Red Hot Chili Peppers 2002.11.2:幕張メッセ国際展示場ホール
個人的にレッチリのライヴを観るのは、今回が3回目になる。最初は、あの嵐の中のフジロック'97。2回目は、復活作『Californication』を引っ提げた2000年1月の武道館公演。しかし今回は嵐もなければ、復活劇というバックボーンもない。ということは、純粋に音楽に着目するライヴになりそうだ。
会場となる幕張メッセは、これまでもプロディジーやレイジ、サマーソニックなどで足を運んだことがある。しかし今回の9番ホールは、それらのライヴで使われたホールよりも、ひと回り大きく感じる。ブロックはステージに近い方から前方がA1、A2、後方B1、B2という形で4つに区切られている。いったい、どれだけのオーディエンスが訪れたのだろう。オールスタンディングのライヴが日本でもすっかり定着していることと、これだけの人を集められるレッチリはすごいなということを、思わずにはいられなかった。
開演前から、歓声や拍手が沸いては消えという状態が何度か繰り返された。そして予定時間を20分近く過ぎると客電が落ち、ついにそのときが来た。メンバーが姿を見せ、ジョン・フルシャンテとフリーがステージ中央で寄り添うようにして、ウォーミングアップとばかりに軽くジャムる。そして『By The Way』のイントロが!寄り添う2人にアンソニーも加わる形になり、メンバーの結束の強さを感じさせる。
ステージは後方に黒地に白い縦線が入ったイメージ画があるだけで、他には装飾らしい装飾はほとんどない。アンソニーは白いタンクトップ姿で、マイクスタンドを軸にするようにして体をのけぞらせて歌う。その右がジョンで、白い長袖シャツの上にグレーのTシャツをまとい、そして長髪を振り乱してギターをかきならす。後方のチャドは、ブルーのベスト姿で奮闘。左に陣取るフリーだけが、例によって例の如く上半身裸だ。
『By The Way』は、基本的にはハードで疾走感溢れる曲調だが、ファンクやラップといったレッチリの音楽的要素が凝縮された、とても興味深い仕上がりになっていると思う。キャリアを代表する曲のひとつになるのではと予感していて、そうした曲を生み出せる今のバンドの状態は、極めて良好なのだろう。続いては『Scar Tissue』『Around The World』と、前作『Californication』からの2連発。フリーが曲の終わりにジャム調にベースを弾いてつないでいるがために、1曲1曲のブツ切りとはならず、ほとんどメドレー形式状態。会場は、早くも沸点に達してしまった。
MC担当はやはりフリーで、今日集まってくれてありがとう~といったようなことを英語で話す。そして序盤は、最近2作からの曲が中心になって進んだ。キャリア最高傑作の呼び声も高い最新作『By The Way』だが、CDで聴く限り、タイトル曲以外はおとなしめでライヴ向きではないように思っていた。では実際はどうなのかというと、決してそんなことはなく、熱くそして激しい演奏で、それがオーディエンスの熱狂をも生み出している。
その核になっているのは、ギターのジョンだ。新作のリリースに当たり、アンソニーもフリーも、口をそろえるようにして「今はジョン期だ」と言っていた。私はCDを聴いただけではそのことばの意味を理解できず、2人がジョンに気を遣っての発言なのだろうと受け取っていた。しかしナマの演奏を目の当たりにして、やっとわかった。気を遣うも何もそんな必要はなくって、実際ジョンは尋常ではないくらいにすごいのだ。どの曲でも必ずと言っていいほどギターソロがあるのだが、そこでのジョンは神々しかった。まるで、ギターが自分の体の一部であるかのように操っている。
片やベースのフリーだが、この人はユニークなキャラクターや風貌ありきで、また自らバンドのスポークスマンを買って出ていることもあると思うのだが、ほんとうはベーシストとしてもっと注目され評価されるべきではないだろうか。レッチリは浮き沈みが激しく何度も解散の危機を迎えていたバンドだが、アンソニーとフリーが不動であるがために、こんにちまで生き延びている。それはメンバーの人間関係という面だけではなく、フリーの超絶とも言えるテクニックがあってこそだと思う。
最新作『By The Way』からの曲はジョンのプレイによって激しい曲に生まれ変わったが、前作『Californication』からの曲はというと、こちらはレッチリ代表作とされる『Blood Sugar Sex Magik』に全く見劣りしないだけの、驚くべき風格を備えた曲に生まれ変わっている。『Otherside』にしても、『Parallel Universe』にしても、そしてタイトル曲にしても、とても3年前に生み出された曲だとは思えない。まるで10年以上も歌われ演奏され、年輪を刻んだ深みのある曲のように聴こえるのだ。ステージ後方はいつのまにか4つの縦形のスクリーンに変わっていて、ステージ上のメンバーの動きや、曲にリンクした映像が流されるようになっていた。
本編は必殺の『Give It Away』で締め、アンコールはドラムのチャドが真っ先に登場。オーディエンスとの掛け合いを2度3度と繰り返し、するとフリーが逆立ちしながらステージに現れた。続いてはジョンで、ステージ向かって右端の、行けるところまで行くとへりに腰掛け、そして『Under The Bridge』のイントロを弾く。いつのまにかアンソニーもステージに戻っていて、歌い始める。最近2作の出来がライヴでも映えている分、それ以前の作品の曲は、奥の手~切り札的な魅力を備えるようになった。
ラストは『Me & My Friends』だったのだが、曲が終わり他のメンバーがステージを後にしても、ジョンだけは延々とギターを弾き続け、最後にステージを去った。ミック・テイラーはローリング・ストーンズの傑作アルバムの輩出に一役買ったものの、結局はバンド内に居場所がなくなってバンドを追われた。ジョンも一時はレッチリを脱退するが、紆余曲折を経て帰還。最初の加入時は18歳と若かったジョンだが、今はしっかり地に足がついたような存在感があり、ギタリストとしてもピークにあるのではないだろうか。
レッチリの来日は今年7月のフジロック以来だったのだが、今回の単独来日がフジよりも早く発表されたことや、ホワイトステージのスピリチュアライズドのライヴを観たかったこと、フジのステージが『By The Way』リリース直後となることなどから、私はこのときはパスしていた。ジョージ・クリントンとの夢の共演を見逃したことはちょっぴり悔しいが、だけど単独で彼らのパフォーマンスをじっくりと堪能することができて、よかったと思う。この日の公演は、来日初日。以降どんどん調子を上げながら、全国各地で素晴らしいライヴをしてくれるに違いない。
(2002.11.3.)
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