Jeff Beck 2000.12.2:東京国際フォーラム ホールA

 ~『Big Block』がラストナンバーである。最後を締めくくるには少し物足りない気もしないではないが、このさりげなさが逆にカッコいいのではないかと思う。この曲は、締めくくりというよりは、むしろ次への期待、次に起こることの予感を感じさせる曲だ。この人はどこまでも現在進行形であり続けようとしているのではないだろうか。~  











 これは昨年のジェフ・ベック来日公演を観に行き、アンコールのラスト『Big Block』が始まったときに私が感じ、レポートに書いた一文である。だけどこんなことを書いていながら、ジェフ・ベックを観るのはこのときが最初で最後になってしまうんだろうなと内心諦めていた節があった。


 がしかし、それからわずか1年半でジェフ・ベックは再び日本にやってきた。しかも新作『You Had It Coming』を引っ提げてだ。びっくりするほど積極的にプロモーションもこなしているその姿を見て、きっとその長いキャリアにおいて、ジェフ・ベックは何度目かのピークを迎えているに違いないと思っている。








 午後5時15分過ぎに客電が薄暗くなり、SEで鳥のさえずりと官能的なメロディーが響く。『Blackbird』だ。場内からは歓声が沸き起こり、それが一転して今度は息を飲むように静まり返る。ジェフ・ベックその人が登場するその瞬間を待ちわびるのだ。SEは吸い込まれるようにして『Earthquake』のイントロへと繋がれ、ここでメンバーが姿を見せる。黒のスリーブレスシャツ姿のジェフ・ベック。か、かっこいい~~~。肩の筋肉が隆々としているのがわかる。帰ってきてくれたんだ。日本に。日本のステージに。


 曲はアルバムそのままに、クルマのエンジン音をSEにして『Roy's Toy』へと続く。ステージは後方両サイドに円形のスクリーンがあって、泡や細胞を思わせる抽象的な映像が映し出される。メンバーは昨年のツアーでもお馴染みのランディ・ホープ・テイラーとジェニファー・バトゥン。dsは今回は交代しているようである。ドラムセットには円形のアーチがあって、これはニュースステーションに出演したときに確認済みだ。ステージ向かって左側の袖にPAがあり、どうやらここからSEや打ち込み音を発しているようである。


 しかし序盤からエネルギッシュなライヴだ。ほとんど切れ目なく、今度は『The Pump』である。この日は公演2日目なのだが、初日の様子をネットで調べて見た限り、正味1時間20分程度という演奏時間の短さに対する不満の声が少なくなかった。それが今回のツアーのスタイルなのか、あるいは本人の不調によるものなのか、それとも単なる手抜きなのかを見極めることを心に決めて、私はこの日のライヴに臨んでいた。


 まず心配された体調面だが、軽快な身のこなしでステージ上を動き回っている姿からは具合が悪そうな様子は見い出せない。機嫌もすこぶるよさそうで、表情も穏やかで笑みが絶えず、高揚している中にもリラックスした状態を保っているように見える。スーパーギタリストの名に恥じない妙技も連発。恐らく、初日は時差ボケやTV出演などで体力的にも精神的にも少し滅入っていたのだと想像する。そして公演を重ねて行くにつれ、充実度は更に増して行くものと思われる。





 聴く側として10年待たされたという飢餓感、渇望感を差っ引いたにしても、『Who Else!』はやはり驚異的なアルバムだった。恐らくはキャリアの中で代表作のひとつに数えられるであろう出色の出来であっただけでなく、現在のロックシーンにジェフ・ベックありということを高らかに宣言してみせたのだ。『Brush With The Blues』『Blast From The East』には今や風格さえ感じられ、世界を又にかけてツアーをこなしてきたという自信と誇りがみなぎっている。


 対して新作からの曲。発表されたばかりということもあって果たしてライヴ映えするのか不安だったが、曲そのものが持つインパクトが、演奏の密度うんぬんということを気にさせず打ち消してしまっている。『Dirty Mind』のエッジの効いた鋭いリフ。『Nadia』の吸い込まれるようなメロディー。時代との距離感を妙に取り過ぎることもなく、かといって変に縮めることもなく、うまく折り合いをつけながら現在進行形であり続けるジェフ・ベック。この姿に感動。そして体が震える。





 そして唐突に『Rice Pudding』がっ!!第一期ジェフ・ベック・グループ時代の曲だが、思わぬお宝披露だ。もともとインストナンバーなので単に取っ付きやすかっただけなのかもしれないが、もしかしたら今回のツアーの隠し玉的存在になるのかもしれない。そしてまたもメドレーで『Jack Johnson』、更には『Savoy』へと続いた。


 後半は『Star Cycle』でこの日何度目かになるハイライトを迎え、『Rollin' And Tumblin'』ではジェニファーがvoを担当して進められる。そして本編ラストは『Blue Wind』。ジェフ・ベックが弾き出すギターフレーズとオーディエンスが口ずさむギターフレーズの掛け合いが楽しく、そして微笑ましい。昨年の公演ではここまでの一体感がなかったという記憶があり、この日集まったオーディエンスにも拍手だ。終了後はステージ前方にメンバーが出揃い、ジェフ・ベック自らメンバーを紹介する。





 アンコールは、昨年と同じくジェフ・ベックとジェニファー2人だけでの『Where Were You』。まるでバイオリンのような音色が2人のギターから発せられる。そして後の2人も駆け付け、ラストは『A Day In The Life』。国際フォーラムの天井を突き破らんばかりの透明感溢れるサウンドだ。折りしもビートルズのベスト盤が発売されて世界中で時ならぬビートルズブームが巻き起こり、ニュースステーションでもデジタルリマスターされたビートルズの映像が日替わりで放送されている状況。そしてそれは、幾多の荒波にもまれながら活動を続けてきた後昨年シーン第一線に帰還し、今なおアグレッシヴなエネルギーを放出しているジェフ・ベックその人のミュージシャンとしての生きざまにダブる。





 演奏時間は計1時間半くらい。確かに昨年の公演よりは短い。がしかし、今回は新作『You Had It Coming』でのツアーであること、そしてその新作の曲のほとんどが時間的にはコンパクトであること、メドレー形式の演奏が多かったことなどからして、私はこれでOKだと思っている。決して曲数が少なかったわけでもないし、もちろんジェフ・ベックが手抜きをしたり適当に流したりなどしているわけがない。むしろ、圧縮され濃密さを帯びた美しさとでも言うべき至福の瞬間を、何度も体感できたのだから。




(2000.12.3.)































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