Kula Shaker 99.6.5:Zepp Tokyo
96年の初来日時は、東京公演は全てウィークデーにして6時半開演という、全くもって社会人に優しくないスケジュールだった。で結局行けずじまい。よって、今回が自身初の生クーラであり、同時にオープンしたばかりのZepp Tokyoに入るのも初だ。お台場にあるパレットタウンというテーマパークの中、すぐ隣はトヨタのショールーム。そして、高速道路からも確認できる大観覧車の真下にZepp Tokyoは位置している。1階スタンディングの人はブロック別、整理番号順に並んでいる中、2階指定席の私はすいすいと中に入場できた。
Zepp Tokyoは世界最大の収容数を誇るライヴハウスというふれこみらしい。赤坂Blitzより広いといえば広いし、同じくらいだと言われればそうかもしれない。ただステージはあまり高くなく、前列の人はアーティストに"見下ろされる"感覚は薄くてすむと思われる。2階の座席数はBlitzよりは少ない。そして2階から下を見下ろすと、ステージに平行にブロック分けされている。ステージ直近がAブロック、B、C・・・と段々後ろになっていく具合。入り口もブロック別に分けられていて係員のチェックを受けることになっており、ブロック間には柵が設けられている。スタンディングでブロック分けはかえって危険だと私は思うのだが。これがウドー主催のコンサートによるものなのか、Zepp Tokyoという会場によるものなのかはわからない。私は約1ヶ月後にココでミッシェル・ガン・エレファントを観ることになっているが、ミッシェルでこんな柵なんか設けていたら絶対に怪我人出るな、と今から心配になってしまった。
開演時間は午後5時という健康的な時間(しかし、最近土日の公演では珍しくない)。客電が落ちるが、メンバーは現れず、BGMが延々と流れ続ける。曲が終わるたびに拍手と歓声が飛ぶが、BGMが流れ続ける。その前に観たジェフ・ベックの公演のスタートがあまりにテンポよすぎたために、これには結構ジレた。10分近くこの状態が続き、やっとメンバーが登場する。
クリスピアンの「Oh Yeah」という、意外に野太い声。そしていきなりの『Hey Dude』だ!ギターのイントロで既に鳥肌が立つほどの圧倒的なものを感じる。A・Bブロック辺りは既にモッシュ地帯と化している。今回の来日公演、初日が中野サンプラザ、そして前日が神奈川県民ホールと、いずれも椅子のある会場で、クーラの演奏自体はよかったが椅子、そしてそれによりオ−ディエンスのスペースが限定されてしまうことに対する不満の声を多く聞いていた。がしかし、今日はそんなことはない。始めからバンドとオーディエンスが一体となり、場内が異空間へと変貌している。私のいる2階席はさすがにみんな座ってるかな、と少し見回してみたが、結構立ち上がっている人がいた。
クリスピアンは黒いTシャツに白いパンツ姿。パンツはなんかぺらぺらでひらひらしている(笑)。自身でギターをかき鳴らしながらもぴょんぴょん飛び跳ねたりステージ上を右に左にアクティヴに動き回る。そのさまが鋭く、そしてカッコいい。ジェフ・ベックはまるでエビのように体を反らせながらギターを弾いていたが、クリスピアンは上体を叩きつけるように前かがみになってこれでもかと言わんばかりにギターをかきむしっている。『Hurry On Sundown』ではサポートメンバーによるハーモニカが響き渡る。それから「これはシングル『Mystical Machine Gun』のカップリングだ」というMCで始まった『Guitar Man』。初日には演奏されなかった曲だ。セットリスト固定ではないのね。気になるZepp Tokyoの音響だが、音割れもなくクリアに聞こえる。
そして個人的にはここからが凄かった。まずは『Peasants,Pigs & Astronauts』のトップを飾っている『Great Hosannah』。そしてすかさずインド調のイントロ。アルバム曲順に『Mystical Machine Gun』である。クリスピアンのvoにはこぶしが効いているというのか、やたらに力が入っている。この2曲はクーラの音楽観、世界観が飛躍的に拡大されたことを象徴する曲であろう。そしてそれは、クーラが単なる一発屋ではなく、90'sのUKを代表するバンドへの仲間入りを果たしたことの証明であるように思う。オアシス、ブラー、マニックス、スウェード、レディオヘッドに次ぐ存在にまで上り詰めたのではないのか。ストーン・ローゼズやライドが袋小路にハマって抜け出せなくなり、ブリットポップの終焉にのまれたバンドも数多い。しかし、クーラ・シェイカーは21世紀にまで生き残る資格を掴み得たバンドなのだと思う。
『S.O.S.』ではキーボードの効果音が脇を固め、『108 Battles(On The Mind)』ではポールのdsがしっかりリズムを形作っている。もちろんクリスピアンがフロントであり、注目はクリスピアンひとりになってしまいがちなのだが、バンドとしての結束も見事である。『Greatful When You're Dead ~ Jerry Was Here』では、もちろんサビのところで大合唱。一見ダサいようにも思えるが、こうしてみんなでサビを歌える曲を持ち合わせているのもクーラの魅力の1つだろう。
『Tattava』のとき、クリスピアンのギターコードがギターにからまってしまい、スタッフが飛び出してきてほどこうとする。少し水を差されたような感じになり、クリスピアン自身苦笑いしている。特に気負った様子もなく、リラックスしているようだ。なんでもインタビューによると、初来日はほとんどライヴハウスだったのに、今回は大きなホール会場になってしまって焦ってしまったとか。Zepp Tokyoぐらいのキャパが彼らにとっても演りやすいのだろうか。
ローゼズっぽいと思えないこともない『Shower Your Love』に続き、オリジナルアルバム未収録ながら今やクーラの顔的な曲になりつつある『Hush』へとつながれ、自然に体が動き出す。私にとって『Hush』といえばディープ・パープル、というイメージが長らくまとわりついていた。パープルのツアーではほぼアンコールの1曲目に選ばれていたバンドのデビュー曲でもあり、こちらには古臭くもしかし圧縮された美しさを感じていた。対してクーラの『Hush』には鋭い切れ味と躍動感が備わっているように思う。ここで本編が終了。クリスピアンが「See you Later・・・」と言い残してバンドはステージを後にする。
そしてアンコールは『Radhe Radhe』のイントロ。セカンドの中でも最もインド色の濃い、というよりもろインドな曲なのだが、イントロに留めておいたというのは賢明かもしれない。そしてそのまま『Sound Of Drums』『Time Worm』『Last Farewell』『Govinda』へと、まるで組曲のように切れ目なく一気に続く。どの曲もアルバムで聴いているよりもキーボードの音が鮮明だ。『Peasants,Pigs & Astronauts』のジャケットは森の中に宇宙飛行士がいる構図になっているが、このミスマッチ、アンバランスさ、混沌が現在のバンドのテーマなのかな、と思う。
クーラ・シェイカーが他のUKバンドと一線を画している点は、間違いなくそのルーツにインド音楽が位置していることである。セカンドアルバム『Peasants,Pigs & Astronauts』はインド音楽が基調になった観念的な曲、あるいはフレーズが一層顕著となり、正直私は困惑していた。当初のUKツアーでは代表曲連発のステージと、観念的なステージの全く内容の異なる2種類のステージが交互に繰り返されていたという。がしかし、バンドの東洋思想は本国においても必ずしも好意的には受け入れられず、ライヴを重ねていくに連れて後者のステージはほとんどなくなったそうだ。
エリック・クラプトンは長年自分がブルース・コンプレックスだと言い続け、ついには『From The Cradle』という全曲ブルースのアルバムを発表し、ブルースオンリーのツアーまでしてしまった。最近では、ベックがアコースティック中心のアルバム『Mutations』を発表し、このツアーで4月に来日。アンコールは『Odelay』からの曲群が炸裂する失禁感涙ライヴになったものの、もともとインディーズ時代にアコースティックのアルバムを作り上げていたこともあり、『Mutations』のようなアルバムを作り出し、ツアーを行うことに違和感はない。
今日のライヴ、これはこれでよかった。極上のモノを観たと思っている。がしかし、ここで敢えて突っ込ませてもらえば、『Peasants,Pigs & Astronauts』で強く打ち出された観念的な世界。これを更に一層打ち出しながらも、なおかつグルーヴ感、躍動感をクロスさせた楽曲群を生み出すこと。突き進むインド趣味に困惑してしまった私のような聞き手をねじ伏せること。これがクーラが次に目指すべきところだと思う。なぜならそれはクーラにしか成し得ることができず、クーラだけが有している権利なのだから。
(99.6.7.)
Kula Shakerページへ