Al Kooper 2003.6.15:Club Quattro
確かに、クアトロは狭いライヴ会場だ。がしかし、それでもまさかこの人のライヴでチケットが売り切れになり、場内がすし詰めになろうとは、(失礼ながら)予想できなかった。超大物には違いないが、ここ20年ほど自身のオリジナル作品は発表してないし、精力的にライヴ活動をして世界中を廻っているわけでもない。実際、今回が初来日公演だし。ただそれだけ、アル・クーパーは待ちわびられていた人ということにもなろう。
ほぼ定刻通りに客電が落ち、メンバーが姿をみせる。ギター、ベース、ドラム、それにトランペットにサックスといった構成。いずれもご年配で、全員孫がいてもおかしくないくらい(笑)の年齢と推測できる。そしてギターのリフが軽やかにかき鳴らされる中、ついに御大の登場だ。
御大はかなりご立派な体格で、髪は白髪ならぬ銀髪。黒地に銀ラメのド派手なジャケットをまとい、そしてトレードマークのサングラスを着けている。ステージ向かって左のキーボードの前に立ち、日本語でMC。現在59歳の御大が、カンペを読みながらオーディエンスに自分の意思を必死で伝えんとするその姿は、なんだかかわいかった(笑)。
管楽器隊を擁していることもあってか、まずはインスト曲でスタート。元祖ブラスロックの人だけあって、凄腕メンバーを揃え、演奏の精度は恐ろしいほどに高い。終盤はギター~サックス~トランペット~ベースと、それぞれにソロを披露。そしてそれらの楽器と絡み合う、御大のキーボード。その鍵盤は三層になっていて、中段と下段がオルガン、上段がエレクトリックピアノという具合だ。
お次は、立って鍵盤を叩きながら歌う御大。CDで聴いていた声よりも甲高く、そしてクリアに聴こえるから驚きだ。(たぶん)今回の来日にリンクする形で、この人のソロアルバムがリマスター&紙ジャケ仕様&一部ボーナストラック付で、再発されたばかり。そして調べてみると、もともとこの人のソロ作品の多くは日本でしかリリースされておらず、海外では廃盤状態。そら日本に来たくなるわなあ。日本語で挨拶もしたくなるわなあ。
そして新曲まで披露。まずは『Going Going Gone』という曲のようで、ただし演奏前には本人による英語のMCが。最初のうちは耳を傾けて御大が何を言わんとしているのかを必死に聞き定めようとしたのだが、あ・ま・り・に・も・長・い・の・で(苦笑)、途中から疲れてどうでもよくなってしまった。結局延々5分近くもしゃべった後にやっと演奏が始まった。続くは『~ Cadiellac』という曲だが、なんと曲の終盤で御大はステージを降り、最前のオーディエンスの前に現れた。当然のように握手攻めにあい、苦笑いしながらも淡々と演奏を続けるバンド。この人、ノリノリやな。
終盤は「back to 1966~♪」なる御大のMCのもと、ブルース・プロジェクト時代の『Flute Thing』を。サックスの人がフルートを吹き、またもや高精度の演奏が。音量も高く、スピーカーのすぐ近くで観ていた私は、途中耳がおかしくなりそうになり、めまいもしてしまった。なんて迫力だ。そして必ず演ると思っていた曲が、ついに放たれるときが来た。まずは御大がカウントを取り、続いて「Jolie !!Jolie !!」と歌いながら、オーディエンスに手拍子を求める。そうしてやや勿体ぶった(笑)後、あの永遠不滅のイントロが、ついに当人の指から発せられた。
初めて聴いたときでも、もう何度となく聴いたように錯覚してしまうメロディ。そして、何度繰り返し聴いても飽きが来ず、また聴きたいと思わせるメロディ。マスターピース(傑作)ということばは、こういう曲のためにあるのだと、私は思う。この人は元祖セッションミュージシャンでもあるのだが、それだけに留まらない輝きを放ち、独特の立ち位置を占めているのは、ソロでも多作であることと、そしてこの曲『Jolie』を輩出しているからだ。
更に、熱狂と興奮はこれだけでは終わらない。いつしか御大のキーボードソロとなり、その合間合間にプロコル・ハルムの『In The Whiter Shade Of Pale/青い影』やボブ・ディランの『Like A Rolling Stone』のメロディなどを、ちらちらと発する。まるでラジオの周波数を調整して放送局を探し当てるかのような御大の鍵盤さばきは、そのままこの人のアーティストとしての生きざまを、反映させているかのように見て取れた。
そうして行き着いたのは、なんとローリング・ストーンズの『You Can't Always Get What You Want/無常の世界』だった。ストーンズ激動の60'sを締めくくったアルバム『Gimme Shelter』のラストであるこの曲は、この人なしには生まれ得なかったのだということを、改めて感じさせる。そして御大はなんと自分でこの曲を歌い、それに呼応するかのように、オーディエンスはサビの箇所を歌った。
・・・こうしてライヴは、1回のアンコールを含む計2時間近くにも及んだ。ソロ作品ばかりを聴き込んでいた私にとっては、このキャリア集大成的な内容は肩透かしを食った形だが、かといってもちろん不満などあろうはずもなく、充分過ぎるほどに満足した。ボブ・ディランも、ピート・タウンゼントも、ミック・ジャガーも、この人の音を欲しがった。そのことが納得できるライヴだったと、感じている。
(2003.6.19.)
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