Char,Bogert & Appice 99.12.25:日本武道館
今月の上旬、CX系列の朝の番組「めざましテレビ」に、Charとティム・ボガート、カーマイン・アピスが出ていて、それで彼らがツアー中であることを知った。東京公演は天王洲のアートスフィアで4回と武道館1回。アートスフィアはもともと舞台公演用の劇場のようで、全席椅子でありながらキャパが800を切るという極狭の会場。よって、この時点で既にチケットは売り切れ状態だった。気付くのが遅くて少し残念だったが、それでもツアー最終で何かプラスアルファがあることを期待して武道館に向かう。
開演時間スレスレに武道館入りし、そしてその4分後には早くも客電が落ちた。いよいよCB&A登場か!?と力が入るが、出てきたのはスーツ姿の兄ちゃんたちだった。ちっ、前座かよ。まるでスカパラのような管楽器集団(Charのツアーメンバーとして同行することが多いビッグ・ホーンズ・ビーというバンド。米米クラブのツアーにも参加したことがあるらしい)と、g、b、keyにDJのカルテットによる、ほとんどインストの演奏が40分ばかり続いた。
・・・が、はっきり言ってダレた。もちろん彼らに落ち度はないし、演奏自体はむしろよかったのでは、と1歩引いてみればそう考えることもできる(テレ朝系「トゥナイト2」のテーマ曲なんかも演っていた)。だけど、この日私が求めてきたのはあくまでCB&Aであって、彼らのスタイルはあまりにもかけ離れすぎているのだ。前座ありならありで、チケット等にはっきり告知すべきであろう。私は1度トイレに行き、その後缶ジュースを飲み、そして戻ってきて少し眠った(!)のだが、それでも40分は長かった。ステージ替えのために1度客電がつき、マーサ&ヴァンデラスの『Dancing In The Street』が流れたとき、私はほっとしてしまった(アナウンスなしの前座出演の場合、こうした反感を買うか、それとも自分たちのワールドに引き込んで見せるかも、そのバンドの腕の見せ所でしょう)。
で、気を取り直してCB&Aだ。ステージは赤い幕で覆われていて、セット入れ替えのためにしばしの時間を要する。そして客電が落ちるとすぐさま、幕が降りたままの状態でギュイーーーーンというドラマティックなギターのフレーズが。今までのモヤモヤを一瞬で吹っ飛ばすスタートだ。そして幕が開き、3人の勇姿が!うおおおおおおおおっ。向かって右側のCharは、黒いテンガロンハットにマントのような衣装。しかし、前のボタンが閉じられておらず、肌が見え隠れする。向かって左側のティム・ボガートはデニムシャツにジーンズ姿。髪が真っ白でまるでジョージ・マーティンのような風貌だが、動きには問題なさそうだ。Charのそばににじり寄ってお互いの弦を操る手の位置を近づける。スゴイ!素晴らしい!・・・だけど、私の席位置からはカーマイン・アピスが見えない!開いた幕が両脇に束ねられる形になっていて、ちょうどその束の影になっているのだ。なんてこったい。
出だしはCharの曲が続く。私は普段、ライヴ前にはとことんまで情報を収集し調べ尽くしてから臨む方なのだが、今回ばかりはほとんど丸腰状態だ。もともとCharの曲自体をほとんど知らず、それでもステージ上の妙技の連続に唸らされ、恍惚の時を過ごしている。そして、更に恍惚の瞬間が!カーマイン・アピスの野太い声で紹介された曲は、『Lady』だっ!!!思わず場内からもどよめきが起こる。私はもういても立ってもいられなくなり、席を立ってカーマイン・アピスの姿が見える位置にまで移動、空席を見つけてそこに陣取る。ドラムセットに囲まれたカーマイン・アピスを頂点にするようにして、Charとティム・ボガートがトライアングルを成しているような構図である。ステージ後方の垂れ幕に、そしてそのドラムセットには「CB&A」の文字があった。
古くはクリーム、もちろんベック、ボガート&アピス、90'sではニルヴァーナがそうだが、バンドの最小単位としてのトリオ編成にはいつもながら共感を持ってしまう。たった3人でここまで圧倒的な音を出してるなんて、って。カーマイン・アピスのドラミングにはやたら存在感がある。テクニックうんぬんを凌駕した"自分だけの音"を発するギタリストは結構いるが、"自分だけの音"を発するドラマーといったらこの人と故ジョン・ボーナムしかいないのではないか。更に、この人は歌まで歌う。ティム・ボガートとのコンビネーション。ハーモニー。ティム・ボガートのvo、こうまで高音が出るとは思わなかった。もう20年以上も前にBB&Aでも来日公演を果たしているが、その一面を垣間見たような気がした。そして、それらを脇に回った形でで支えているChar。私はてっきり、ほとんどCharが2人を従えたような、あくまでChar自身が前面に出たライヴになるものと思っていたのだが、やはりこの2人の超大物には敬意を払っているようで、BB&Aの曲のときは(カクタスやヴァニラ・ファッジの曲も演ったかもしれないが、結局私には判別不明)1歩引いたスタンスを取っている。そのCharの姿もまた素晴らしい。
「せっかくなのでゲストを」というCharのMCに導かれるようにして姿を見せたのは、なんとカルメン・マキである!どっひゃーーーー!!「どうもありがとう」とだけ言い放っていきなり3人に溶け込んでシャウトし出すマキ。ジャニス・ジョップリンを思わせるパワフルながらどことなく悲痛さが漂う歌声(私をロック界に生んでくれた母がカルメン・マキなら、ジャニスはマキを生んだ母であり・・・という、寺田恵子がジャニスについて書いた文を読んだのを思い出した)。Charとは盟友の間柄らしいが、それにしてもこの3人と対峙しても少しもひけを取っていない。浮いていない。4者4様のパフォーマンスでありながら、これが抜群に噛み合っている。なんという光景だ。なんという瞬間なのだ。マキ自身、今回の共演は念願だったとのこと。本人のMCによれば、20年ほど前にカーマイン・アピスのプロデュースでマキはソロアルバムを作ったそうで、一緒にステージにも立ちたかったけど結局実現しなかったとのこと。こうしたエピソードが聞けてしまうのもまたスゴイ。アートスフィアの公演ではマキは客席に姿を見せていたようだが、よもやこうしてステージに立ってくれるなんて。この日はクリスマス。最高のクリスマスプレゼントだ。
カルメン・マキは計3曲を共演して引き下がり、再びトリオ編成に。アコースティックこそなかったものの、ブルージーにゆったり聴かせる曲、まるで音が目に見えるかのような美しいフュージョンっぽい曲も見られた。もちろん、バトルを思わせる緊張感溢れるワザの連続も。ティム・ボガートのvoが正直ここまで目立つとは思いもしなかったが(失礼)、Charのvoはあくまでギターよりも前面に出ないように、ギリギリのところでとどまっているように思える。そして終盤。カーマイン・アピスのドラムソロがおっ始まり、ステージはアピスひとりとなる。まさに独壇場。まさにひとり舞台だ。カーマイン・アピスはこれまでにも日本人ミュージシャンとの共演が多いらしいが、今回のツアーが本人にとっても最も満足度が高いのではないか、と勝手に想像する。
再び3人に戻り、Charがgで『お正月』のイントロを弾いてみせる。そしてそのまま『Superstitions/迷信』へ。コレはカーマイン・アピスがドラミング同様に力強い歌声で歌い上げる。場内は当然のように弾けたのだが、個人的にはあまり興奮できなかった。ジェフ・ベックはBB&Aと前後した頃にスティービー・ワンダーとのコラボレートを果たしているが、この曲がBB&Aの看板的な存在になってしまい、そしてベックのいないステージでこの曲が演奏されているのは少し皮肉な結果にとれたからだ。そして本編ラストはCharの代表曲でもある『Smoky』。ジャッジャッジャッというフレーズが印象的だ。最後は自分の曲を持ってきて、更にはギターソロも炸裂。締めくくりをうまく仕上げたという感じかな。
アンコールは小刻みに計2回。ジミヘンを思わせる曲(『Hey Jimi』という曲だそうです)、そして『Da Ya Thank I'm Sexy/アイム・セクシー』!言わずと知れたロッド・ステュアートの代表曲である。ロッドとも共演などの人脈があってのことなのだろうか。ここで先程客演を果たしたカルメン・マキも再び姿を見せ、ダンスを披露してみせる。終盤ではCharの音頭で『お正月』を場内で合唱したりもして(笑)。2度目のアンコールでは、第2期ジェフ・ベック・グループ時代の曲なのだが、BB&Aのライヴでもレパートリーの一角を成していた『Going Down』も飛び出した。
今年は念願だったジェフ・ベックも観た。ツアーは最後になるのでは、と噂されるエリック・クラプトンも観た。ストーンズ黄金期を支えたミック・テイラーも観た。そしてこの締めくくり。この大団円。圧巻だった。最高だった。Charの差し伸べた手によって見事に蘇生したティム・ボガートとカーマイン・アピス。2人の超大物ミュージシャンを向こうに回して少しも見劣りしないChar。そして、日本で伝説の中にたたずんでいる数少ないシンガー、カルメン・マキ。チケットこそChar名義になっているが、実際ステージに登場したミュージシャン以外にもいくつもの顔が見え隠れする、そういう想いを馳せたくなる、素晴らしいステージだった。
(99.12.28.)
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