R.E.M. 2005.3.16:日本武道館

前座の日本人バンド、doaにはまるで興味がなかったので、ゆったりと6時50分頃に武道館入りした。外のグッズ売り場でTシャツやパンフを求めてから中に入ると、ちょうど彼らの演奏が終わったときだった。それから、セットチェンジのため待つこと約25分。場内が暗転し、ついにそのときが来た。実に10年ぶりの来日公演にして、私が初めてR.E.M.に遭遇する瞬間が。





 ステージ向かって右の袖の方から姿を見せるメンバー。それぞれ持ち場につき、そしてオープニングは、今回のツアーの多くで歌われてきた『I Took Your Name』だ。メンバー配置は、ステージ中央にマイケル・スタイプ。グレーのスーツに真紅のネクタイ姿で、目線のところをグリーンにメイクしている。右にはギターのピーター・バック、左にはベースのマイク・ミルズで、R.E.M.メンバー3人でフロントラインを形成。ピーターの右にはサポートのギタリストが、マイクの後方にはキーボード、マイケルの真後ろにはドラマーがいる。


 続いては『Bad Day』で、マイケルは早口で歌いながら、ステージ上を右に左にとアグレッシブに動き回る。時には身をかがめてそして右手を客席の方に差し伸ばすような仕草をし、それにまた場内が沸く。マイケルは、思った以上に細身だった。ステージの装飾だが、バックに無数の蛍光管が水平方向と垂直方向にそれぞれ設置されていて、これが時にカラフルに、時にランダムに点灯し、観る者の視覚を刺激する。





 序盤は、新譜『Around The Sun』からのナンバーが中心になって進む。ここ数年の作品の傾向なのだが、良く言えばじっくり聴かせる深みのある作風、しかしもっとはっきり言えば地味なのだ。それはライヴの場でもくっきりと出ていて、バンドは『The Outsiders』『Electron Blue』『High Speed Train』といった曲を演奏するのだが、観客も演奏の間はノるあるいははしゃぐというよりは、直立不動でじっくりと浸るというモードになっている。


 地味な印象になっている要因はライティングにもあると思っていて、ステージ上が思ったほど明るくされていないのだ。赤やグリーンといった色に彩られてはいるが、その光の色は薄く、メンバーの姿を鮮明に浮かび上がらせるまでに至っていない。薄暗い中で、メンバーがもぞもぞとやっているような印象がある。ピーター・バックはまだしも、マイケル・スタイプにもスポットが当たることはほとんどない(なぜかマイク・ミルズには頻繁にピンスポットが当たっていたが)。


 ステージが暗めなのは、演奏のコンセプトに合わせた演出か、それともこれが普段からの彼らの流儀なのか。そんなことをいろいろと考えさせられたが、それでも演奏が終わると、場内からは大きな拍手が沸き起こり、これがまるで洪水のような勢いで耳を襲った。客のテンションは、基本的に尋常ならぬ高さなのだ。そういえば外でグッズを求めたとき、テント前は押し合いへし合いですごい状態だった。あれR.E.M.のファンってこんなに血の気多いの?意外だな~なんて感じていたのだが、恐らくは10年待たされたという飢餓感がそうさせているのだろう。あるいは、今回が初めてという喜びに満ちたファンが、多く集まったのだと思われる。


 新譜『Around The Sun』の冒頭を飾っていて、言わば現在のバンドの顔的な曲でもある『Leaving New York』。マイケルは前半は丹念に噛み締めるように歌うが、徐々にエモーショナルになってきて、聴いている方にもぐっと来るものがあった。その情感こもった雰囲気に包まれた場内を一変させたのは、『Orange Crush』のドラムのイントロ。しかし『Around The Sun』ワールドはまだ続いていて、マイケルのアメリカの政府に~というMCの後に歌われたのは、『I Wanted To Be Wrong』『Final Straw』の2曲だった。





 今回唯一のIRS時代からの曲だった『The One I Love』は、ライヴが終盤に入ったことを感じさせる。マイケルの「Fire~♪」という甲高い歌声に場内も呼応し、心なしかステージも明るくなって、やはりここまでのライティングは演出だったのだなと納得。ヒットチューン『Imitation Of Life』で場内のテンションはますます上がり、そしてマイケルがピーター・バックを紹介したところで、ついに私の待ち望んでいた瞬間が来た。


 ピーターはギターではなくマンドリンを手にしていて、それを抱えるようにしながら弦を爪弾き、あの印象的なリフが発せられる。R.E.M.のキャリアの頂点に立つ決定的な曲、『Losing My Religion』だ。優しいマンドリンの調べに乗り、マイケルがことばを噛み締めるように切々と歌う。私がここ数年間、最もライヴを観たいと願い続けていたアーティストは、ザ・フーとR.E.M.だった。ザ・フーは昨年のロック・オデッセイで叶い、そしてR.E.M.だ。彼らのライヴを観て、その場に居合わせられたことを最も実感できるのが、私にとってはこの曲なのだ。願いは、今この瞬間に叶った。しかし私の気負いとは関係なく(苦笑)、曲は淡々と演奏された。





 アンコールは、ノイジーなリフの『What's The Frequency, Kenneth?』で始まって場内は大騒ぎになり、続いては一変して静かで美しいバラード『Everybody Hurts』へ。マイケルの声がハイトーンになり、そのヴォーカリストとしての力量が如何なく発揮される。続いて『The Great Beyond』を歌い上げた後、マイケルはR.E.M.以外のサポートメンバーを紹介し、MCを始めた。


 恐らく意図的にだろう、マイケルは聞き取りやすいようにゆっくりとしゃべった。ソニック・ユースのライヴもあって、みんな忙しいね、とか(ソニック・ユースの公演は16日、17日と渋谷で行われていた)。チープ・トリックのアルバムで、武道館はアメリカでも有名なんだ、とか。意外なほどのリップサービスで、嬉しいは嬉しいのだが、だったら10年も空けないで、もっとたくさん来てライヴ演ってくれよ、と言いたい(笑)。


 この後はアップテンポの新曲『I'm Gonna DJ』を経て、オーラスは(今回のツアーでは毎回そうしているように)『Man On The Moon』だ。コメディアンのアンディ・カウフマンに捧げられた曲で、この人の映画が作られたときは、この曲は主題歌にもなっている(R.E.M.はサントラも担当した)。マイケルは一小節歌うとしゃがみ、客席の方にマイクを差し出す。すると客席は「いえーいえーいえーいえー」と呼応。そしてサビに差し掛かり、歌い終えるとマイケルは「come oooooooooooooon!!!」と叫ぶ。こうして、2時間近くに渡るライヴは幕を閉じたのだった。








 MCのときに、マイケルは「see you soon」とも言っていた。近いうちに再来日するということなのか、それとも17日名古屋、18日大阪の公演のことを指して言ったのか、はてどっちだろう。武道館はアリーナクラスの会場としてはステージと客席との距離も近く、音もまずまず良いので、よくできた会場だと思っている。ではあるが、R.E.M.のライヴバンドとしての真骨頂は、野外会場(つまりフェスティバル)でこそ発揮されるのではないかとも思っている。いつかは日本のサマーフェスティバルのステージに、R.E.M.が立っているのを見て見たいものだ。




(2005.3.19.)































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