Oasis 2005.11.20:代々木競技場
夏にはサマーソニックのヘッドライナーとして来日したばかりのオアシスだが、再来日は思った以上に早く実現した。そのサマソニのときは、場内のテンションは尋常ではないくらい高かったが、今回は1曲1曲をじっくりと堪能することになると思う。私の座席も2階席上段からアリーナ8列目と格段によくなり、パフォーマンスはもとよりメンバーの一挙手一投足まで拝むことになろう。
予定時間を10分ほど過ぎたところで客電が落ち、近年のオアシスのライヴでのオープニングテーマである『Fuckin' In The Bushes』のSEが流れる。真っ暗なステージを、機材を縁取るようにあしらわれた電飾が光る。やがてステージ向かって左の袖からゆっくりとメンバーが登場し、新譜『Don't Believe The Truth』のオープニングでもある『Turn Up The Sun』でライヴは始まった。スロー目の地味な曲調ではあるが、バンドの自信がにじみ出ていると見ることもできる。続いてはアンセム『Lyla』で、わかりやすいサビのところは当然のように大合唱となる。場内は、ここで最初の沸点に達した。
ステージ中央のリアムは白い6つボタンのジャケットを着ていて、体型はサマソニのときより幾分絞れているように見える。髪が少し伸び気味で、特にもみあげが長い。右手はタンバリンを持ったまま後ろ手にしていて、左手はパンツのポケットに突っ込んでいる。リアムの右にはノエル、左にはアンディ・ベルとゲム・アーチャー。3人とも細身で華奢だ。アンディはロングTシャツでラフな格好、ノエルとゲムはジャケットをカジュアルに着こなしている。ノエルの後方には、今回もキーボードのジェイ・ダーリントンが陣取っている。そしてリアムの真後ろに陣取っているのは、ドラムのザック・スターキーだ。
意外な選曲と言っていいだろう、ファーストからの『Bring It On Down』。そして『Morning Glory』に『Cigarettes & Alcohol』というオアシス・クラシックが炸裂し、場内のテンションはいやが上にも上昇する。そして再び新譜からの、イントロが「水戸黄門」を思い出させる『The Importance Of Being Idle』ときた。序盤はもっと新譜からの曲を固めてくるのかと思っていたが、新旧をうまく取り混ぜることによって、ライヴの流れを作っているようだ。
リアムはしきりにミネラルを口にしてはいたが、ノドの調子自体はよさそう。そして機嫌もよさそうで、曲間に「thank you」を連呼している。サングラス姿のアンディは表情こそ伺えないが、ますます渋味を帯びていて、そしてベースを1度も交換することなくチューニングで対応。ゲムはまるでストーンズのロン・ウッドのような感じで、いい人ぶりを振りまきながらリズムギターを弾く。ノエルはいつもと変わらずマイペースで、間奏ではいつものようにギターソロを炸裂させている。
そして今回のツアーのポイントとも言えるのが、ドラムのザックだ。かつては父リンゴ・スターとツインドラムでツアーに出ており、ひとり立ちしてからはジョニー・マーやザ・フーのツアーにも帯同。今や英国を代表するセッションドラマーとして、押しも押されぬ存在にのし上がっている。そのプレイぶりは、繊細にして大胆。バンドを支える屋台骨の役割を立派にこなしながらも、時に突き刺すようなビートを叩き出し、自己主張している。ノエルがザックの方を向きながらギターを弾くことが何度かあって、もしかするとノエルはザックを迎えたいがためにアラン・ホワイトをクビにしたのではとも思ってしまう。
リアムは自分が歌わないときは向かって右の袖の奥にさっと下がり、それはすなわち次の曲はノエルがヴォーカルを取る曲ということになる。曲は『Talk Tonight』で、個人的にナマで聴くのは98年の武道館公演以来になると思う。そのときはノエルひとりでの弾き語りだったが、今回はバンドバージョンで、つまりより原曲のイメージに近くなっている。チケット取りに苦労したあの頃が、なんだか懐かしいな。
『Acquiesce』は、私にとってのベスト・オアシス・ナンバーだ。理由はいくつかあって、まずライヴで映える曲調であること。リアムが主メロを歌い、ノエルがサビを歌うという、2人のヴォーカルのいいとこ取りをしたような構成になっていること。そして最も好きなところは、ノエルがサビを歌う直前の「溜め」だ。変な例えだが、競馬のレースで第四コーナーに差し掛かり、実力馬が中段から少しずつ躍り出て来てラストスパートにギアチェンジするような、そんな感覚に似ている。今回もライヴで聴けてよかったと思う。
『Mucky Fingers』ではゲムがハーモニカを吹き、ヴォーカルを取ったノエル以上に目立っていた。『Songbird』では、アンディがジェイと共にキーボードを弾いていて、ゲムとアンディもライヴでの表現行為に幅が出てきている。『Live Forever』は、これもライヴでは欠かせない曲だが、テンポを落としたゆる~い曲調で、少しじれったい感じもする(終盤があっさり終わっているがために、この曲は名曲になり損ねていると思う)。
終盤は例によって例の如く、これぞオアシスという名曲が連射される。全米チャートにぐいぐい切り込んで行った『Wonderwall』。3年前のツアーでは、終演後にBGMとして流されながら場内大合唱となった『Champagne Supernova』。そして、原点回帰と言わんばかりの『Rock 'N' Roll Star』だ。例えばローリング・ストーンズ。例えばポール・マッカートニー。例えばU2。そうしたビッグ・アーティストだけが到達することができた領域に、オアシスも足を踏み入れつつある。異様なまでに高いテンションの中にいると、オアシス強しということを改めて痛感してしまうのだ。
アンコールは『Guess God Thinks I'm Abel』『The Meaning Of Soul』という、新譜『Don't Believe The Truth』から2曲。正直言って、新譜の曲の比重がこうまで重いとは思わなかった。私は新譜を今イチと感じているひとりなのだが、ライヴの場においてはそうした不安も不満もほとんどない。それは、ライヴバンドとしてのオアシスが結成以来最強の状態にあると思っているからで、ツアーを続け各地を転戦して行くうちに、曲を熟成させて行くことに成功しているのだ。
問答無用の『Don't Look Back In Anger』は当たり前のようにライヴのハイライトとなり、そしてラストはザ・フーのカヴァー『My Generation』。間奏でのアンディのベースソロも見せ場のひとつで、そして終盤はジャムセッションの様相を呈してくる。てっきりリアムは真っ先にステージを後にするものとばかり思っていたが、リアムは向かって右のスピーカーのところにもたれるようにして、他のメンバーのプレイを最後まで見届けた。演奏が終わり、ひとりひとりステージを後にする中、最後に手を振って挨拶していたのもリアムだった。これも意外。よっぼど機嫌がよかったのだろうか。
ザックがドラマーを務めるようになったことで、ライヴパフォーマンスにおいてはジャムセッションの要素が強まり、総合力はかなり上がった気がしている。ただ一方では気になることもあって、サマソニでのライヴを観たとき、オアシスはストーンズ化しつつあると感じたのだが、今回観たことで益々その傾向が強まっている気がしたのだ。新譜プラスベストヒットが主軸となり、その中でレアな曲も少しやります的な構成になっている。特に象徴的だったのは、個人的にはなかなかの出来だと思っていた前作『Heathen Chemistry』からは1曲しか演奏されなかったことだ。これがいいことなのかそうでないのかは、私にはわからない。ただ断言できるのは、今後オアシスがどうなろうとも、新譜が出れば必ず買って聴くし、来日すれば間違いなく会場に足を運ぶということだ。
(2005.11.24.)
Oasisページへ