Paul Weller 2009.4.4:Studio Coast=
昨年6月に新譜『22 Dreams』をリリースし、夏にはサマーソニックで来日。開催前には東京で単独公演も行われた。私は単独を観に行ったほか、サマソニではライヴ後半から参戦。当然ながら単独はコアなファンが集まり、一方のフェスでは熱心なファンとそうでない人が入り混じるのだが、後者の人たちにもよさが伝わるいい出来だったように感じている。そして今回の再来日だが、恐らくは今現在のポール・ウェラーの完成形が見られるはずだ。
ほぼ時間通りに客電が落ち、先頭を切って登場したのはウェラーその人だった。これはここ数年のライヴにおいてそうなのだが、このフットワークの軽さはこの人の状態のよさを物語っているように思えた。他のメンバーもそれぞれの場についたところで、ライヴはスタート。『Have You Made Up Your Mind』~『All I Wanna Do (Is Be With You)』と、新譜『22 Dreams』からの2連射だ。
ウェラーはステージ前方正面に陣取り、ロングTシャツをラフに着こなしながら嬉々としてギターを弾いている。その向かって右が、ギターのスティーヴ・クラドック。ウェラーと並ぶと少し小柄なスティーヴは、首に巻いたマフラーが視覚的にアクセントになっていて、もちろんプレイにも力が入っている。向かって左には長身のベーシストがいて、この人は少し下がり気味だ。後方はひな壇になっており、ウェラーの真後ろにはドラムセットとドラマーが、その向かって右にはキーボードの人が陣取っていた。ステージの装飾は、後方に4つのライトが並べられていて適時点灯し、またひな壇の後方下部も時折閃光していた。
序盤で早くも『The Changingman』が放たれてしまい、バンド時代のテイストが色濃い『From The Floorboards Up』へと続くくだりは、前半のハイライトになった。ウェラーは50歳を迎えたとは思えぬほどエネルギッシュだ。細身の体を小刻みに揺らしながらギターをかき鳴らし、エモーショナルに熱唱する。スティーヴと並んでのギター競演も何度となくあり、それも自らスティーヴの方に歩み寄るのが大半だった。間奏や次の曲に入るときはドラマーの方を向き、そのドラマーの合図でシフトしていった。長きに渡る盟友だったスティーヴ・ホワイトではない若い(そしてジャック・ブラック似/笑)人だが、オマエが合図を出してバンドを束ねろ、とでも言っているように私には見えた。
新曲も披露された。『Wake The Nation』という曲で、コンパクトにまとまった佳曲という印象だ。そして『Sea Spray』『Push It Along』ではウェラーはキーボードを弾きながら歌い、長いインプロが繰り広げられた『Porcelain Gods』を経ての『Let It Be Me』『One Bright Star』となり、『22 Dreams』から固め撃ちされた(『111』ではベースの人がチェロを弾いていた)。ソロになってからのこの人の作風は、自らのルーツ回帰から始まって、やがてソウルフルで骨太なところに落ち着いた気がしている。そうした中、電子音を鳴らしたりスローナンバーやインストナンバーがあったりという『22 Dreams』は、一見この人「らしくない」作品とも思える。がしかし見方を変えれば、この人の音楽性の幅広さや奥深さが凝縮された、決定版であるとも言えるはずだ。
この後はステージ前方に椅子が用意され、アコースティックセットに。『All On A Misty Morning』では、演奏が終わったかなと一瞬思わせてその後唐突にザ・フーの『Magic Bus』が。ウェラーのソロ初期のライヴでは、『Bull-Rush』の終盤に演奏されることの多かった曲だが、思わぬボーナスをもらった気持ちだ。続くは、なんとジャムの『The Butterfly Collector』!曲名だけではメロディが頭には浮かばなかったのだが(汗)、聴いたらああこの曲ねとすぐさま認識した。ジャム時代の曲と
いうのは、作られた年代が異なることもあるのか、やはり独特の空気を持っている。
続いてはドラマーとキーボードの人もステ−ジ前方に出てきてウェラーの横に陣取り、椅子に腰掛けてアコギを手にした。曲は『Brand New Start』だったが、前半こそウェラーが歌ったものの、中盤以降はフレーズ毎にスティーヴ/ドラマー/キーボードもヴォーカルを取り、という、意表をつく展開になった。ドラマー歌うまいな(笑)。なお、ギターのスティーヴは入れ替わるようにキーボードのところに行き、プログラミング機器を操作してサンプリングを流していた。 更に『Wild Wood』となるのだが、ここでまたも意表をつくアレンジに。原曲はウェラーがアコギ弾き語り形式で歌っている、非常にシンプルな曲なのだが、ここではウェラーはヴォーカルに徹し、ボサノヴァ調のアレンジに仕上がっていたのだ。かなり面食らったが、既成概念を打破せんとする、この人の姿勢と受け取った。
さて、通常のバンドモードに戻り、新譜においてはヒットチューン的位置づけの『Echoes Round The Sun』を経て、『Come On Let's Go』で本編終了。あまり間を置かずにアンコールとなったが、最初に姿を見せたのはやはりウェラーだ。まずは、またもや新曲『7 & 3』を披露。続いては自らキーボードを弾いての『Broken Stones』で場内の空気を引き締めた後、『Stanley Road』からの『Whirlpool's End』で長い長いインプロヴィゼーションを繰り広げて、アンコールを締めた。
前日の川崎公演がアンコール1回と聞いていたので、これで終わってしまうものとばかり思っていた。しかし客電はなかなかつかず、これはひょっとしてひょっとするかもと期待していると、まさかのセカンドアンコールに(この日以降の来日公演は全てアンコール2回になった模様)!場内もすっかり沸き上がったのだが、ここで放たれたのがジャムの『A Town Called Malice』だった。ウェラーのマイクスタンドにはタンバリンが掛けられていて、となればこの曲ありかなと思ってはいたが、この局面でついにお目見えしたのだ。
ぱっぱっぱっぱっぱらっぱ~というフレーズのところは場内大合唱となり、このときウェラーは歌わずにオーディエンスに委ねていた。この曲は近年のウェラーのライヴでは演奏率が高いジャム時代の曲なのだが、聴いていて改めてじぃんとくるものがあった。ウェラー自身のアーティストとしての年輪を感じさせるだけでなく、みんなで歌うことを共有できるアンセムになっていると思ったからだ。数年前のブリットアウォードでウェラーは功労賞を受賞し、やはりこの曲を歌ったのだが、その映像が頭をよぎった。そして、この曲はパンク世代の『Hey! Jude』『I Shall Be Released』になりうるのではないかと思った。
スティーヴ・ホワイトもデーモン・ミンチェラもいない、様変わりしたバンドメンバーになったが、そのコンビネーションは去年のサマソニのときよりも数段濃密になっていた。また、ツアー中に新曲を2曲披露したというのは、この人にしては異例のことだと思っている。これらのことから、今ウェラーはパフォーマーとしてもクリエイターとしてもかなりいい状態にあるのではと想像する。去年リリースされた『22 Dreams』は20曲オーバーの大作だったが、新作が届けられるのもそう遠くはないのではと思う。
(2009.4.19.)
Paul Wellerページへ