Summer Sonic 2005/Day 1-Vol.4 Nine Inch Nails
スリップノットのときから急激に日が沈み始め、終了した頃にはすっかり真っ暗な夜の世界に様変わりしていた。それから約30分のセットチェンジとなり、来るべきときに備えて座りながら静かに待った。この日は天候が危ぶまれたのだが、雲が多いとはいえ雨が降る様子はなく、半月が空に輝いていた。
やがてステージが暗転し、場内からは大きな歓声が起こった。ヴァリライトが閃光する中をナイン・インチ・ネイルズが登場。そしてしょっぱなが、いきなりハードにしてアップチューンの『Wish』だったもんだから、いきなりびっくりさせられてしまった。そしてもっとびっくりさせられたのが、ステージ両サイドにあるスクリーンに大写しになった、トレント・レズナーその人だ。上腕の筋肉が隆々としていてかなりマッチョな印象。そしてその風貌だが、坊主に近い短髪で、まるで長渕剛のようだ。
曲は『Sin』『March Of The Pigs』と続き、爆音モードで突き進む。ステージ上には特に凝った装飾もなく、強いて言えば後方に電飾やヴァリライトがあって、それらが効果的に閃光するくらい。バンドはドラムビートが底辺になっており、トレントの両サイドに陣取るギターとベースが弾けんばかりにそれぞれの楽器をかきむしっている。ギタリストはギターを上の方に滑らせるようにして弾き、一方のベースも重低音をブイブイ言わせていて、共に存在感がある。このベーシスト、元マリリン・マンソンのトゥイギー・ラミレスこと、現在はア・パーフェクト・サークルの一員でもあるジョーディ・ホワイトだ。
そしてトレントだが、曲によっては自らもギターを弾いて、ノイジーなリフを発している。歌に徹するときは、マイクスタンドを軸にするようにして前後に大きく上体を揺さぶっていて、そのさまはエモーショナルだ。全体的に体型がマッチョな印象だが、その分プレイもシンプルかつパワフルに見える。
来日は2000年1月以来5年半ぶりで、私が観るのもそのとき以来になる。その5年半前のときはアルバム『The Fragile』に伴うツアーで、トレントが歌いながら他のメンバーをなぎ倒したり、ステージを降りてフロア最前に陣取ったオーディエンスの前をゆっくりと歩いたりという、いろいろなアクションがあった。それだけでなく、中盤には視覚に訴える演出もあって、とにかく度肝を抜かれまくりだった。
今回トレントは、そのときとは真逆のパフォーマンスをしてみせている。凝った演出もなく、自らの派手なアクションもなく、もちろんMCもない。1曲演奏が終わると少しだけ間ができるが、すぐさま次の曲へと取り掛かり、再び爆音を発する。少しだけできる間は空気を間延びさせることはなく、逆に次に起こり得ることへの期待を抱かせるちょうどよい間になっている。何より音楽そのものを前面に押し出しているというか、小細工なし、剛球1本槍の真っ向勝負を挑んでいるような感じだ。
選曲は新旧満遍なくフォローされているが、曲により温度差を感じることはない。デビュー時の曲でもライヴの場においてはまるで最新シングルのように演奏されていて、それもトレントの力量の凄さを示すことのひとつだ。そして、最新作『With Teeth』からの曲も違和感なく溶け込み、勢いでぐいぐい押しているこのライヴの流れを一層強固なものにしている。シングル『The Hand That Feeds』も、中盤で披露された。
ハードな曲ばかりが連射されてきた後で、一転して静寂が訪れた。トレントが自らキーボードを弾き、そして歌う。前回のツアーではオーラスで披露されていた、名曲『Hurt』だ。原曲よりもかなりスローで、トレントは自分が歌うテンポに合わせるようにじっくりと鍵盤を叩く。スタジアム内に何万人もいるのが信じられないくらいに場内は静まり返り、トレントの一挙手一投足に注目する。その先にあるのは・・・、言い知れない感動だ。
終盤は追い込みモードとなり、『Starfuckers, Inc.』では爆音と怒号が炸裂。そんな中、曲中盤の「don't you,don't you,don't you,don't you,・・・」というフレーズでトレントは徐々に歌うテンポを落とし、オーディエンスは吸い込まれていく。そして再び爆音と怒号が凄まじくなり、1曲の中で静と動、強弱がくっきりと表現されていた。そして、ラストは『Head Like A Hole』。デビューアルバムの冒頭の曲がラストというのは、何やら暗示的だ。原点に帰れ、自らの立ち位置を再確認せよという、トレントの戒めのようにも見て取れた。
アンコールはなく、1日目終了を告げる花火がスタジアム後方から上がった。ほぼフルライヴに近い形のナイン・インチのパフォーマンスが、熱心なファン以外の人も目にすることができてよかったなと思った。個人的な感想としては、よくて当たり前というか、トレントならこれぐらいはやってくれるはずという期待を裏切らない出来だったと思っていて、強いて言えば、舞台が大自然に囲まれた野外ステージであるならば、もっと感動的なステ−ジになったのに、という気持ちが残った。
(2005.8.23.)
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