Panta 2002.6.15:初台The Doors

予想してはいたが、客の年齢層は高かった。そして会場の初台The Doorsは、東京圏でプロのアーティストがライヴを行うハコとしては最も狭いのではないかと思えるほど、密室感に溢れていた。ステージとフロアの段差もあまりなく、そしてそのフロアには約60程の椅子が用意されていた。開演が近づくにつれて人が埋まってくると、椅子席を取り囲むように立ち見の人垣ができた。2階席もあって、コチラは喫煙者用となっているようだ。アーティストとオーディエンスとの距離感を感じることのない空間でライヴが観れてしまうことはもちろん喜ぶべきことのはずなのだが、だけどこの人はプロとして商業的にやっていけているのだろうかという不安もよぎった。余計なお世話か(苦笑)。





 まずはPANTAがひとりだけで登場。アコギを抱え、ステージ中央にどっかと腰を下ろす。衣装は先日の命どぅ宝・平和世コンサートのときと同じだったと思う。ギターのチューニングをしたりマイクの位置を直したりしながら、皆さんワールドカップは見てますか~といった小ネタを。今回のツアーは、短期ではあったが京都、大阪、名古屋を回り、そしてこの日は東京2公演の1日目。PANTA曰く、うまく日本戦を外した日程にしたのだとか(笑)。こうしてすっかりまったりとした雰囲気の中、『J』でライヴは始まった。


 続いてはバイオリンの阿部美緒が登場し、PANTAと2人で『少年のつぶやき』を。この冒頭2曲はライヴではお馴染みながら作品としてはいずれも未発表で、かつPANTAが頭脳警察以前に書いた曲だそうだ。過激で毒々しい頭脳警察も、その原点はフォーク~アコースティックにあったのかと思わせる、穏やかな曲調。そしてそこに浮かび上がるのは、詩人としてのPANTAの姿だと思う。





 そして他のメンバーもステージに登場。後方にはパーカッションとサポートのギター。そして左端には、キーボードのロケット・マツ。ここでまたPANTAの語りが入り、パーカッションの人は向島でかりんとう屋さんをやっていて、このかりんとうが覚醒剤のように病み付きになりそうな味だとか、ロケット・マツは昨年秋にフランスでツアーをしたとか、そんなエピソードを披露。そして話題は来月発売される新譜の話となり、レコーディングは年明けには終了していたが、レコード会社の都合もあって、発売がここまで延びに延びたのだとか。そしてその新譜からの曲を、いくつか演奏する。


 シンプルなバンド編成と演奏の中で、PANTAのヴォーカルは瑞々しく響き渡り、そしてPANTAを支える阿部美緒のヴァイオリンや、ロケット・マツの鍵盤を叩く音も心地よく響く。マツはキーボードだけでなく、曲によってアコーディオンを弾いたりもして、変幻自在ぶりを発揮。この人は、現在のPANTAの片腕的存在ではないだろうか。サポートのギターは、私の位置からだとちょうどPANTAと姿がかぶってしまってほとんど見えなかったのだが、音の方はあまり出過ぎず、むしろリズムを刻むといった具合に見て取れた。そしてかりんとう屋さんのパーカッションも同様。石塚俊明のパーカッションが如何に激しく、攻めの姿勢によって貫かれているかということをここで痛感する。


 90年代以降、PANTAがソロとして行っているツアーは"NAKED"と題され、そのスタイルの多くはアコースティックになっている。そして新譜の音楽性も、当然ながらその流れを受け継いでいる。穏やかなたたずまいで、大人の鑑賞に耐えうるロックといった感じだ。ただ冒頭の2曲もそうなのだが、このスタイルは頭脳警察を意識してその逆をやろうとしているのではなく、頭脳警察以前にPANTAが試みていたことに今一度取り組んでいるように思える。ようやくそれができる表現力を備えたのと、それができる年齢に差し掛かったのだろう。





 ここで、東京公演のみとなるゲストが登場。PANTAとはフラワー・トラベリン・バンド時代からの付き合いとなる、石間秀機だ。PANTAの右横に陣取り、ここでまた2人による語り。石間は過去の実績に安住することをよしとせず、よっていくら内田裕也やジョー山中が望んで呼びかけたとしても、フラワー・トラベリン・バンドの再結成はありえないのだそうだ。そして石間が手にしている妙な楽器はシターラといい、インドの楽器シタールの音や奏法を、なんとかギターに持ち込みたいとして作り上げた楽器。現在特許出願中だとか。ここからは石間を加えて新譜の曲を披露。ここでの主役はやはりシターラで、エスニックな香りが漂いつつも、ギターの弦を弾くあの質感も健在。不思議な楽器だ。


 そしていよいよ終盤。ロケット・マツのホイッスルで歓声が沸き、サンバ調のリズムが刻まれる。頭脳警察のライヴでは絶対に聴けない、PANTAのソロ代表曲『マラッカ』だ。平均年齢の高い客席はここまでライヴをじっくり楽しむといったたたずまいだったが、しかしここからは手拍子や足の踏み鳴らしで応戦。冷房効きまくりで肌寒かった場内だが、ここで温度が少し上昇したような感じを受ける。続くは奇抜な歌詞とエモーショナルなサウンドが印象的な『R★E★D』。PANTAの伸びのある、歯切れのいい声質が一層映える。


 アンコールは2回。まずは、バイオリンを擁しているからには必ず演るであろうと思っていた『さようなら世界夫人よ』。ここまでPANTAは椅子に腰掛けてギターを弾きながら歌っていたのだが、ここではすっくと立ち、一点を見据えるようにして歌う。そしてお次は、新譜のタイトル曲『波紋の上の球体』。意味深なタイトルだが、実際は淡々とした曲のように思えた。2度目では再び石間が登場し、長い曲を披露。終わってみれば、なんとまる2時間を超えるライヴになった。





 キュアーのロバート・スミスは、デヴィッド・ボウイは『Low』を発表した直後に死ねばよかったと、言ったことがあるそうだ。PANTAイコール頭脳警察だと思っている人は、これと同じようなことを思ってはいないだろうか。しかしPANTAは自殺もしなければ殺されもしなかったし、大病を患って死線をさまようこともなく、今もこうして生きてアーティストとして活動している。若い頃にエネルギーをほとばしらせていたアーティストがどう年輪を重ね、どう生き抜いて行くか。頭脳警察と"NAKED"PANTA。この2つは同じカードの裏と表のような関係にあって、PANTAはこのカードを切り分けることでそれを体現しているのだと、私は思っている。




(2002.6.16.)































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