうのかなと、少しあせった。しかし、時間が経つにつれて徐々に人が集まってきて、開演時間に差し掛かる頃にはほぼ満員になり、なんだかほっとする。


 まずはオープニングアクトで、Mum(ムーム)のグンナル・ティーネスのソロプロジェクト、イリ・ヴィルだ。グンナルは、既にマイス・パレードの機材のセッティングがされている中を、向かって左に陣取っている。グンナルはハーモニカを吹き、そしてサンプリングが流される。操っている機器が、キーボードなのかそれとも他の電子機器なのかがよくわからず(よく見えなかった)、鍵盤を叩いているというよりは、サンプリング音に対して更にその場で音を編集しているようにも見えた。眠気を誘う音の世界でもあったが、心地よいひとときを過ごすことができた。





 セットチェンジに30分近く費やされた後、スタッフらしき人数人と、アダム・ピアースが登場。アダムが通訳だと言って日本人の男性を紹介するが、結局自分でぺらぺらしゃべっただけで、通訳さんの出番はなし。今日はたくさん集まってくれてありがとう、でもみんな静かだね~的なことを英語でしゃべり、場内からは笑いが漏れる。その後、日本人女性をヴォーカルに据え、アコギ弾き語りを始める。ユカニベッドヲコシラエテ~♪という、意味不明な日本語の歌だった。


 この後他のメンバーも登場し、やっとマイス・パレードのライヴがスタート。アダムはドラムセットに収まり、ドラマーがもうひとりいてツイン編成に。他にはギターが2人、キーボード、ビブラフォン(私はステージ向かって右の方で観ていて、ステージ右後方にいたこの人の姿はほとんど見えなかった)、そしてMumのクリスティンと、狭いステージは総勢7人によって埋め尽くされる。





 私がこのバンドのライヴに行く決め手になったのは、音の美しさもさることながら、作品にゲスト参加しているクリスティンが、ツアーに帯同することがわかったからだ。Mumのライヴも過去フェスや単独などで3度観ていて、クリスティンのパフォーマーとしての資質に惹かれている。彼女は向かって右側に陣取っていて、電子機材をちょこちょこと操りながらヴォーカルを披露。あの独特のウィスパーヴォイスは、密閉された場内で聴くとより鮮明で、そしてより生々しい。


 そのクリスティン、Mumのライヴでは異世界から現れた妖精のような、ただならぬ妖気を発しているように見えたのだが(観る側の過剰な思い入れだろうか)、ここでは気負った様子もなく、楽にやれているように見える。そしてそれはクリスティンだけでなく、他のメンバーにも共通している。気負わず飾らず、リラックスしてプレイできることが、このユニットのいいところなのかな。





 ツインドラムは序盤2曲程度に収まり、アダムは前の方に出てきてギターを弾き始める。曲間が切らされることがあまりなく、3~4曲がメドレー形式で演奏される。私が判別できているのはアダムとクリスティンだけなのだが、他のメンバーもそれぞれに芸達者なところを見せてくれる(ビブラフォンはディラン・グループの人、スキンヘッドのドラマーはHIMの人、らしい)。途中機材トラブルがあり、アダムやクリスティンとPAスタッフがやりとりする場面があって、ライヴの進行が中断されもしたが、以降はコンビネーションが密になり、演奏が引き締まってきた。


 アダムはパーカッションと思しきプレイをすることもあり(これもよく見えなかった)、クリスティンは電子機器だけでなくアコーディオンも操っていた。中盤まではクリスティンのヴォーカルをフィーチャーした曲が多く演奏され、時にはアダムとのツインヴォーカルになりもした。そして終盤は、インストナンバーを徹底。緊張感がみなぎり、時間の経過を忘れさせるような即興演奏が延々と繰り広げられる。序盤で私が感じた楽とかリラックスとかいう雰囲気はもうなくて、これこそがこのバンドの本領なのだと気づかされる。


 即興演奏も終盤に差し掛かり、これで終わりかな的な雰囲気になったところで、自然発生的に場内から拍手が沸き起こる。いつのまにか、キーボードの人とクリスティンも拍手をしていて、バンドとオーディエンスがひとつになった。この拍手攻勢がしばらくの間続いたところで、再びフルバンド演奏にシフトチェンジ。一体感によって集約され充満したエネルギーが、更に高みに上げられたような感覚になり、本編が終了した。





 アンコールはないと聞いていたが(この公演に至るまでに大阪や京都、名古屋で行われたのだが、これらの地ではなかったらしい)、なんとこの日はアンコールでメンバーが再登場した。そして、最初のよくわからない日本語の曲のときと同様、身元不明な(笑)日本人女性が再び登場して、8人編成となる。アダムはドラムスティックを握って、つまり再びとなるツインドラムに。日本人女性は、やりにくそうではあったが、アーアーという、歌というより音響の一部に近い声を発する(途中クリスティンがサポート)。最後はアダムを筆頭にメンバーがひとりずつステージを後にし、最後はスキンヘッドのドラマーが袖の方に消えたところで、客電がついた。





 この日のライヴでは、実はイリ・ヴィルのほかにもうひと組オープニングアクトが予定されていた。ナイス・デイズ・ワンダーというバンドだったのだが、アーティストの都合により出演中止という告知が、会場外の掲示板にされていた。ではあるが、アクトがひと組減ったことによって、メインであるマイス・パレードの世界観に、より深く浸ることができたと思う。クリスティンやグンナルの、Mumとは別の一面も観ることができたし、とても満足度の高いライヴになった。





(2006.3.5.)




















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