Jeff Beck 2005.7.2:東京国際フォーラム ホールA
約4年半ぶりの来日となるジェフ・ベックだが、東京と神奈川の公演はチケットが全て完売だそうで、東京では追加公演が出るという勢いだそうだ。99年や2000年の来日のときにはここまで勢いがあったかなとも思ったし、この国ではまだこんなに需要があるのかと驚かされる。そしてもちろん、嬉しいことだ。満員の客を目の前にしたら、先生もより一層張り切ってやってくれるに違いない。
ほぼ定刻に客電が落ち、場内あちこちから歓声が飛ぶ。メンバーがそれぞれ持ち場につくのがちらちらとわかり、そしてジェフ・ベックその人が登場したところでピンスポットが当てられ、更に歓声が大きくなった。ジェフはクリーム色のストラトキャスターを手にし、早速スタート。『You Had It Coming』からの『Earthquake』なのだが、これがフル演奏ではなくサワリだけで、すぐさまビリー・コブハムという人のカヴァー『Stratus』に移行。よく言えば自然な流れだが、なんだか緊張感を欠いた出だしに、面食らってしまった。
ステージは、向かって左にジェフ・ベックその人が立ち、時折ギターを弾きながら中央の方までにじり寄ってくる。中央部の後ろの方にベーシスト、右にキーボード、後方やや左にドラムといった配置だ。キーボードとドラムの人は、スティングのツアーバンドなどを務めているらしく、またベーシストは去年のロック・オデッセイでのザ・フーのツアーメンバーでもあった人だ。さすがはジェフ先生、腕利きばかりを揃えているな。
緩んだように見えた出だしではあったが、哀愁漂うイントロで空気が一変。代表曲のひとつ『Cause We Have Ended As Lovers/哀しみの恋人達』が、早くも放たれたのだ。場内は静まり返り、ジェフ先生の妙技に聴き惚れていて、いや吸い込まれるように魅入っているという感じ。私はというと、両肩から腕にかけて鳥肌が立った。会場内は冷房が効いているのだが、それだけではなく、この人の演奏そのものにゾクゾクさせられたのだ。
続いてまたも空気が一変。ステージ向かって右の袖の方からまたひとり登場したのだが、この人はジミー・ホールというヴォーカリスト。ジェフ・ベックのファンにとっては、アルバム『Flash』でお馴染みの人だ。これまで無人だったステージ中央前方部には、マイクスタンドだけが用意されていたのだが、ジミーはその前に立って歌い始める。曲はブルースナンバー『Rollin' And Tumblin'』に、第一期ジェフ・ベック・グループ時代の『Morning Dew』だ。場内はお祭りムードになり、ジェフ・ベックのライヴらしからぬ雰囲気になる。
再びインストモードになり、『Behind The Veil』を経て『Two Rivers』へ。この切り替わりのとき、ジェフ先生はキーボードの方を指差していて、それに応えるようにキーボードによるイントロで曲がスタート。ステージのバックは無数の電飾が点灯する。『Two Rivers』は、ジェフのギターとキーボードの音色がちょうどいい塩梅で交じり合い、美しいメロディを紡ぎ出している。個人的にもかなり気に入っていて、この人の隠れた名曲のひとつではないかと思っている。私の肩と両腕には、ここで2度目の鳥肌が走った。
しんみりとした空気をブチ破るように、お馴染みの『Star Cycle』が奏でられる。以前のレポートにも書いた気がするが、この曲はかつて新日本プロレスのテレビ中継で次期シリーズに参戦する外国人選手を紹介するコーナーで流されていて、つまり私にとってはロックに開眼する以前から親しんでいた曲なのだ。これが飛び出すと、逆になんだか安心。ああこれがジェフ・ベックのライヴなんだよなと、変に納得してしまった。更には、原曲とは幾分アレンジの異なる『Scatterbrain』が放たれ、ここで第一部が終了する。
約10分の休憩を経て、第二部スタート。なんと、またまた第一期ジェフ・ベック・グループ時代の『Beck's Bolero』だ。前半はダンダダダダン♪という独特のリズムが刻まれ、途中ハードロックのようなアレンジになり、そしてまた独特のリズムに戻るという、短い曲ではありながら劇的な曲だと思う。続いては『Nadia』『Angel(Footsteps)』といった具合に近年の作品からとなり、この人がその時代時代にリンクした音楽を生み出しながらも、軸となる部分がブレていないことが伺える。
代表曲のひとつ、『Red Boots』。ギターを弾く合間に腕を振り上げるジェフのポーズも健在だ。そしてそしてそして、次の曲こそ個人的に感涙モノだった。名作『Blow By Blow』のラストナンバー『Diamond Dust』で、ステージのバックは曲名にリンクするかのように、銀河を思わせる無数の光で彩られている。あのジミー・ペイジをして、「全てのギタリストの教科書のような作品」と言わしめた『Blow By Blow』だが、その極点は『Cause We Have ~』よりもむしろこの曲にあると個人的にはずーっと思い続けていて、そしてまさか、この曲をナマで聴ける日が来ようとは!もちろんどの曲も演奏も素晴らしいのだが、個人的にはこの1曲だけでも、この日この場にいる意味があった。至福の瞬間だ。もう何度目になるかわからないが、肩や腕、そして背中にも、鳥肌が立った。
ジミー・ホールが再び登場し、今度はジミヘンのカヴァーを披露。『Hey Joe』は、原曲に忠実なアレンジ。ジミーによるメンバー紹介を経ての『Manic Depression』は、いい意味で崩している。ジェフ・ベックという人はものすごい頑固で気難しい印象があるのだが、ことカヴァーすることに関してはあまり抵抗がないのかな。それとも、せっかく今回はヴォーカルもいることだし、だったらやっちゃえって感じなんだろうか(笑)。この後は、これも名曲『Good Bye Pork Pie Hat』、そして『Brush With The Blues』を経て、『Blue Wind』で第二部が終了した。
アンコールは、ヴォーカルものではこの人の代表作になるのではと思われる、『People Get Ready』でスタート。大御所アーティストは80'sの作品を封印する傾向があると個人的には思っているのだが、実は80'sに書かれた曲でもいい曲はたくさんあるのだし、それを自らの手で今一度再構築するのは、意味のあることだと思っている。ライヴ終盤の展開がパターン化してしまっているエリック・クラプトンに、これぐらいの冒険心と柔軟性があればいいのになあ、なんて思ってしまう。
続いてはジェフとキーボードの人だけを残し、他のメンバーはステージを後に。そしてジェフはキーボードに近づいて弾き始め、曲は『Somewhere Over The Rainbow』だ。前述のクラプトンのライヴでも披露されている曲だが、クラプトンは自ら歌うのに対し、ジェフはインストで勝負。クラプトンバージョンは、ほのぼのとした温かい雰囲気に包まれる感じがあるが、ジェフバージョンはシンプルながらも研ぎ澄まされ引き締まった曲調に仕上がった感がある。演奏が終了し、下がっていたメンバーが再びステージに出てきて肩を組んで挨拶。これで全てが終わった。
いや、終わってはいなかった。2度目のアンコールが実現し、今度は第二期ジェフ・ベック・グループの『Going Down』。出だしでジミー・ホールがブルースハープを吹き、雰囲気を出す。ジェフはリラックスした様子で淡々とギターを弾き、和んだムードのまま、演奏が終了。ジェフは去り際に礼や挨拶をする中、ギターを客席に放り投げるような仕草までして(笑)、茶目っ気を出していた。
99年や2000年のツアーは、ジェフ・ベックの健在ぶりや現役度の高さを強く打ち出したステージだった。今回はよりバンドとしてのコンビネーションが重視された感じで、選曲もキャリアを総括する形になり、ソロの代表曲だけでなくバンド時代の曲も聴くことができ、更にはよもやのレアな曲まで聴けてしまった。緩い出だしに面食らったり、ジミー・ホールのヴォーカルに違和感を感じたりはしたものの、トータルでは素晴らしいライヴであったことに変わりはない。
(2005.7.3.)
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