Fuji Rock Festival'03/Day 1-Vol.2 勝手にしやがれ/木村充輝/Theatre Brook
ホワイトステージの脇の坂道を登り、アヴァロンからフィールド・オブ・ヘヴンを経て、初日にして早くも最も奥に位置するステージ、オレンジコートに到着。冷たい雨が降り続いているが、ステージ向かって右側には飲食のテントがあって、ここで温かいものを摂る。ココは開始が12時で、そしてそのトップバッターを務めたのは、勝手にしやがれという日本のバンドだった。
びしっとスーツ姿で決めた7~8人のメンバーが陣取り、ステージはとても狭くみえる。演奏は、ウッドベースやサックス、トランペットといった管楽器が前面に出る形。よく見えなかったのだけど、ヴォーカルはどうやらドラムの人が担当していたようだ。オレンジコートは、もともとジャズ系のアーティストを中心に行うことを意図して設けられたステージのようで、川と森に囲まれた敷地で聴く音は、とても気持ちがいい。ただ、ご存知の通り天候は雨で、これが晴天だったらもっと気持ちがよかっただろうな、なんてことも想像した。
まだ始まったばかりのオレンジコートはさすがに人も少なく、だだっぴろい敷地で冷たい雨と風に打たれるのは、正直かなりキツい。約30分のセットチェンジの時間が、これほどまでに長く感じたことはない。初日は、1日中こんな具合で雨降りなのかなあ。
しかしそれでもなんとか耐えて待ち、お次は木村充輝のお出まし。憂歌団のメインの人でもあり(こちらは無期限で活動停止中とのこと)、テレビでもちらちら見かける人だ。確かプロレスファンでもあって、前田日明とも親交があったはず(と記憶している)。サポートのアーティストを擁するわけでもなく、たったひとり。楽器もセミアコースティックギター1本だけという、シンプルなスタイルだ。
この人の曲を聴くのは初めてだが、なのになぜかどこかで聴いたことのあるような、懐かしさを感じてしまう。合間合間のしゃべりもそうだが、歌のときには独特のダミ声が味わいとなり、聴いていてなんだか安心してしまう。ただ・・・、何度も書いているけど、これが晴れ渡った野外でならもっと気持ちよく体感できたと思うのだが、あいにくの天候のため、じっと聴いているのは正直キツかった。それともうひとつ。立地条件的に、オレンジコートがフィールド・オブ・ヘヴンに近すぎるため、同じ時間に演奏していたバンドの音がコチラにまでガンガン入ってきてしまっていた。途中、本人も苦笑いしていた。
では、その木村充輝のまったりライヴを邪魔(苦笑)していた張本人はというと、それはシアター・ブルックだった。町田康とのユニット「ミラクルヤング」も含め、既にフジロックには何度も出演しているが(しかも、調べたらいずれもヘヴンだった)、私が観るのは今回が初めてのこと。ずっと気になっていたバンドのひとつでもある。
ギター、そしてヴォーカルの佐藤タイジ。まるでマーク・ボランのようなアフロヘアで、白いスーツに身をまとい、エモーショナルにギターを弾きながら歌う。のだが、曲が途切れることがなく、メドレーで次々に演奏。休まないし、水を口にすることもない。ただただ弾きっぱなし。メンバー紹介もこの勢いでやってのけ、メンバーおのおのもそれぞれに見せ場を作る(特にキーボードの人が)。若干乾いたようなギターの音色に、タイジのソウルフルなヴォーカル。これがとめどなく続き、私はすっかり打ちのめされてしまった。
なぜもっと早く聴かなかったのか。なぜもっと早く、ライヴを観なかったのか。野外フェスで初めて観てその良さを知り、それがきっかけとなってその後の単独公演に足を運ぶというのも、私にとってはたまにあることだ。今回は、このシアターブルックがまさにそれだ。サビのフレーズが印象的であり、それがそのまま曲名にもなっている『ありったけの愛』は、フジロック期間中、私の頭の中をグルグルと駆け巡っていた。
3日目の夜、オレンジコートで大豆鼓ファームを観て、マッシヴ・アタックを観るためにグリーンに戻る途中、ヘヴンに立ち寄って飲食のテントで少し過ごした。と、そのテントになんとタイジが、奥さんと思しき人と一緒に姿を見せた。テントのマスターさんと親しそうに話していたので、恐らくはすっかり顔なじみになっているのだろう。この人自身が、フジロック~ヘヴンの空間や時間を楽しんでいるんだなと、思わせる一面だった。
(2003.9.9.)
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