椿屋四重奏 2006.9.18:Club24 Yokohama
会場のClub24 Yokohamaは関内の繁華街から少し外れたところにあり、ひっそりとしたところにあった。ビル向かいの歩道に、まるでラーメン屋の行列のように整理番号順に並び、係員の指示によって横断歩道を渡って入場する。ビルの階段を降りてドリンク代を払うと、右手側がすぐフロアになっているのだが、あまりの狭さにびっくり。4月にグルーヴァーズやロックンロールジプシーズを観た、下北沢Club251くらいの広さかなと想像していたのだが、その半分くらいのスペース。そこに、400人もの客が押し込まれている格好だ。バーカウンターは左手奥にあるのだが、整理番号が遅く入場もほとんど最後だった私は右後方に留まらざるをえず、開演前にドリンクをもらうのを諦める。
予定時間を5分ほど過ぎたところで客電が落ちると、フロアにも動きが出始める。熱心なファンが前の方に詰め掛ける一方、私は少しだけ左の方に移動して観やすいポジションを確保。歓声が飛び交う中、ドラマー、ベーシスト、ギタリスト、と、メンバーがひとりずつ暗いステージに登場。最後に出てきたのがフロントマンの中田で、ここで歓声のヴォリュームが一段と上がり、演奏が始まったところでステージが明るくなった。
ライヴは『手つかずの世界』でスタートし、続いて早くもシングルカットされている『幻惑』に。キャパシティの小さいライヴハウスでワンマンでしかもソールドアウトともなれば、完全ホーム状態でのライヴになるのも必然的で、客のノリ方も尋常ではないくらいに熱い。その客層だが、若い女性が圧倒的に多い。そのおかげで、後方にいてもステージが客の頭でさえぎられることなく見渡せるのだが、ステージそのものが低くて、メンバーのバストアップしか見えない状態だ。
そのメンバーだが、中央にはギター&ヴォーカルの中田。向かって左にベースの永田、右にギターの安高、そして中田の後方にドラムの小寺という配置。全員黒いシャツ姿で、中田は黒白のネクタイを締めていた。小寺は、中田の影になっていることもあってその姿はほとんど見えないが、リズムキープと時折見せるラウドなドラミングによって、その存在感をアピール。永田のベースも結構クリアに聴こえ、リズム隊の活躍は申し分ない。ギターの安高はグラサンをかけていて、その表情まではなかなか伺えないが、ギターのリフは結構ノイジーで、プレイも結構荒っぽい。
そして中田だが、言うまでもなくバンドの中軸であり顔である彼に向けられる客の視線は当然のこと熱く、そして中田もそれを受け止めたかのようなプレイをする。歌うときはマイクスタンドを前にヴォーカルに集中するが、間奏に差し掛かるとスタンドを離れてギタープレイに没頭し、ステージの前方ににじり寄って客を煽るかのような仕草をする。MCを担当するのももちろんこの人で、この日の公演がソールドアウトになっていることを嬉しく思い、感謝している様子だった。
バンドは先日シングルをリリースしたばかりなのだが、この場では更に新曲も披露。『東京イミテーション』と『プレイルーム』の2曲で、リリースに先駆けてライヴで演奏することで曲を熟成させていこうという狙いなのか、あるいは未発表の曲をプレイして客のリアクションを伺おうというのか、はたまたファンに向けてのプレゼントという意味合いなのか、とか、いろいろ詮索してしまう。
私が初めてこのバンドを観たのは去年のソニックマニアで、当時バンドはトリオ編成だった。このときはこのときで、演奏は引き締まっていたし、中田の憂いを帯びたヴォーカルも引き立っていて好感を覚えた。そして今だが、安高のギターが加わったことで中田とのツインになり、特に間奏になったときの音の厚みが凄まじくなり、ロックバンドとしての密度が格段に濃くなった。CDで聴くと、このバンドの楽曲が持つレベルはかなり高いとは思うが、反面整い過ぎているという物足りなさも感じている。しかしこの場では原曲よりはるかにラウドでノイジーで、このバンドが紛れもなくライヴバンドであるということを、改めて思い知らされる。
後半に差し掛かる手前で、もしかして恒例なのか、メンバー紹介のコーナーになる。中田がひとりずつ紹介し、された側は短いながらソロをこなす。そして安高の番になったのだが、この人はいつのまにかサングラスを外し、素顔をオープンにしていた。中田に振られた安高はなぜかラップ調のMCをし、これがかなりの好リアクション。そしてギタープレイにシフトするのだが、硬派っぽいルックスとは裏腹のコミカルな人柄を垣間見ることができ、この人の加入は単にギタープレーヤーとしてだけでなく、こういう効果もあったのかと思い知らされた。
そしていよいよ終盤だが、中田はギターを手放し、マイクをスタンドから外して手に持って熱唱。ステージ上を右に左にと歩き回り、前方ににじり寄り、と、アクションも大きくなる。こうして中田がヴォーカルに専念できるのも、安高の加入があればこそだろう。名前の通り「四重奏」になったことで、楽曲的にもライヴパフォーマンス的にも、バンドとしての幅は格段に広くなった。場内のテンションも尋常ではない高さになってくる中、曲は『サイレンス』から『螺旋階段』と続き、本編ラストは『踊り子』で締めた。
あまり間を置かずにアンコールとなり、メンバーが再登場。場内にはいちおう冷房が効いているはずなのだが、開演当初から暑く、黙って立って観ている私でさえ顔面と背中が汗でびっしょりになっていた。バンドの方は言わずもがなで、中田はシャツもパンツも汗だくで、肌に張り付いている様子だ。演奏は『紫陽花』でしっとりと始まり、そして客とのコール&レスポンスを経て、オーラスは『君なしじゃいられない』。最後は4人が並んで礼をして締めくくり、約1時間45分という、バンドのキャリアと会場のキャパシティからすれば、多すぎると言ってもいいヴォリュームのライヴは終了した。
このバンドが未だインディーレーベル所属なのが信じられないくらいで、今後ますます露出の度合いが増すのは必然と思われる。個人的には、現時点においても楽曲はドラマの挿入歌として起用されていいレベルにあると思っていて、番組やCMとタイアップされたり、メジャーな映画のサントラに使われる機会があったりすれば、一気にメジャーブレイクする可能性も十分にある。
ただ、その反面気になることもあって、それはバンドの売り出し方だ。「四重奏」であるにもかかわらず、ジャケットには中田ひとりだけが起用されることが多いのだ。最新シングルの『トワ』もそうだし、これがそのままツアーのポスターにもなっている。中田はフロントマンであり、ルックスもいいだけに、若い女性ファンを呼び込むのにはこの方が好都合なのかもしれない。だけどそれがエスカレートして、バンドとしてでなく中田個人の活動が増えるようになり、バンドが消失なんてことにはなってほしくない。実際中田はいろいろこなせそうだし、後で調べたら去年既に映画にも主演している(『紫陽花』はその主題歌だった)。個人的には久々に出会った「硬派な」日本人バンドなので、バンドとしての成長を遂げて欲しいと思っている。
(2006.9.19.)