Primal Scream 2002.11.17:Zepp Tokyo

フジロックの大トリを務めたバンドを、ライヴハウスで観れてしまうという贅沢さ。個人的にもそのフジロック以来となる約2年ぶりのプライマルのライヴで、去年のサマーソニックやその前後の公演で垣間見られたプライマルのありようが、最新作『Evil Heat』を引っ提げたバンドの全貌が、今回はしっかりと拝めるはずだ。





 まずは定刻通りに、オープニングアクトがスタート。日本のブン・ブン・サテライツで、個人的にはフジロック'01の前夜祭で1度観たことがある。ステージには既にプライマルの機材が配備されていて、彼らはその前方の狭いスペースで演奏を始める。ギター&ヴォーカル、ドラム、ベースの3ピースバンドだが、とても3人だけで演っているとは思えない、凄まじい音の迫力だ。


 ほとんどがインストで、曲によりかすかにヴォーカルが入る程度。そしてこれも、人間の肉声でメッセージを伝えるというものではなく、むしろ楽器の一部と化している。ベースの人は時折電子機材を操り、エレクトリックサウンドがドラムやギターの生音と相俟って、素晴らしい世界観を作り出す。そうして彼らは約40分で演奏を終えたが、かなり贅沢なオープニングアクトだった。ただ敢えて欲を言えば、映像やライティングといった視覚効果を駆使すれば、もっとよかったと思う(彼ら単独のライヴではやってるのかな?)。





 セットチェンジには約30分ほど費やされ、場内にダレた空気が漂う少し手前で客電が落ちた。いよいよプライマル・スクリーム登場。ボビーはジーンズに白いシャツ、そして白いジャケットといういでたち。この格好のせいか、気持ちふっくらしたようにも見える。髪は伸びておかっぱ風になり、『XTRMNTR』の頃のこざっぱりした風貌とは一変し、それ以前のイメージに戻ったよような感じだ。ステージはボビーが中央で、その両隣をマニやケヴィン・シールズなどのギター/ベース隊4人が陣取り、5人でフロントラインを形成。ボビーの真後ろがドラム、その左がキーボードといった配置。この彼らが立っているさまだけで、もう壮観だ。


 しょっぱなは、2年前のライヴでは後半の重要なポジションを占めていた『Accelerator』だ。原曲よりも早いテンポに、先ほどのブンブンをはるかに凌ぐ爆音に、ステージを照らす無数のライトに、場内は一気にヒートアップ。続いては『Miss Lucifer』から『Bomb The Pentagon』に手を加えた『Rise』と、早くも新作『Evil Heat』からの重要ナンバーを2連発。CDを初めて聴いたときに受けた衝撃を、大きく凌駕する生の迫力に度肝を抜かれ、そしてこの上なく嬉しくなる。こんなに凄いところまで到達したんだ、プライマルは。





 私がプライマルの音楽をしっかりと聴き、ライヴを観るようになったのは、『Vanishing Point』の辺りからだ。つまりはマニ加入後で、それまでガレージだアメリカ南部だといろいろやっていた試行錯誤を終え、バンドの方向性が固まりつつある時期に当たると思う。そして『XTRMNTR』でシーンをブチ抜いたのだが、この一作毎の成長や上昇はいつまでも続かず、いずれ息切れして停滞してしまうのではないかと、心配でもあった。


 ところがどうだ。最新作『Evil Heat』は、息切れもしていなければ停滞もしていない。『XTRMNTR』と比べても遜色のない、いやむしろ前作が予告編でしかなかったのではとさえ思わせるような、更に過激で更に研ぎ澄まされた仕上がりになっていると、個人的に思う。ライヴは当然この2作からがメインとなり、エレクトロパンクの嵐が吹き荒れる。しかしこれだけ激しく凄まじい音を発しているというのに、当の本人たちは淡々と己の仕事をこなしている様子だ。今まではガニ股でベースを弾きまくっていたマニも、今回はほとんど派手なアクションがない。しかしこうした自然なたたずまいにこそ、逆に凄みと迫力を感じる。彼らの自信が、そうさせているのだろうか。


 そしてそれ以前の曲は、更なる凄みを帯びてからみついてくる。今や、不滅の輝きを放つ名曲となった『Rocks』。恐らくは何万人ものオーディエンスをもいっぺんにモッシュさせてしまうであろうパワーを備えたこの曲を、キャパ3000にも満たないライヴハウスで体感できてしまう快感といったらたまらない。続く『Kowalski』『Swastika Eyes』も、『Rocks』に少しも劣らないエネルギーを発していて、1曲1曲が重いボディーブローのように効いてくる。凄いバンドになったなあ。耳を突き刺さんばかりの爆音に襲われながら、何度このことばを噛み締めたことだろう。


 本編は『Skull X』で締めくくり、5分近いインターバルの後でアンコールへ。奥の手はまだあるぜとばかり、『Higher Than The Sun』の穏やかにして甘いメロディーが響き渡る。そしてなつかしさ漂う『Jail Bird』からまたまた爆音炸裂の『Detroit』を経て、『Movin' On Up』でまたまたメンバーは引き下がる。それもつかの間で、すぐさま2度目のアンコール突入だ。こうしてライヴは、約1時間半で終了。時間だけを見れば決して長くはないが、しかし全編を貫いた爆音と緊張感の連続は、これ以上のものを必要とはしないだろう。





 2度目のアンコールのラストは、MC5の『Kick Out The Jams』だった。これは2年前のライヴでも演奏していた、ガレージパンクの古典的名曲だ(公演によっては、ジョニー・サンダースの『Bone To Lose』を演った日もあったようだ)。そして原曲こそ淡々としたおとなしい曲調だったが、ライヴでは見事にダンサブルなアレンジに仕上がった『Autobahn 66』は、クラフトワークの『Autobahn』をモチーフにしたものである。こうした先人たちのファクターを継承し吸収しつつ(そういえば、ニュー・オーダーとはお互いにコラボレートする関係にもある)、エレクトロパンクを築き上げたプライマル・スクリームは、現在結成以来最高の状態にあるのではないだろうか。




(2002.11.18.)
















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