Fuji Rock Festival'01 Day 2-Vol.3 Patti Smith







パティ・スミスのライヴは、観るというよりパティに会う、会えるという感覚の方が強い。あの奇跡の来日公演から4年半となる舞台は、念願かなってフジロック。もともと野外フェスにも積極的に参加している人なだけに、期待も膨らむ。私はモッシュピットほぼ真ん中の前5列目くらいに身を投じた。クルーがステージをセッティングしている間に流れていたBGMは、ジャクソン・ブラウンの『I'm Alive』。ジャクソンはパティとも交友があり、また今後のフジロックのステージに立って欲しいアーティストのひとりだ。





定刻を少し回りいよいよ登場。パティはクラリネットを手にしている。黄色いシャツの上に黒いジャケットを着け、迷彩柄のズボンという姿。微笑みながら手を振るパティ。笑うと目が細くなるが、その表情がとってもいい。そしてスタートはなんと、






Jesus died for somebody's sins...







いきなりの『Gloria』だ!静かに始まり、クライマックスで両手を突き上げエモーショナルに歌い上げる。アレンジはほとんどレコードまんまだ。4年半前に観たときは華奢に見えたが、この日のパティはたくましくみえる。


バンドはds、b、g×2という編成だが、ギタリストのひとりはデビュー時からパティを支える盟友レニー・ケイ。スリーブレスの黒いシャツを着ていて、そこから伸びている腕は意外なほどに細い。この日もつかず離れずの距離を保ち、パティに視線を送りながらギターをかきならし、コーラスでは熱唱。レニーの存在は、パティが安心してツアーをできることのひとつの要因に違いない。


確か4曲目だったと思うが(正しくは5曲目のようです)、イントロが流れた瞬間思わず驚きの声を上げてしまった。『Frederick』。パティがMC5のフレッド・スミスに捧げたラヴソングで、この曲を発表した翌年2人は結ばれ、パティは家庭に納まることになる。決して大袈裟でなくむしろ極めてシンプルな曲で、だけどひとりの女性が愛する人のことを切々と歌い、ここまで美しいと思える曲を私は他に知らない。私にとってのパティのベストソングだったのだが、夫フレッドが亡くなった今、もう歌われることのない曲だと思っていた。それが、それが・・・、自分のわずか数メートル前でパティ本人が歌っているのだ。





アーティストが放つオーラには、人を寄せつけない、近寄りがたい雰囲気を漂わせるオーラと、人を引き寄せるオーラの2種類があるのだと思う。パティの場合は断然後者なのだが、それだけに留まっていない。パティの姿を見る人、パティの音楽を聴く人、パティのメッセージを受け取る人それぞれの心の中にまで、温かく迫ってくる。自分が何を言うことができるのか。相手には何が伝わったのか。パティはこの2つを同時に成し遂げることができる才能を備えていて、だけどそれは技術でも小手先でもない、彼女自身の魂からにじみ出たものなのだろう。会場内にいる人がみな温かい気持ちになり、みな幸せな気持ちに包まれる。奇跡ということばはこのときのためにあるのだと、私は実感する。


ステージ向かって右のとことまでゆっくりと歩き、笑顔で手を振るパティ。そしてゆっくりとステージを降りたかと思うと、モッシュピットの前を端から端まで走り抜ける。モッシュピット前は大騒ぎになり、パティに触れんとみんな前に押し寄せる。残念ながら私は最前列まで接近できなかったが、パティが目の前を通り過ぎる一瞬、彼女の笑顔をしっかりと見ることができた。


再びステージに戻ると今度は重そうな靴を脱ぎ、裸足になった。黒のジャケットも脱いで腰に巻きつけ、身軽になる。クラリネットはちょっと音程が外れていたが、そんなのお構いなしとばかりに吹きまくる。そして・・・、


必ずやってくるであろうと信じていたその瞬間。『Because The Night』が苗場の自然に響く瞬間が。実はこの2日間、空は曇っていた。このとき思わず私は空を見上げたが、雲の間から晴れ間が覗いていた。偶然とはいえ、出来過ぎだ。この自然に包まれて、サビになるとパティは笑顔のままマイクをオーディエンスに向けて突き出した。私たちは合唱した。場内は、ひとつになった。





ラストは『Babelogue~Rock'n'Roll Nigger』で、パティは自分で目隠しをし、そのままでギターを手にして弾く。が、途中からギターの弦を1本、また1本と指ではじき、ぶちぶちと切っていく。目隠しをとり、再び手に取ったクラリネット。今度は音が外れることもなく、最後まで吹き切った。


手を振りながらステージの袖に消えるその姿を見届けると、アンコールを求める拍手が自然発生し出した。ステージセットの撤去が始まり、フェスの進行役を務める2人が現れても拍手はなりやまない。2人はちょっと困ったなという顔をしながら少しの間待って、パティに今1度大きな拍手をと呼びかけた。





この後のステレオフォニックスのライヴのとき、場内を小太りの外人がポスターを抱えながらのっしのっしと歩いていた。どっかで見たことのある人だなと思ったが、それはパティのライヴが始まる前、ステージでサウンドチェックをしていたクルーのひとりだった。そしてその手に抱えていたのは、パティのポスターだったのだ。私は弾かれたように立ち上がり、その人のところまで走って行ってポスターを買った。戻ってきて今1度よく見てみると、パティ直筆のサインがあった。4年半前の来日公演のときにもパティは会場で枚数限定でサイン入りポスターを販売していて、それは今でも私の宝になっている。今回フジロックに参加したことで、私にはまた宝がひとつ増えることになった。

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(2001.8.4.)
















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