Dinosaur Jr. 2006.2.26:Shibuya-AX

 昨年突如オリジナルメンバーで再結成したダイナソーJr.が、フジロックに参戦した。野外に轟音を轟かせ、バンドとしてのコンビネーションもよく、いいライヴだった。ただ持ち時間の制約がタイトなフェスという舞台で、約1時間のステージには若干の物足りなさを感じていた。それが今回、早くも単独での再来日が決定。もう観れないのではと思っていたのに、今度は制約もなく、そして再びあの轟音に触れることができるのだ。





 この日のチケットは完売。場内1階フロアがすし詰め状態の中、予定より5分後くらいに客電の一部が落ちる。しかしバンドが登場する気配はなく、相変わらずスタッフがステージ上で作業。こんな状態が10分近く続いた後で、ようやく向かって右の袖から3人が登場した。オープニングは、歌いだしこそゆったりめだが、途中から爆音に切り替わる『Bulbs Of Passion』だ。


 ステージは、ドラムセットが中心となり、左右にアンプやスピーカーが並んでいる。ベースのルー・バーロウが向かって右に、Jマスキスが左に陣取っている。ルーとドラムのマーフはラフなTシャツ姿で、Jは肩から腕にかけて白いラインの入った黒のジャージを着ていた。曲が終わるとルーとマーフはミネラルを摂ったり汗を拭いたりするが、Jがそうしたことをする様子はなく、軽くギターを弾いたり、あるいは交換したギターのチューニングをしたりしている。


 序盤はステージが暗めで、照明も後方からメンバーを照らすような形になっており、つまりメンバーがシルエット姿になっていて表情や細かい手先のプレイがよく見えなかった。ルーはまるでギターを弾いているかのような、勇ましいベースの弾きっぷり。マーフはパワフルでアグレッシブにリズムを刻み、発汗が激しいのか、途中からキャップを脱いでスキンヘッドをオープンにする。しかしJだけは、疲労を見せるでもなくまた感情を込めるでもなく、なんだか得体の知れない底なし沼のような不敵さを漂わせている。ギターを弾くときのアクションもさほど大袈裟ではなく、上体を前後に揺らす程度だ。





 選曲は、もちろんこのメンバーで作られた初期の3枚からとなる。この時期の顔的な曲である『Little Fury Things』をはじめとして、次から次へと爆音で曲がかき鳴らされる。間奏でのJのギターソロも冴え渡り、『Forget The Swan』ではいつ終わるともしれないプレイを繰り広げる。まるで何かが憑依したかのように、神がかり的なプレイを延々と続けるJ。ゆらゆら帝国の坂本慎太郎も、たとえ無自覚的にしろJのプレイから影響を受けているのではないだろうか。


 途中ルー側で機材トラブルがあって、ルーはベースを交換。しかしそれでも事態は収拾されない様子で、結局元のベースに持ち替えていた。どうやら、エフェクターの調子が悪くなってしまっていたようだ。しかしそれで演奏が中断されることはなく、その間マーフはドラムを叩き続け、Jはルーの様子を伺いつつも、手を休めることなくギターを弾き続けていた。


 その昔、Jとルーは仲違いしルーがバンドを脱退。マーフもしばらくは参加していたが、やがてこの人も脱退している。ではあるが、歳月はそうしたどろどろしたわだかまりも解きほぐしてしまうのだろうか。そして目の前の3人を観て思うのは、共に気心の知れた仲間というか、戦友のような感じで、お互いが楽になれていて気持ちよくプレイできているのではないかということだ。





 本編は『Sludgefeast』で締め、ここまでで約1時間程度。この後アンコールを1回やって、1時間15分くらいで終わりかななんて予想をしてみるが、それはこの後見事なまでに覆される。それもいい方にだ。まず1回目のアンコールは、『Freak Scene』に『Mountain Man』。特に前者はダイナソーのキャリアを通じての代表曲なだけに、場内の熱狂ぶりも尋常ではなくなる。メンバー3人それぞれのプレイにも一層力が入っているように見え、観ている方も全身が熱くなった。


 メンバーがステージを去るも客電がつく気配はなく、これはもしかしたら2回目があるのかという期待が膨らみ、それは拍手の渦に反映される。そしてそれはまもなく、現実となった。放たれたのは、キュアーのカヴァー『Just Like Heaven』。サビでの咆哮はルーが担当だ。そしてこの次が、なんと『The Wagon』!!!まさか!?この曲も『Freak Scene』に並ぶダイナソーの代表曲だが、作られたのはルー脱退後の作品『Green Mind』であり、よって今回のツアーでは演奏されないものと思っていた。しかしJは嬉々として歌いながらギターを弾き、サビではルーがウラ声でコーラスをしている。おお、こんな光景を観られる日が来るなんて・・・。


 2度のアンコール、そして『The Wagon』というボーナスが出たこともあり、これでライヴは終わったという雰囲気が漂った。実際、出口に向かう人も少なくなかった。しかし、やはり客電は点灯する気配がない。一瞬下がった場内のトーンだが、ここでまた、更なるアンコールを願う拍手が大きくなってきた。そして、3人は3たびステージに生還した。まさかの3度目のアンコールが、始まったのだ。曲は『Does It Float』『Lung』の2曲。しかしどんな曲をというより、バンドがここまでしてくれていることに、頬が緩みっぱなしである。結局、アンコールだけで約50分にも渡ってしまい、トータルだと2時間弱、非常にヴォリューム感のあるライヴになって、十分すぎるほどに満足した。





 3回に渡るアンコールのライヴなんて、いったいいつ以来だろう。そして、Jマスキスをはじめとする3人の旺盛なサービス精神と、それをしながら少しもテンションが落ちないという技量に、改めて感服する。当初再結成は一時的なものと思われたが、ルー・バーロウのサイトには新作を制作中というコメントもあるらしい。同じく解散し長いブランクを経て再結成したピクシーズが質の高い活動をしているように、今後ともダイナソーからはいい便りが届けられそうだ。





(2006.3.3)
















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