Korn 99.2.5:東京Bay NKホール

先月のマリリン・マンソンのときは、同じNKホールでもとっても仕切りが悪かった。アリーナ席もスタンド席も同一に並ばされるし、パンフレットはなぜか終演後にのみ発売だったし。海沿いの立地であるため、とっても風が強く、寒いのである。そんな中を長時間並ばされるのはたまらない。呼び屋が違うせいもあるのか、この日はスタンドとアリーナの入場はきっちり分けられ、開演前も終演後もさしたる混乱はなかった。


 客が危険だ。外人度数が極めて高い。まだ開演前なのに、上半身裸になって暴れている連中がいて、にぎやかである(全裸で暴れてる外人もいたらしいが未確認)。私自身は3日連続ライヴの初日ということもあり、体力面を考慮してスタンド席にしていた。ステージ向かって左側の最前。結構見やすい。ステージも近く感じる。アリーナの連中の暴れっぷリも手に取るようにわかる。バンドの登場を待ちわびる、異様な熱気が充満している。自然発生的に「We want Korn! We want Korn!」というコールが発生する。





 開演予定時間を20分ほど過ぎた頃だろうか、ついに客電が落ちる。まるで怒号のような歓声。危険なにおい。そしてメンバー登場!「ウォー!」という歓声が一段とあがる。そして、なんと私の座席より数人おいて隣にいた金髪の兄ちゃんが、スタンド席から飛び降りてしまった!黒人アーミーのセキュリティーに捕まるが、それを払いのけてアリーナCブロックに突進していく。無謀だぜ、全く。


 アルバム『Follow The Leader』の実質1曲目でもある『It's On』でスタート。最初からトップギア状態になる。アリーナAブロックは完全に総モッシュ状態。Bブロックも負けてはいない。しかし、Cブロックが最も凄かった。上半身裸の外人集団が踊り狂っている・・・というより、ただ暴れているというか、周りとブツかり合っているだけというか、しかし、とにかく死人が出るんじゃないかっていうぐらいに凄い。Cブロックではステージがよく見えないため、逆ギレして暴れているのだろうか。ダイブも発生しまくりである。Cブロックからダイブして前の通路に飛び降り、そのまま強引にBブロックまで突入してしまっている無法な奴もいる(チケットはブロック指定だったため、これほんとはやっちゃいけないことです)。Bブロックではケンカが発生。若い兄ちゃんがブロックを抜け出して逃げ回り、それを追いかける外人。なんか、ステージ見てるより、客を見てる方が面白いな(笑)。


 次は『Freak On A Leach』と、アルバム曲順まんまにつなぐ。ジョナサンの衣装はキルトみたいで、スカート姿である。両肩を上下し揺する独特のダンス。それからセカンドアルバム『Life Is Peachy』からの『Twist』『Chi』へと繋いだのには正直意外。私はファーストアルバムが最も気に入っているので、正直最初は反応できなかった。ステージにはあまりスポットライトが当たらず、メンバーの状態が今1つよくわからない(これはマリリン・マンソンのときも感じた不満である。まあ、アーティストの意向も関係してくるので一概には言えないのだけれど)。しかし、とにかく新作からの曲を中心にバンドも客も全開している。




 がしかし、私の頭の中は、実はもやもやしていた。



それは、あの日の光景が頭に浮かんでしまったからだった。



あの夏の日、炎天下で灼熱の太陽が照りつける中、



 開演するまで待ちに待たされ、じりじりし、それだけでもう異様な雰囲気になっていた、



あの日、



あの時、







そう、それはFuji Rock2日目のKornのステージのことだ。





 あのときのKornのライヴは、実はあまり評判がよくなかったりする。2年のブランクを経ての久々のライヴであり、当時はまだ『Follow The Leader』発売前で、そこからの曲を演奏するのももちろん史上初だし。また、主催者の対応の悪さにもバンド側はイラついていたらしい。




しかし、あの場にはマジックがあった。



2度と再現できない空間があった。



 まるで、この試合に勝てば優勝が決まる、というプロ野球の試合で、アウトを1つ取るたびにウォーッ!という怒号がスタジアム中に鳴り響くのにも似たような、ただならない異様な雰囲気があった。異様な光景があった。何万人もの人が一同に会し、その全員が、弾ける瞬間を凝視していた。待ち望んでいた。そして、弾けた。その中にいられることはとても幸せなことだったのだ・・・。


 別に、目の前で演奏している今のバンドが、バンドの状態が、どこがいけない、何が悪い、ということはなかった。彼らは、目一杯のパフォーマンスを私たちに見せてくれている。披露してくれている。ホール内部が一体になっている。




なのに、私は取り残されてしまった・・・



私は、入り込めなかった・・・



醒めてしまっていた・・・



こないだのマリリン・マンソンといい、NKホールは私にとって鬼門なのだろうか・・・

























そんな私のモヤモヤが、一気に晴れるときが来た。

























あの音色、



フジロックでも鳴り響いた、あの音色、



私見だが、KornがKornたりえている所以、



Kornが他のバンドと一線を画している所以、



その特異な音楽性、



そして、そこに込められている想い、



そう、ジョナサンが奏でるバグパイプである。



『Shoots Ans Ladders』だ。



 ステージ後方、ずっと幕が覆われていたのが、幕が落ちて、『Follow The Leader』のジャケットが投影される。崖の先端を女のコが歩く、あのジャケット。この崖こそが、彼らが登ろうとしている、突き進もうとしている、"Ladders"ではないのか。



 彼らは、決して過去を振り返るバンドではなかった。



彼らは、決して現状に満足している集団ではなかった。



常に、前を見て、そして、未来に向かって挑戦し続ける集団だった。



アルバムよりも一層長く、長く鳴り響くバグパイプを聴きながら、



私は今、



まさに、



ここにいること、



この場所にいること、



彼らの渾身のパフォーマンスを目の当たりにしていること、



彼らの呼吸を、



彼らの絶叫を、



彼らが発散するオーラを、



感じずにはいられなかった。

























 曲は、『Shoots And Ladders』からメドレー形式となって次々に続いた。



体温が上昇するような感覚だった。



空気が圧縮されていくような感覚だった。



障害物を蹴散らして暴走するような感覚だった。



そして、その想いが更に破裂する瞬間が来た。



























乾いたシンバルの音、



奏でられるg、



必要以上にじらされる、



じらされる、



観客が、唸り声を挙げる、



拳を、突き上げる、



叫ぶ、



この何度聴いてもどきどきする、



ぞくぞくするその瞬間、



そしてジョナサンの唸り、



絞り出すような叫び、

















そう、『Blind』である。













 私は、この日の1曲目が『It's On』で始まったそのときから、『Blind』はクライマックスのためにとっておかれるのだろうと予想した。そして、その予想は図らずも的中したことになる。この曲に対する、バンド側の想いと、私の想いが合致した、というのは自惚れすぎか。





そして、再びジョナサンの唸り。



客を、煽る。



煽る。



怒号。



すかさず、『Got The Life』へ。



この絶妙な繋ぎ。



いやがおうにも盛り上がる。



まさに、ショウが最高潮を迎えた瞬間である。



一気に疾走する、その時である。



場内のモッシュ、



ダイブ、



ヘッドバンギング、



絶叫、



一層、激しくなる。





















 本編ラストは『Dead Bodies』で締めくくる。耽美的なイントロ。炸裂するビート。サビの大合唱。ジョナサンの「Thank you!」のことばと共に、メンバーはいったん引き下がる。


 アンコールを求める、歓声ともつかない叫び。手拍子。ここは本当に日本なのだろうか。危険な香りが、またも充満してくる。そして、メンバー再登場!怒号(何度このことばを使っているのだろうか)のヴォリュームが最大限にまで引き上げられる。


 しかし、リラックスしたgで場内は和んでしまう。ちょっと肩透かしである。しかし、その後は『Follow The Leader』のラストナンバーでもある『My Gift To You』だ。Kornのもう1つの魅力である、ドラマ性を感じさせる曲調である。そして、『Faget』へ。もちろんサビは大合唱となる。もうみんな、我を忘れている。のめり込んでいる。最後の瞬間を、謳歌している。


 ショウは、終わった。だいたい演奏時間は1時間20分弱といったところ。客電がつく。場内アナウンスが流れ始める。観客もぞろぞろ帰り始める。


しかし・・・、


 なななななんと(笑)、メンバーがステージに戻ってきた!しかも、ポジションが違うぞ。ジョナサンがdsのところに、そして、dsのデヴィッドがベースをとり、bのフィールディーがvoをとっての即興の、しかもなんだかめちゃくちゃなジャムが始まってしまう。まるでバラバラ。コンビネーションも何もあったものではない。場内も、どう反応してよいのかわからず、戸惑ってしまっていて、それでも出てきてくれた嬉しさに拍手を送っている。



個人的には、ニヤリ、である。


このハチャメチャさ、


いい加減さ、


気負いのなさ、


これこそが、彼らのほんとうの姿なのだろう。





















 アルバム『Follow The Leader』は、発売と同時に全米1位を獲得した。Fuji Rockで真夏の灼熱地獄を狂喜の場に変貌させたのは、他ならぬ彼らだった。彼らは今、全米で、日本で、いや全世界で、最も待たれているバンドだった。しかし、外野がこねくり出すそういった系譜的な論調など、彼らには意味のないことなのだ。




(99.2.14.)































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