浜田省吾 2005.9.10:横浜アリーナ
今回私が入手したチケットはステージサイドで、よってポジション的には全く期待していなかった。ステージも、その後方に映し出されるであろう映像も、アリーナ中央部に設けられたセンターステージも、そして浜田省吾自身も、いびつな角度からでしか拝めないものと思っていた。ところが入場し座席についてみて、これらの不安は一掃された。位置としてはステージ向かって右で、ステージにはとても近くて見晴らしがよく、といってセンターステージからもあまり遠くはなかった。おまけに補助のモニターまで設置されていて、これでステージ後方の映像もしっかりと把握できる。
定刻をわずかに過ぎたところで、ビートルズの『All You Need Is Love』がSEとして流れ、客電がゆっくりと落ちる。映像は世界各国の人の表情や風景などを映し出し、やがてメンバーが入場してきてそれぞれの持ち場につく。最後に登場したのが浜田。そしてオープニングは、新譜『My First Love』のラストの曲である『ある夏の日の午後』だ。スローなナンバーで、そしてとても地味。意表を突く出だしだが、逆に考えれば中盤や終盤で演ることは難しく、いっそ1曲目で演ってしまった方がいいのかもしれない。
続いては『光と影の季節』。シングルカットされていて、またリリースされたばかりのDVDのタイトルが『Flash & Shadow』でもあることから、この曲は現在の浜田の立ち位置を示す曲、また今回のツアーのテーマ曲的な位置づけになるのではないだろうか。サビのところ、ウォーーウォーーオオオー♪というところは、浜田は自分では歌わず、両手を大きく広げて客に歌うよう促している。
浜田は黒いシャツに黒の革パンツ姿で、とても52歳とは思えないくらい若々しい。バンドは、浜田の右には2人のギタリスト、左にはベースとサックス。後方は、中央にドラム、右にキーボード、左にピアノという布陣。曲のメロディーに乗せるように照明もカラフルで、そして時折客電がついて客席があらわになることもある。過去、プリンスやローリング・ストーンズのライヴでも体験していることだが、こういうことができるのは、自信と余裕があるからだと思う。
こうして序盤はじっくりめに進んでいたのだが、もちろんこんなモードだけに留まるはずはなく、やがてロックンロールモードにシフトチェンジ。『Hello Rock & Roll City』で、しかも浜田は、マイクを手に私のいるステージ向かって右の方に歩み寄りながら歌い出したのだから、興奮度のメーターが振り切れてしまった。サビはもちろん「ハロー♪ヨコハマ シティーーー♪」で、映像は横浜駅近辺や馬車道、中華街、外人墓地、港の見える丘公園など、横浜に住む人にとってはなじみの風景が映し出されている。更に曲は『終りなき疾走』へとつながれ、ここが最初の沸点になった。
そしてMCタイムに。前回のツアーが4年がかりの壮大なものであり、それから4年を経ての今回のツアーで、どんな曲を演奏するかいろいろ考えたそうだ。スタッフにもリクエストを求めたのだが、これが見事にバラバラで(笑)、結局自分が今歌いたい曲をセレクトしたのだそう。なにせキャリアの長い人であり、名曲を数多く書いている人なので、あの曲がない、この曲も演ってほしい、そうした不満は必ずある。だけど浜田自身も、そうしたファンの声をしっかり受け止めているのだ。
とても地味だけど、自身にとっては必ずベスト5に入る曲と言って、アコースティックで『彼女はブルー』『君の名を呼ぶ』を切々と歌う浜田。そして通常のバンドセットに戻り、人と人との出会いを歌った曲というコメントをつけて『さよならゲーム』を熱唱し、『君がいるところがMy Sweet Home』で第1部を締めくくった。ギターとサックスの人は、曲によりステージの前の方にまでにじり寄ってきて、スポットを浴びながら弾いたり吹いたりして見せ場を作っていた。ここまでで既に1時間超。4年前も長いライヴだったが、今回も長いライヴになりそうだ。
休憩時間中は、スクリーンにはDVD『Flash & Shadow』のダイジェスト版が流されていた。そして第二部スタート。アップテンポな『My Home Town』に続き、10月にシングルカットされる『Thank You』、そして『I Am A Father』となる。この2曲はPVも作られていて、後方のスクリーンに流される。どちらのPVもドラマ性を帯びていて、かなり凝った作りになっている。特に後者には時任三郎や吹越満などが出演する豪華キャストで、短編映画としての公開予定もあるそうだ。・・・と、思わずスクリーンに目を奪われがちになるが、もちろん演奏の方にも熱が入っていて、『I Am A Father』は2度目の沸点になった。
続いては『花火』という曲で、この曲もテーマは父親。先の『I Am A Father』と並び、これらは現在の浜田の年齢からにじみ出たものなのだろう。更に、今度は子供がテーマという『Sweet Little Darlin'』で、浜田の視点が家族に向いていることを思わせる。浜田省吾というと、サングラスにバンダナに白いTシャツにジーンズ姿で、ストリート・ロックン・ローラーというイメージがどうしてもあるが、この人の魅力はそれだけには留まらない。
第2部終盤は、最近の曲の中では最も映えていてアンセムになっている『モノクロームの虹』、そして決定的な『J.Boy』の2連発だ。前者はギターのリフや浜田が吹くブルースハープの音色が冴え渡り、そして後者は会場全体をまるごと飲み込んだかのように、圧倒的な歌として響き渡る。スクリーンは縦に2分割され、半分が浜田の顔のアップ、もう半分がオーディエンスで、この2つの光景が並び立った映像こそが、この日のライヴを象徴していたと思う。
『家路』では、先ほどまでの熱狂ぶりが嘘のように場内は静まり返り、そして本編ラストは『日はまた昇る』。旅を思わせる曲調で、アコースティックギターの音色が心に染みる。まだ次があるという雰囲気を残しつつ、メンバーはステージを後にした。
アンコールを求める拍手が鳴り止まぬ中、スクリーンに映像が映し出される。横浜についての思いを語る浜田だ。初めて来たのは受験のときだそうで、山下公園の埠頭につけてある氷川丸に宿泊したそうだ。帰宅後ネットでプロフィールを調べたのだが、浜田は一浪後神奈川大学に入学し、1年半で退学してプロのミュージシャンの道に進む、とあった。実は、横浜との縁は浅くはないようだ。映像は金網越しにみなとみらいのビル群がうっすらと見えていて、収録は最近したのだろうか。4年前もそうだったが、そのとき1度限りのためだけに、気持ちのこもったメッセージをこうした形で送ってくれる浜田は、なんとファン想いなのだろう。
浜田を始めとするメンバーは、ふつうにステージ向かって左の袖の方から登場した。そして通路を通り、センターステージまでたどり着いた。アンコールは『初恋』でスタート。初恋というと、男女の恋愛の甘酸っぱい感覚が連想されるが、ここでの初恋は浜田と音楽との出会いを歌ったものであり、浜田があこがれたアーティストの名が次々に連発される。ビートルズ、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、ジャクソン・ブラウン・・・。ファンなら当然知っている名前だが、改めて浜田自身によって、しかも曲の歌詞として歌われると、感慨深いものがある。
続く『勝利への道』は代表作『J.Boy』に収録されている曲で、個人的には隠れた名曲のひとつだと思っていて、それをこのアンコールの場で披露してくれたことが、素直に嬉しかった。アリーナブロックのど真ん中に設置されたセンターステージ。つまり、演る側は360度ファンに囲まれた状態なわけで、浜田は一箇所に留まることなく、ヘッドフォンマイクをつけて歌い、ギターを弾きながら、ゆっくりと足を進めてあらゆる方向に気を配る。
ここでのMCも豊富で、また恒例のファンの年齢層チェックも行われる。30代、40代が多かったが、子供もいれば60代以上の方もおられたようだ。4年前は40代だった浜田も、今回は50代。その浜田、主治医にはもう無茶はするなと言われているらしい。3時間半なんてとんでもない。1時間半くらいにするか、あるいは演奏は10曲くらいにして、後はずっとしゃべってたらどうだとか、嘘かホントかわからないがそんなことを言われているようだ。しかし浜田は、オレは別に長生きなんかしなくったっていいんだ、今やれることを精一杯やりたいんだというように答えたそうで、その心意気、泣かせるじゃないか。
『バックシートラブ』では、浜田が歌詞を飛ばしてしまうハプニングもあったが、これもご愛嬌。そして『ラストショー』は、20年以上前に私が浜田省吾というアーティストを知るきっかけになった曲であり、自分の頭の中が一瞬そのときにタイムスリップしてしまった。勝手に衝撃を受けている私だが、ファンひとりひとりにとって、それぞれにこうしたポイントがあったのではないだろうか。・・・センターステージでの熱狂醒めあらぬ中、浜田だけが先に引き上げ、残りのメンバーだけでしばしジャムセッションのように演奏が続いた。
ステージ袖の方に下がったはずの浜田だが、やがてメインステージのドラムセットに収まっていて、自らドラムを叩きながらメンバーを紹介。紹介されたメンバーはひとりずつメインステージに戻り、そして全員が戻ったところで『愛奴のテーマ』をインストで。スクリーンには、『愛奴』のアルバムジャケットが映し出される。浜田のアーティストとしてのキャリアはソロではなく、バンドのドラマーとして始まった。今年は愛奴のレコードデビューから30年が経過していて、それに引っ掛けてのちょっとした試みなのかもしれない。
『君と歩いた道』を演奏した後、メンバー全員がステージの前の方に集まり、肩を組んで挨拶。これでおしまいかと思いきや、またまた再登場だ。そしてオーラスは『ミッドナイト・ブルートレイン』。長かったライヴを締めくくるに相応しい、壮大にして味わい深いナンバーだ。こうして、2部構成プラス2度のアンコールで、合計3時間半にも渡るライヴは終了。現在52歳の浜田省吾が、凄まじいエネルギーとバイタリティーを見せつけ、最高のショウを披露してくれた。
浜田が全国ツアーを行うのは4年ぶりのことで、私がこの人のライヴを観るのも4年ぶりだった。しかし4年の間、浜田はただ休んでいたわけではない。コンピレーションアルバムやシングルのリリースはもちろんのこと、DVDやゲームソフトの制作にも携わり、プロジェクトとしての活動もあり、またファンクラブ限定のイベントも行われた。この4年間をどのように過ごしてきたかが、ツアーパンフの中に克明に記されている。そしてライヴ中のMCにおいて、浜田はこうも言っていた。今度は4年後と言わず、もっと早く帰って来ます、と。私たちは、これからもこの人に期待していいはずだ。
(2005.9.15.)