Fuji Rock Festival'06 Day 2-Vol.4 Red Hot Chili Peppers
ここ数年の傾向だが、2日目のヘッドライナーのとき、グリーンステージ敷地内はとんでもないくらいの人の多さになる。初日はウイークデーの金曜日のため仕事で来れない人もいるだろうし、3日目は翌日から仕事に復帰するために夜になると家路につく人もいる。そのどちらでもない2日目の土曜日は、必然的に動員が伸びるのだ。ただでさえこういう背景があるのだが、加えて今回はレッド・ホット・チリ・ペッパーズがヘッドライナーであるために、なお一層人が多い。それは、レッチリがロックの頂点に位置するバンドであるだけでなく、嵐の第1回でもヘッドライナーを務めていて、フジロックの歴史に深く関わっているからだ。
雨は少し前にあがっていた。そして予定時間より少し遅れて、メンバーがステージに登場した。ドラムのチャドは見慣れた青いツナギだが、ジョンはグレーのスーツ姿、そしてフリーは柄物の全身タイツ姿で、頭はモヒカンになっていた。まずはステージ中央のドラムセットの前でジョンとフリーが寄り添ってセッションを繰り広げる。それにチャドのドラムも加わり、やがてジョンが『Can't Stop』のイントロのリフを弾いて、ここで場内から歓声が。そして、黒いベストをまとったアンソニー登場し、バンドに加わった(4人の衣装は、この前日に出演したテレビ朝日「ミュージックステーション」のときと全く同じだった)。
アンソニーのヴォーカルは意外なほどクリアで、メリハリがあって際立っている。ロングヘアをなびかせ、マイクスタンドを軸にし体を回転させながら歌っている。調子はよさそうだ。そして早くも、新譜『Stadium Arcadium』からのシングルである『Dani California』が放たれ、場内は一層沸いた。あちこちのアーティストをパロったPVがテレビにヘビーローテーションで流れていたこともあり、認知度が高かったからだろう。私は、正直この曲はライヴには向かない曲だと思っていたのだが、しかしバンドが持つ勢いがオーディエンスに波及したのか、意外なほどの熱狂ぶりを発揮した。
セットリストは、やはり新譜にして2枚組の大作『Stadium Arcadium』からの曲を中心としつつ、キャリアを総括するかのようなバランスの取れた構成になっていた。その新譜からは『Charlie』『Readymade』『Snow((Hey Oh))』といった曲が披露され、その一方では『Scar Tissue』やベスト盤に新曲として収められている『Fortune Faded』などが演奏される。さすがに、ここまで来てもう初期の曲は演奏しないだろうなと思っていたら、なんと『Me&My friends』を演ってくれて嬉しいやら驚くやらだ。
ライヴバンドとしても最強と言っていいレッチリだが、『By The Way』のツアーがそうだたように、今でもなおキーパースンはジョンだと見る。その『By The Way』のときは、メンバーが揃って「今はジョン期」と言い、実際ジョンが放つオーラには尋常ならぬものがあった。まるで神が舞い降り憑依したかのようで、本能の任せるままにギターを弾いていたのが印象的だ。では今はというと、見た目がスーツ姿だというだけでなく、全体的に知的になった印象を受ける。自身のあり余る才能を勢いに任せるのではなく、自らコントロールしメリハリをつけて放出できているように見える。曲によってはステージ向かって右端の方にまで寄り、へりに座ってギターを弾く。また別の曲ではコーラスもこなし、更にはビージーズの『How Deep Is Your Love』を弾き語りで歌うということまで!
終盤大詰めになり、いくつもあるレッチリアンセムの1曲『Californication』が解き放たれた。そして本編ラストは、今のレッチリの名詞的な曲と言っていい『By The Way』だ。ここまでミディアムもしくはスローな曲がほとんどだったように思えたので、ラストでのアップチューンには目が覚まさせられる思いがした。
そしてアンコールは、オープニングと同じくジョンとフリーのセッションで始まり、それがギアチェンジして『Give It Away』へ。この日唯一と言っていいファンクナンバーの炸裂に、数万のオーディエンスは踊り狂った。終盤はまたしてもセッション合戦となり、それが熱狂の宴を延命させた。しかしやがてそれも終わりを告げ、真夏の夜の夢から醒めたように、私たちはその場に立ち尽くすなり、帰途につくなり、また別の感動を求めて動き出すなりした。
この日のライヴはきっと各所で絶賛されるのだろうが、個人的には少し異なる印象を持っている。レッチリはアンセムを数多く持ち合わせているバンドだが、『Under The Bridge』を始めこの日披露されなかった曲がたくさんあったことが、まず意外だった。曲間にジョンがギターを交換するため少し間ができることがあったが、そのたび場内には静寂が訪れた。パフォーマンスにもっとパワーがあれば、あるいはオーディエンスの側の習熟度が高ければ、こうした静寂は訪れないはずだった。『By The Way』は本編ラストを突如告げるような違和感があったし、アンコールの『Give It Away』は半ばヤケクソのようにも見えた。
つまりは、私にとっては事前に期待していたほどの素晴らしさを得られなかったのだ。私がレッチリのライヴを観るのは4度目なのだが、今まで観て来た中でも今回がベスト、とは残念ながらならなかった(個人的ベストは2002年の単独公演)。ただ、これはもしかすると、レッチリが音楽的に更に進化を遂げていて、次のステージへと足を掛けつつあることを暗示しているのかもしれない。
(2006.8.25.)
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