Summer Sonic 2006/Day 1-Vol.4 Daft Punk







シャーラタンズのライヴが終了すると、場内は更に混み出した。係員が座っている人に対して立って詰めるよう呼びかけて、人と人との間隔も狭くなって密着状態に。私は右前方に陣取っていて後方の様子はわからなかったのだが、後になって知った話では、どうやら開演前に入場規制がかかったようだ。入場したいができない客と係員との間に緊張が走り、暴動寸前にまでなったらしい。マウンテンステージの規模を去年と同じにしていれば、そんな事態にはならなかったのに。





そんな中でついに場内が暗転しSEが響き渡ると、場内からは大きな歓声が上がった。ステージは幕で覆われていたのだが、それがゆっくりとオープンし、ステージセットがお目見えする。両サイドが、小さな三角形の鉄骨が組み合さってできている巨大な逆三角形の鉄骨アーチで、そして中心には黒いピラミッドのような巨大な卓が。そして卓の上部に、ダフト・パンクの2人、トーマ・バンガルテルとギ=マニュエルが陣取っていた。


2人は黒い衣装をまとっていて、もちろんロボットのヘルメットをかぶっている。そして曲は、いきなりの『Robot Rock』!イントロのところで延々とじらされたが(笑)、主メロに差し掛かるとシンプルで緩い独特の印象的なリズムが響き、あっという間にマウンテンステージは巨大ダンスフロアと化した。いったいどんなライヴになるのか、この場になるまでわからなかった。『Robot Rock』のPVでは、ダブルネックのギターを弾きドラムを叩いていたので、バンドスタイルなのかなとも思ったが、結局は卓上でコンピューター操作をするという、テクノ系王道のスタイルだった(当たり前か)。





テクノユニットのライヴの場合、音の方もさることながら、視覚効果も重要な要素となってくる。さてここでのダフト・パンクだが、まず両サイドの逆三角形アーチがカラフルにそしてランダムに点灯していて、中央プラミッドも縁に沿ったラインがランダムに点灯している。後方には横長のスクリーンがあるのだが、粒子が粗いのが遠目にもわかり、これは具体的な対象物を映すのではなく、直線的で無機的なラインを映し出している。ただし『Technologic』のときだけは、歌詞の単語が断続的にスクリーンに表示された。


そして音の方だが、重低音が基本にあって、このビートが足元から振動となって伝わってくる。時折一時的に音がこもりまた元に戻るのだが、これはわざとやっているはずだ。ピラミッド上の2人は、どちらがトーマでどちらがギ=マニュエルなのかはもちろん見分けがつかないが、並んでいる2人は結構身長差があった。曲はほとんどノンストップで次から次へと連射され、2人の動作も止まることがない。ふつうのアーティストなら、曲間に汗を拭いたり水分を摂ったりするが、当然2人はそうしたことをしないし、ロボットヘルメットをかぶっている状態ではそれができるはずもない。酸欠や脱水症状になったりしないのだろうか(ヘルメットに、冷却装置とか水分を摂れるような管があったりするのかな)。


序盤から中盤までを体感してきて、音はいいとして、視覚効果の方が単調なんじゃないかと感じていた。それが、徐々にではあるが視覚効果の発せられ方がシフトしてきた。逆三角形アーチやピラミッドのラインが閃光する状態だったのが、いつのまにかピラミッドそのものが閃光するようになり、更にはピラミッド内で映像が映し出されるようになってきた。黒いピラミッドの中に、蛍光グリーンのラインで描かれた座標が繰り広げられ、その座標が3次元的に展開していた。





曲はなおもノンストップで繰り広げられ、ダンスフロアと化している場内のテンションも少しも落ちることがなく、高いレベルで維持されている。この状態がずっと進むんだろうなと思っていたのだが、そうはならなかった。あの曲があったのだ。「決定的な」あの曲が、私たちを更に一段高い、別世界のレベルへと誘ってくれる瞬間がやってきたのだ。


イントロが響いたとき、期せずして場内から歓声が上がった。そのイントロは延々と引っ張られ、オーディエンスの方はさんざんじらされて、嬉しいのか苦しいのかわからないような感覚になっている(笑)。そしてついに、イントロから歌に差し掛かったそのとき、歓喜の瞬間が訪れた。「決定的な曲」とは、もちろん『One More Time』だ!!


この曲が決定的になりえているのは、もしかしたら世界中で日本だけかもしれない。そう思う理由は、この曲が収録されているアルバム『Discovery』のジャケットを大御所漫画家の松本零士が手掛けているからだ。そしてジャケットだけに留まらず、『インターステラ5555』というアニメーション作品まで作られていて、『Discovery』が基調となったミュージカル風の仕上がりになっている。ロックとアニメーションとのコラボレートは今までにもなかったわけではないが、ここまでがっぷり四つに組んだのは、恐らくこれが初めてだ。


なんでも、フランスでは日本のアニメーションが絶大な支持を得ていて、ダフト・パンクの2人も幼少の頃から親しんできたらしい。そして自分たちが大人になりミュージシャンになったとき、松本零士にラブコールを贈ってこのコラボレートが実現。松本零士自身、若い世代しかも海外のミュージシャンからアプローチを受けたことを、喜んでいるようだ。個人的にも少年期には随分と松本作品にハマっていたし、作品が持つ素晴らしさは今でも通用すると思っている。そんな想いもあり、『Discovery』の冒頭の曲でありまた象徴でもある『One More Time』を、こうした形で体感できるのがたまらなく嬉しいのだ。





歓喜の時はなおも続き、曲が進むにつれていよいよ終盤に差し掛かったような雰囲気が漂ってきた。ライヴ中、1度だけはっきりと曲間ができたときがあったのだが、もしかするとあれが本編とアンコールとの区切りだったのかもしれない。そして、映像の方にも更に変化が現れてきた。黒いピラミッド内に展開されている映像が、無機的なものからいつのまにか子供や老人といった人間の表情を映し出すようになり、見ている方は温かさを感じるようになった。そして気づいた。オーラスの曲が『Human After All』で、これがこのライヴにおける表現の到達点なのだということに。


全てが終わり、ステージが暗くなった。その中でトーマとギ=マニュエルの2人が両手を挙げて叩いていた。その手はロボットチックな手袋をつけていて、あの手で終始演奏をしていたのかと、こちらは舌を巻いてしまった。またヘルメットがピコピコと閃光していて、その光が暗いステージの中で一層目立っていた。やがて2人はピラミッドの卓を降り、ステージを後にした。





ダフト・パンクが今年ライヴ活動を行うということで、サマソニ主催者側もダフト・パンクのためのステージを作ろうと意気込んだ。しかしこの場になるまで、期待もしていたが正直言って不安の方が大きかった。フタを開けてみたら、小さくまとまったしょぼしょぼのパフォーマンスだった、ということもありえなくはないと思ったからだ。しかし、彼らは素晴らしいひとときを過ごさせてくれた。2日間を通し、個人的にベストアクトだったのは間違いなくダフト・パンクだったと、胸を張って言い切ろう。




(2006.8.17.)
















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