British Anthems 2007.3.3:Studio Coast

クリエイティヴマンとHMVとのコラボレートによって行われているイベント、ブリティッシュ・アンセムズ。第1回は2ステージ制で10組以上のアクトが出演したが、限られた時間と場所の中に詰め込みすぎた感が否めず、イベントとしては散漫な印象が残った。昨年12月に行われた第2回では若いバンドを中心とし、アクト数も絞った形を取り、おおむね好評だったと聞いている。そして今回だが、ステージはひとつで、アクト数はUK5組に日本3組という編成に。個人的には第1回以来の参加で、会場に足を運んだ。





Great Adventure

 メジャーデビューを果たし、レコーディングにせよライヴにせよ、着実にキャリアを積んでいる様子。演奏されたのは、最新アルバムからの曲が中心だったと思われる。フロントのヴォーカリストのみならず、ドラマーやベーシストもそこそこに自己主張していて、バンドとしてのコンビネーションも深まっている様子。ただ観ていて思うのは、自分たちの音楽をより多くの人に届けようという姿勢が感じられず、限られた自分たちのファンしか意識していないのではということ。相変わらずのひとりよがりなMCやパフォーマンスぶりが、あまりにも滑稽だからだ。



Noisetts

 新人スリーピースバンドで、キーマンいやキーウーマンは、ジンバブエ出身という女性ヴォーカルのシンギーだ。彼女は最初の曲ではギターを弾いていたので、あれこのバンドベースレスなのかなと思ったら、2曲目になるとベースに持ち替え、歌主体のパフォーマンスへとシフト。演奏そのものは最初は危なっかしいところがありはしたが、それも徐々に持ち直してきて、引き締まった緊張感に満ちたパフォーマンスに。音はスカスカしたガレージロックといった感じだが、新人らしい初々しさが溢れ、今後の活躍ぶりが楽しみと思わせるものを持っている。



The Pillows

 観るのも聴くのも今回が初めてだが、バンド自体は89年デビュー、つまりキャリア20年に届こうかというベテランだ(後で調べてみたら、メンバーの中には40歳を越えている人もいた)。ステ−ジに立っているのは4人だが、ベーシストはサポートらしい。音はオーソドックスなギターロックなのだが、演奏そのものに深みがあり、長年活動を続けてきたという年輪を感じさせる。途中、曲間でフロアにいた酔っ払っていたらしい外人客が野次を飛ばしていたのだが、ヴォーカルが「欧米か!」と軽くいなして場内の笑いを誘っていて、この余裕ぶりも見事だ。



The Rakes

 まずメンバー4人が、マッドネスのようにムカデ歩きでステージに登場。てっきり新人かと思ったら、既にアルバム1枚をリリース済で、今年セカンドをリリース予定というタイミングのようだ。音はポストロック風ではあるが、メロディーがポップでキャッチーで親しみやすい。そしてもっと親しみやすいと感じたのは、ヴォーカリストとギタリストのアクションだ。ふたりともまるで江頭2:50のようなユニークな動きをし、特にヴォーカリストなど、盆踊りを直線的にやっているようにも見て取れた。「笑える」「痛い」のと、スタイリッシュであるところのスレスレを行っているが、当人たちはあれでイケてるつもりなのかな?



ストレイテナー

 シングルを2ヶ月連続でリリースし、この公演の翌週にはアルバムをリリース。単独公演は発売即完売状態で、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのテナー。その彼らを、このタイミングで観られるのはラッキーだ。私はまず、掛け持ちをしているZazen Boysを先日脱退した、ベースの日向に注目した。Zazenでは向井秀徳にぶつかっていき、テナーではホリエやナカヤマを立てる側に回っていた、というのがこれまで観て受けてきた印象だった。がしかし、ここでの日向は重荷を下ろし自由になったかのようで、それがプレイぶりにも反映され、抜群の存在感を放っていた。


 持ち時間が限られていることもあり(ここまでのアクトは、約20~25分くらいだった)、前半は間髪入れず3曲を立て続けに連射。前述の日向、ドラマーのナカヤマ、そしてホリエと、おのおのが力の入ったプレイをし、観る側を惹きつける。ホリエがエレピを弾きながら歌う、テナーとしては新展開の佳曲『Six Day Wander』でシフトチェンジするも、続いては日向の変幻自在のソロを経ての『Speedgun』となり、ラストは最新シングル『Train』できっちり締めた。この日は彼らにとってはアウェーのステージだったはずだが、この日初めて彼らのライヴを観たファンでも、手ごたえを得た人たちはいたに違いない。



The Bluetones

 ブリットポップ期にデビューしたベテランで、本来ならトリを飾ってもおかしくないだけのキャリアを刻んでいるブルートーンズ。がしかし、そうしなかったのは正解だったと、彼らのパフォーマンスを観て納得させられた。ドラマー以外はジャケットを着こなしているのだが、これがどう見てもスタイリッシュとは言い難く、ローカルバンドのたたずまいがありあり。そして見た目だけでなく、曲そのものが地味でインパクトを欠き、場内はまったりムードになってしまった。ただこれはこれで味があり、1曲1曲を丹念にじっくりと演奏し披露してみせるのが彼らの手法なのだという、説得力があった。彼らの看板曲『If...』では場内が沸き、熱心なファンも多数集まっていた様子だ。



Maximo Park

 この日、ステージのバックドロップにはイベントのトレードマークであるピンク地のユニオンジャックが飾られていたのだが、彼らのときだけバンドのロゴがその上にかぶせられた。セカンドアルバムのリリースを目前に迎えての来日で、個人的に観るのは2005年のフジロック以来。そのときは、フロントマンのポール・スミスは髪を1:9分けにしていて、スーツ姿がよく似合 っている、クールなインテリ風のたたずまいだった。がしかし、この日のポールはジャケットをラフに着込み、ハットを被り、そして後ろ毛を伸ばしていて、カジュアルなたたずまいに変貌していた。


 変わったのはヴィジュアル面だけではなく、パフォーマンスそのものもだった。それも、予想を大きく超えて肉体性溢れるライヴバンドへと成長を遂げていたのだ。ポールはステージ上を右に左にと動きながら熱唱し、ジャケットも序盤で脱ぎ捨てて白いシャツ姿になり、圧倒的な存在感を示していた。2年前は、有力ニューカマーの一角を占めていながらもカイザー・チーフスの後塵を拝している感が強かったが、ここでの彼らは溢れるエネルギーをオーディエンスに向けて惜しみなく発信していた。曲がほとんどファーストからだったのが少し残念だが、この日のベストアクトだったと言えよう。



Idlewild

 復活のアイドルワイルド!といった感があるが、別にバンドは活動を止めていたわけではなく、コンスタントに作品をリリースしていたし、ツアーもこなしていたようだ。それなのに「復活」「帰還」のように思えてしまうのは、来日するのが実に9年ぶりで、つまりほとんどバンドの新人時代以来になるからだ。フロアは当然のこと満員すし詰め状態になっていて、メンバーがゆっくりとステージに登場するや否や、場内の熱狂ぶりもこの日最高潮に達した。如何に彼らが、「待たれていた」バンドだったかが伺える。


 演奏は意外やラウドでヘヴィーで、ガレージに寄っていた。2人いるギタリストが発するリフがノイジーで、だけど曲そのものが備えているポップでメロディアスな面は生かされている。びっくりしたのはヴォーカルであるロディの「声」で、フレーズによってはモリッシーにかなり似ていて、曲によってはスミスがラウドになったかのような感覚を受けた。9年ぶりの来日ということはロディも自ら語っていて、こんなに待たせてゴメン、でも僕たちもまた日本に来れて嬉しいんだとばかり、自由度が高く解放感に満ちたパフォーマンスをしてくれた。ヘッドライナーの特権か、この日唯一となるアンコールも実現して、ピースフルな雰囲気が漂う中で彼らはイベントの幕引きをした。








 スタジオコースト内の、フロアとはロビーをはさんで反対側にDJステージが設営され、こちらは開場時からフル回転していた(しかし、客入りは厳しいものがあった様子だけど)。また出演アクトの多くがサイン会を実施し、会場でCDを購入し参加券を得た人はサインをもらっていた。食事については、屋外のスペースにワゴン車が3、4台ほど立ち並び、他のフェスティバルでも見たことのあるような各国料理が販売されていた。またこれは蛇足だが、ノイゼッツの巨漢ドラマーが普通にフロア内を行き来していて、時には他のバンドのライヴを楽しんでいたのが印象に残った。


 イベントは13時開場で20時半終演という長丁場となり、このためか入場時には2ドリンク1,000円が強制徴収された。これにはさすがにびっくりしたが、このイベントのいいところは、リーズナブルな代金で多くのバンドのライヴが観られることにあると思っている。大物アーティストの単独公演や、大規模で行われるロックフェスティバルのチケット代が高騰する流れにある中では特異なことだが、ここまで3回続けたことは評価したいし、イベント自体は今後も続けて欲しいと思っている。個人的に琴線に触れるアーティストがエントリーされれば、是非また参加したい。




(2007.3.18.)


















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