Jeff Beck 2000.12.9:パシフィコ横浜 国立大ホール
個人的に初となるパシフィコ横浜は、実は私の自宅から最も近いライヴ会場だ。土曜日ということもあってか、この日は開演時間が5時とかなり早い。しかし私は4時半まで昼寝し、その後10分で支度。自転車を15分程こいで5時きっかりに会場に着いた。パシフィコの作りは国際フォーラムの横浜版といったイメージで、約5000のキャパ。座席は3階席まであった。
私の座席は1階前3列目という願ってもないポジション。仙台公演がZeppと知ったときは仙台のファンをうらやましく、そしてうらめしく思ったものだが、これなら遜色ない。私の後ろの列にはLuna SeaのSugizoが業界の友人と思しき人と一緒に陣取っていた。風邪で体調不良のようだったが、この日のジェフ・ベックのライヴがLuna Sea最後のツアー中である彼自身に好影響をもたらすことができればいいな、と密かに願った。
客電が薄暗くなり、『Blackbird』のイントロが響く。ものすごい量のスモークが炊かれ、少しばかりきなくさい臭いが鼻をつく。そして場内は完全に暗くなり、『Earthquake』のイントロへ。ギターリフが弾けるのと同時にステージ上がばっと明るくなり、既に自分の位置についている3人に導かれるようにしてジェフ・ベックが登場する。4人の格好は、dsのアンディがニット帽を被っている以外は2日のときとほとんど変わらない。つまりジェフ・ベックはこの日もスリーブレスの黒いシャツ。よく見ると、上に黒のベストを着ているようだ。
!!!
公演を重ねるにつれて、バンドもジェフ・ベック本人も調子を上げてくるものと予想してはいたが、このテンションの高さは何だ。この圧倒的なエネルギーは何だというのだ。もうごちゃごちゃとあれこれ考えるのはやめだ。自分の目の前にいるスーパーギタリスト・ジェフ・ベックのギターさばきに、スーパーミュージシャン・ジェフ・ベックの発する音楽に、ただ身を任せ、そして一緒に楽しめばいい。
今更言うまでもないことだが、スタジオにこもってレコーディングに没頭するアルバム制作と、ファンを目の前にして演奏するライヴとでは、それぞれ発せられる音楽の質も変わってくる。録音作業を繰り返し、最もいい部分をかき集めて編集するのがレコーディングであるならば、対するライヴはナマ物。人間である以上、日によって好不調が生じてしまうのは仕方がないが、そうした状況下においてもオーディエンスを満足させるべく最大限を尽くすのがプロフェッショナルというものだ。そして、ジェフ・ベックほどそのことに自覚的で、そのことを実践しているアーティストはいないのではないだろうか。
正直に言えば、私は新作『You Had It Coming』には少し違和感を持っていた。創作意欲が換気し、前作からあまりインターバルを置かずに発表した、そうした積極的なスタンスはいくら絶賛してもし足りない。が、肝心の音の方は『Who Else!』がテクノミュージックとギターサウンドが拮抗しギリギリのところでバランスを保ちそれが絶妙であったのに対し、新作はテクノの方が勝ってしまっているように思えたのだ。
しかし、この夜のジェフ・ベックはそんなたわごとを根底から覆してみせた。圧倒的な音の洪水。アグレッシブなパフォーマンス。次々に繰り出される『You Had It Coming』からの楽曲。まるで発する曲全てがクライマックスのようで、過去の作品と同レベルか、むしろそれ以上のパワーを以って私たちオーディエンスを襲う。私は今まで、ジェフ・ベックのことを線の細いしなやかなベジタリアンだと決めつけていたが、ここにいるジェフ・ベックはパワフルで筋肉質。大地に根ざしたかのような体から放出されるエネルギーに体が吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられる思いがする。まさにギター殺人者の凱旋、まさにギターウォリアーが降臨しているのだ!!
ゴキゲンなのは相変わらずのようで、積極的にステージ前方に身を乗り出したり、オーディエンスを煽ったりしている。もちろんアドリブのギターさばきも満載。『Rice Pudding』~『Jack Johnson』~『Savoy』の息もつかせぬメドレーも切れ味鋭い。『Star Cycle』ではイントロをトチり場内から笑いが漏れ、テレ臭そうに手で顔を覆うジェフ・ベック(笑)。『Rollin' And Tumblin'』はジェニファーがvoを担当。2日のときは照れながらやりにくそうに歌っていたジェニファーだったが、この日は堂々と歌い上げた。
本編ラストはお馴染み『Blue Wind』。イントロだけで場内の空気を一変させオーディエンスの身を引き締める、必殺ナンバーのひとつだ。そしてアンコール。ジェフ・ベックはステージ前方に陣取り、ジェニファーは右後方からサポートするようにしての『Where Were You』。そしてそれは、私にとってのジェフ・ベック見納めの瞬間が刻々と近づいていることを表わしている。
同じアーティストのライヴを続けて観に行くと、1回目は1曲1曲がズシリと重くて見応え聴き応えがあり、対して2回目は時間が経つのが早く感じ、最後の瞬間が来るのを拒みたくなってしまう。しかしこの日のライヴ、私の気持ちはそうはならなかった。ラスト『A Day In The Life』の演奏が終わり、メンバーが揃って礼をしたとき、私は素晴らしいライヴを観れたことをただただ彼らに感謝し、そして拍手で応じた。日程的にこの日は東京地区の最終公演にあたり、ツアーは折り返して関西方面に向かうことになる。メンバーが後半戦も素晴らしいライヴで乗り切ってくれることを願い、私はただひたすら拍手した。
ステージを後にするその間際、ジェフ・ベックは「Thank you for great audience」と言い、ピースサインを出した。私はその姿とそのことばを忘れることはないだろう。そして個人的に4度目となるジェフ・ベックのライヴは、間違いなくこの夜の公演がベストだ。私は自身2000年最後のライヴを、この素晴らしいライヴで締めくくれたことを幸せに思う。
(2000.12.10.)
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