Fuji Rock Festival'07 Day 2-Vol.4 Iggy & The Stooges







フジロックには過去何度か参戦しているイギー・ポップ。そのいずれもが圧倒的であり、かつ驚愕のパフォーマンスだったが、舞台はいずれもホワイトステージだった。しかし、今回は晴れてグリーンステージに進出し、更にはストゥージズとしての出演になる。ストゥージズとしては、日本では2004年にマジック・ロック・アウトに出演はしているが、今回は実に34年ぶりとなるアルバム『The Weirdness』を引っ提げての参戦である。つまりバンドは、ライヴ活動を続ける中で結束を深め、それが創作活動にまで波及。バンドとして本格的に機能するようになり、その勢いを持っての参戦なのだ。





ほぼ時間通りにステージが暗転。メンバーがそれぞれ持ち場に着く中、最後に現れたイギーは上半身裸にジーンズ姿で、ぴょんぴょん飛び跳ねながらステージに登場。そしてすぐさま演奏に入るのだが、『Loose』『Down On The Street』と、ストゥージズのセカンドであり、後のパンクの源流に位置する名盤『Fun House』からの2連発だ。音はノイジーでラウドでヘヴィーで、まさにパンクのゴッドファーザーとしての存在感を見せ付けている。


ストゥージズが残した2枚のアルバムはいずれも名盤だが、個人的にはファーストの方を気に入っている。続くはそのファーストからで、アルバムのトップを飾っている曲『1969』から、イギーのキャリアを代表する曲のひとつになっている『I Wanna Be Your Dog』へとなだれ込む。ステージ上にうずくまって犬の泣き声を模し、機材によじ登って腰を振り、そして早くもステージを降りてモッシュピットに突入、と、観る側が期待していることを、こちらが思う以上の早さで繰り広げてくる。ステージに戻るときに壇の間の溝に落ちてしまったらしく、少し間が空いてしまったが、やがてイギーは無事にステージに生還した。


さてストゥージズの面々だが、ギターのロン・アシュトンは迷彩柄の服をまとい、フィードバックを効かせまくったノイジーなリフを発している。ドラマーはロンの実弟であるスコット・アシュトンで、ロンのリフに負けじと爆音ビートを発し、こちらも存在感を出している。そしてベースのマイク・ワットだが、ダブダブのツナギを着ているせいもあってか、体型はかなりたくましくなっているように見えた。もともとミニットメンやJマスキス&フォグとして活動していたこの人はストゥージズの大ファンでもあったそうで、そのプレイが認められ、ストゥージズとして弾くことを許された男である。マジック・ロック・アウトのときはまだ控え目にプレイしていた印象があったのだが、ここでは偉大なる先達にぶつかって行き、逆に彼らを刺激しているように見えた。





曲は『TV Eye』を経て、『My Idea Of Fun』へ。この曲は、マジック・ロック・アウトの後に行われたShibuya-AXの単独公演で、世界で初めて披露された曲だ。私は残念ながらその場に居合わせることはできなかったが、その模様は『Telluric Chaos』というライヴアルバムで堪能することができる。当時は未発表の新曲だったが、それから3年が経って、晴れて『The Weirdness』に正式収録。そして、今回の物販のTシャツの胸元にも「My Idea Of Fun」と書かれていることから、この曲は現在のバンドのテーマ曲的な位置づけにあるのではと思う。


イギーは何度もミネラルウォーターを手にし、口に含み、頭からかぶっていた。その表情が何度もスクリーンにアップで抜かれていたのだが、なんとイギーは笑っていた。この自然に囲まれた環境、ステージ、そしてここに集まった大勢のオーディエンス、こうした状況をいたく気に入ったのではないかと思った。そして、これまでこの人のライヴを観たことがある人であれば知っていることだが、この後いよいよ「アレ」をやらかすんだろうなというところに差し掛かってきた。『Dirt』を経て『Real Cool Time』となり、まずはモッシュピット前に陣取るセキュリティの面々の動きが慌しくなってきた。そして曲は中盤の間奏に差し掛かり、ついにイギーが言い放った。

















Come on !

















Come here !

















Come on , Japanese Mother Fucker !!

















この呼びかけがトリガーとなり、モッシュピット最前の柵を乗り越えてステージに上がらんとするオーディエンスが出始めた。しかしセキュリティはそれを制止しようとし、モッシュピット前はひと騒動に。しかしそうこうする中、ついに向かって左側からオーディエンスがステージに上がり始め、堤防が決壊して洪水が勢いよく流れ出すように、ステージには大勢のオーディエンスがなだれ込んだ。フジロックは開催11回目だが、より規模の小さい他のステージでならまだしも、グリーンステージでこんな状態になるのは、もちろん初めてのことだ。


さて、このとき私はどこにいたのか?私はステージ向かって右端の、モッシュピットの最前に詰めていた。グリーンステージのモッシュピットに陣取るのは数年ぶりのことで、右端と言えどステージからダイレクトに伝わってくる音と熱気は、やはり臨場感に溢れていた。つまり、やろうと思えば私自身も柵を越えてステージを目指すことができるポジションにいたのだが、荷物もあったし歳も歳なので(笑)、自分でそれをしようとは思わず、この光景を痛快な気分で観ながら楽しんでいた。その私の後ろからは、ステージを目指さんとする人たちが次々にやってきて、私はというと、彼らが柵を乗り越えるのをアシストしていた。若者よ行けーー!!という思いを込めて(笑)。ステージを目指すのは男性ばかりでなく、若い女の子も少なくなかった。


ステージ上だが、イギーをはじめメンバーを中心に大きな人だかりができた。メンバーに障ろうとする人、抱きつこうとする人、そしてそんなオーディエンスから、メンバーを守ろうとするスタッフたち。メンバーにまで届かない人たちは、好き放題踊っていた。そんなもみくちゃ状態の中、次は『No Fun』だ。2年前にヴェリー・スペシャル・ゲストとして出演したプライマル・スクリームが、Jマスキスを迎えてオーラスでこの曲を演奏した光景が、一瞬頭をよぎった。しかし今目の前にあるのは元祖ストゥージズによる演奏であり、そしてステージ上はカオス状態である。こんな痛快で気持ちのいい光景にめぐり合えたのはいつ以来だろうかと思うと、なんだか笑いがこみ上げてきた。そしてステージ上で踊っている人たちも、みな笑顔を浮かべていた。





ここでさすがにクールダウンに入り、スタッフはオーディエンスをステージから返す作業に入った。しかし、興奮状態なのかなかなかステージから人が引くことはなく、特にイギーの回りからはなかなか人が離れなかった。さすがに、イギー自身も「Take it easy ~♪」「Bye Bye ~♪」と、ステージを降りるよう促した。やがてイギーはいったん袖の方にはけて行き、日本人スタッフによるアナウンスが入って、それでようやく残りの人たちもステージを降りていった。


少ししてイギーがステージに生還したが、ここでメンバーがひとり加わった。テナーサックスのスティーヴン・マッケイで、『Fun House』のレコーディングに参加している、言わば準オリジナルメンバーである。曲は『Fun House』から『LA Blues』と、まさにアルバム『Fun House』の終盤を再現する形に。演奏の後半はインプロヴィゼーションのような状態になり、その間イギーは右側の袖の方でミネラルをかぶっていて、これで終わりかなという雰囲気が漂い始めたところで再度ステージ中央に生還し、『Skull Ring』で締めていったんバンドはステージを後に。しかしすぐさまアンコールで再登場し、再び『I Wanna Be Your Dog』を。ただしここでは、スティーヴン・マッケイのサックスが加わったバージョンだ。





個人的にはイギーのライヴは過去3度観ているが、その中のベストは初めて観た98年のフジロックだった。このときのイギーは、自らの肉体の限界を超えて歌い踊らんとする、とてもヤバい雰囲気があった。だけどその後のイギーは、自分にまとわりついているパブリックイメージを崩さないよう心がけ、無茶をしているようでいて実は手堅くやっているような印象があった。しかしこの日ステージに立っていたのは、メーターを大きく振り切ってなおかつパフォーマンスに徹しようという、98年に観たときと同じイギーの姿だった。


音楽の趣味が人それぞれであることは、とっくに承知だ。だがその上で敢えて言わせてもらうなら、今年のフジロック、このライヴを観ずして何を観ると言いたい。


まさに、最高の夜だった。

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(2007.8.20.)















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