Al Kooper 2005.10.6:東京国際フォーラム ホールC

2年前の来日公演のときは、会場はライヴハウスクラスだったが、今回はホール会場になった。当然のこと場内の密閉感は薄れるが、客の年齢層の高さを思えば、この方が妥当なのかもしれない。開演前に緊迫した空気はまるでなく、むしろ落ち着いた雰囲気が漂っている。そんな中を時間だけが過ぎていき、やがてアナウンスが入って、客電がゆっくりと落ちた。





 ステージを覆っていた幕が左右に開き、それとほぼ同時に演奏がスタート。ドラム、ベース、そしてアル・クーパーその人というスリーピース編成で、アルはキーボードセットの前に腰掛けてはいるが、なんと自らギターを弾いていた。そして曲は、ジミヘンの『Little Wing』。インストバージョンで、乾いたギターの音色が場内に響く。


 この後は1曲毎にメンバーが増え、まずはギター、そしてサックスとトランペットの人が登場し、これでフルバンド編成になった。アルは左端に陣取り、客席に向かっては半身の状態。ステージ中央に管楽器隊で、右端にギターの人がいるという配置。バンドメンバーがみなスーツ姿でシックにキメている中、アルだけが銀ラメのド派手な衣装で、ラメが光に反射してキラキラ光っている。アルは銀髪でサングラスをかけていて、体格は大柄。遠目に見ても、存在感がありありだ。





 アルから若干のMCがあり、この後日本人の女性がステージ向かって右の袖から登場。次に演奏される曲の解説をした(この後も何度か出てきては解説をした)。英語圏ではないこの国での公演ということで、より意図が正確に伝わるようにという、アルの配慮だろう。そうして披露されたのは、ブッカーT&MG'sのカヴァーであり、この人のライヴではお馴染みでもある『Green Onions』。インストナンバーということもあってか、アルのキーボードが特に映えている。


 今回は、実に29年ぶりにリリースされた新譜『Black Coffee』に伴うツアーであり、当然のこと、選曲はそこからが多い。冒頭を飾る『My Hands Are Tied』や、渋くて深みを感じさせる『How My Ever Gonna Get Over U』、そして2年前の公演のときにも既に演奏されていた、サビが明快な曲『Going Going Gone』などだ。ほとんどの場合、アルはキーボードを弾きながら歌うので、マイクは手に持たず、耳につけているヘッドフォンに装着されたマイクを通して、その歌声は伝わってくる。高音になると若干声がかすれていたが、これは小さいことだ。





 ソロデビュー曲である『I Can't Quit Her』では場内からのどよめきもあり、アルが自ら『Championship Wrestling』からの曲と紹介して始まったヤードバーズのカヴァー『I Wish You Would』は、原曲とは似ても似つかないフュージョン寄りのアレンジになっている。ブルース・プロジェクト時代の『Flute Thing』では、サックスの人がフルートを吹き、これが軸になって演奏が進む。後半でメンバーのソロコーナーとなり、ギターの人は泣きのフレーズを効かせまくり、ドラムもパワフルなプレイを披露する。バンドメンバーはおおむね高齢だが、そのプレイには老いは感じられず、ライヴを立派に成り立たせている。


 曲が切れぬまま、いつのまにかアルのキーボードソロになっていた。なめらかに鍵盤の上に指を滑らせながら音色を発する中、プロコル・ハルムの『In The Whiter Shade Of Pale/青い影』や、ボブ・ディランの『Like A Rolling Stone』のメロディなどを、ちらちらと発する。このたたずまいに、元祖ロック界のキーボード奏者としての生きざまを感じることができる。『Rare And Well Done』という、ベスト+未発表曲集のアルバムがあって、ブックレットにはアーティストやプロデューサーたちのアルを絶賛することばが収められている。その面々は、特にキーボードやピアノ奏者が多い。ブライアン・ウィルソン、ドアーズのレイ・マンザレク、スティーヴ・ウィンウッド、ジョージ・ウィンストンなどだ。





 本編ラストは『Comin' Back In A Cadillac』という曲で、まずは通常通りの歌と演奏なのだが、途中からジャムセッションのようなスタイルになり、アルはそのうちキーボードから手を離して、演奏している他のメンバーのもとにゆっくりと歩み寄った。サックスとトランペットの人が並んで演奏しているその間に立って軽く踊ったり、ギターの人のところに行って弦を弾いてみたり、と。現在61歳だが、結構お茶目だな。


 今度はステージのへりに腰掛けて客席の方を向き、軽く笑みを浮かべる。するとなんと、ステージを降りてしまい、客席の通路をゆっくりと歩き出した。手を差し伸べる人も少しはいたが、特に大騒ぎになったり混乱になったりすることはなかった。むしろ客の多くは、呆気に取られたという感じでアルを見ている。アルは途中で女性客の帽子をひょいっと掴んでかぶったりし(もちろん最後には返していたけど)、ほぼ客席内を一周した。


 しかしまだステージには戻らず、最前列の空席にひょいっと座ってしまい、ステージで演奏しているバンドを鑑賞。横に座られた男の人は、どうしていいものかわからず、ただただアルを見つめていて、そのさまがなかなかユニークだった(私でもそういう状態になっただろうけど)。この後アルはやっとステージに戻り、再びキーボードを弾く。こうして演奏中のままで幕が閉まり、本編が終了した。





 アンコールを求める拍手が響く中、幕の間からアルがひょっこりと登場。少しMCしたところで幕が開き、メンバーは既にスタンバッている状態。アルは自分の持ち場に戻って、「Jolie!Jolie!」と言っては客を煽る。そして、あの永遠不滅のメロディが響き渡った。


 『Jolie』が支持されているのは、実は日本だけらしい。前述の『Rare And Well Done』でも、この曲は日本盤には収録されているが、US盤では外されているのだ。クインシー・ジョーンズの娘のことを歌ったこの曲は、それこそローリング・ストーンズの『Angie』やデレク&ドミノスの『Layla』と並んで、世界的にもっとミーハーに支持されてもいいはずの曲だと思う。そして、この曲を弾いているときのアルは、とてもリラックスしかつ躍動しているように見えた。





 客は終始座ったままで、最後の最後に立って拍手する人がまばらにいたくらい。ライヴというよりは演奏会で、2年前とは真逆の雰囲気になった。しかし、私はこういうたたずまいのコンサートもアリだと思っているので、素直に楽しむことができた。これまでの実績だけで十分ライヴができる人なのに、今年新譜を出してツアーまでやってしまうのだから、61歳になってなおバイタリティーに溢れ、前向きな姿勢を見せているのには恐れ入る。個人的には、ボブ・ディランのツアーに帯同してもらって、ぜひ『Like A Rolling Stone』をこの人のキーボードで聴いてみたいものだ。デヴィッド・ボウイのライヴで、マイク・ガースンがピアノを弾いていたように。





(2005.10.11.)
















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