Suede 99.9.19:赤坂Blitz
アンコールを含む約90分のライヴは『Saturday Night』で締めくくられた。終演後のBlitzの外、友人たちの感想に耳を傾けるが、みんな「よかった」と言っていた。そうだよなあ。きっとこの日のライヴを見た人のほとんどが「よかった」という感触を得て家路についたことだろう。だけど私は・・・。
ほぼ時間きっかりに客電が落ち、優しいピアノの音色がSEとして鳴り響く。ステージ後方にはギリシャの神殿のような柱が4本並べられ、その上にかぶさるようにして"Head Music"の文字が浮かび上がる。メンバー登場。ブレットはすっかりおなじみ?になった感がある短髪。そしてリチャードの方も、以前は顔面を覆い尽くすぐらいの髪の量だったが、それが結構短くなっていた。
『Can't Get Enough』でスタート。ステージを右に左に動き回り、スピーカーに片足をかけ、ぴょんぴょん跳ねながら拳を振り上げて歌うブレット。コードを持ってマイクをブンブン振り回し、なかなか忙しい。曲によってはカンフーのような踊りも見せる。なんでだ(笑)?
セットリストは『Head Music』からの曲と『Coming Up』からの曲とがほぼ交互に演奏される形となる。だけど、明らかに雰囲気が違いすぎる。温度差がありすぎるのだ。『Can't Get Enough』よりも『Trash』『She』の方が。『Everything Will Flow』『Down』よりも『The Beautiful Ones』の方が。『Elephant Man』よりも『Lazy』の方が、ぜんぜんテンションが高い。まるで『Head Music』からの曲が、『Coming Up』からの曲の露払いにでもなってしまっているかのようだ。
確かに、3年前に『Coming Up』をひっさげてのスウェードのシーン帰還は感動的だった。バーナード脱退という衝撃。それを克服し、新生スウェードを打ち出そうともがき、潜伏している間にブラーやオアシス、レディオヘッドなどがUKシーンをにぎわせていた。スウェードどうしたんだ、大丈夫なのか!?という不穏な空気が、ある時期間違いなく存在していたと思う。しかし、『Coming Up』はそんな雑音を一気に吹っ飛ばした。スウェードここにあり。オレたちを忘れてんじゃねーぜ!という彼らの声明のようだった。各曲のクォリティは高く、これ全部シングルカットしてもいけるんじゃないの、という感じだった。
対して『Head Music』の方はどうか。『Coming Up』からは3年近くのインターバルとなる。間にカップリング集『Sci-Fi Lullabies』を発表したことからも考えて、『Coming Up』がひとつのピークであり、ここでキャリアにひと区切りをつけることによってスウェードは新章へと向かったのだと思う。そしてこの新作。冒頭の『Electricity』に代表されるように、少しサイバー路線かな、というのが最初に受けたイメージ。U2が『Actung Baby』を発表したときと状況が酷似しているように思える。しかし、これが完全なるスウェードサウンドとしての確立ではなく、まだまだ仕掛かり中のように思えるのだ。
例えば昨年9月のパルプの来日公演はどうだったか。『Common People』で大ブレイクを果たした後の問題作『This Is Hardcore』でのツアー。ステージは、その問題作からの曲を基本とする中にも過去の佳曲のピックアップが成されていた。『This Is Hardcore』は全体に重苦しい曲調だが、それが逆に『Common People』大ヒットの反動としてのパルプの"今"を表現していて説得力があった。そしてもちろん後半はクライマックス(『Common People』)へ。
クリスピアン脱退~バンド解散、と激震が走っているクーラ・シェイカーの今年6月の来日公演はどうだったか。新作『Peasants,Pigs & Astronauts』にてギターロックとインド路線を一層強く打ち出していたが、ツアーを続けるうちにインド路線は徐々に絞り込まれたとのこと。そしてライヴでは、そぎ落とされ、とぎすまされた結果としてファーストとかセカンドとかいった区切りのない統一感とバランスに包まれていたと思っている。
スウェードの今回のツアー、当たり前だが『Head Music』でのツアーだ。今回は『Dogman Star』からの選曲はほとんどなく、ファーストからも『Metal Mickey』『Animal Nitrate』の2曲を演るにとどめることがほとんどで、まさにスウェードの"今"を打ち出そうとしているはずだ。でも、ここまでのライヴを見ていて、これは『Coming Up』のツアーなんじゃないって勘違いされてもおかしくないような内容だ。『Coming Up』発表から既に3年が経っている。それなのに、『Coming Up』からの曲群におんぶにだっこ状態。スウェードの"今"が果たしてこれでいいのか。
私が最も期待し、そして同時に最も不安でもあったポイント。それは『Head Music』の曲群のライヴでの生命の吹き込まれようだった。しかし、やはりというか、見ていてそれは苦しいものだった。最新作がそのバンドにとってもピーク、というのはあくまで理想なのかもしれないが、でもこの状況はあんまりだ。ディープ・パープルの90'sのツアーは、そのほとんどが『Highway Star』で始まり、『Smoke On The Water』で幕を閉じている。もちろんベストヒット連発で、何とはなしに発表されている新作からの演奏はほとんどない。引き合いがあまりに極端すぎたかもしれないが、しかしスウェードはこういったバンドではないはずだ。現在進行形で、前のめりに突き進んでいるバンドのはずなのだ。なのに・・・。
ライヴも終盤に差し掛かり、ファーストからの『Animal Nitrate』のうねるようなgのイントロに一層歓声が高くなる。先月フジロックでバーナード・バトラーを見ていたこともあって、ああ、この曲のオリジナルはバーナードが携わっていたんだよなあ、とまたもや前向きではない気持ちになってしまう。
と、ここで新作のファーストシングルともなった『Erectricity』。現在のスウェードの名詞的存在の曲かもしれない。バーナード脱退の衝撃のときには『New Generation』があった。この当時、ブレットは自ら「スウェードはまだ最高の作品を作ってはいない。それはこれからなんだ!」とインタビューで答えていた。そのときの状況が、『Erectricity』をステージ上で発するバンドの姿にダブる。そして本編ラストとなる『She's In Fashion』へ。
今まで私がうだうだとこねくり回してきたことが、この2曲でようやく払拭されようとしてきている。氷解されようとしている。というか、今から思えば、この2曲がなかったらいったいどうしようという感じだった。『She's In Fashion』の後半の美しいメロディ。最後はブレットのvo、及びリチャードとkeyのニールのサポートによるサビの部分のリフレインとなる。感動的な瞬間であり、そして少ししつこくもある。でも、このしつこさはスウェードが一貫して持ち続けている"美学"だろうと私は思っている。そうした美学を貫きながらも、ギリギリのところで彼らは"今"と"未来"を見せつけてくれた。ギリギリのところで、彼らは踏みとどまってみせたのだ。
(99.9.22.)