Oasis 2009.3.28:幕張メッセ国際展示場ホール
オアシスの音が極端にラウドでもダンサブルでもないことから、これまでの来日公演は椅子席の会場になることがほとんどだった。しかし、今回の来日は東京公演は幕張メッセとなり、数千人あるいは1万オーバーでのオールスタンディングとなる。入場時は整理番号毎に待機場所を細かく指定され、そして開場後はチケットに記載されているブロックに陣取ることに。私はまずは開場後にグッズ売り場に向かい、プログラムとTシャツを求めてからA1ブロックに向かった。
まずはオープニングアクト。今回の来日は地域によって日本のバンドが起用されている様子で、幕張ではクアトロという5人組が登場。ギター&ヴォーカル、ギター、ベース、キーボード、ドラムという編成で、全員が長髪だ。音はアッパーなギターロックで、そこそこ頑張っているのは伺えるが、オアシスとの共通項を見出すのは難しい。演奏時間は約20分で、さっと現れさっと演奏しさっと去って行った感じだった。彼らは、何年か前のフジロックのルーキー・アー・ゴー・ゴーに出演しているそうだ。
セットチェンジ中じっと待っていたのだが、A1ブロックの後方中寄りにいた私は、後方がPAブースという位置関係になっていた。ふと見てみると、DJの人がアナログ盤でプレイをしていて、これが場内にBGMとして流れている曲であることがわかった。また、「まもなく開演いたします」というアナウンスをした女性も、このブースにいた。そうしてクアトロ終了から30分近くが経過。DJが手を止めたのを見てこれは来るなと思ったそのとき、客電が少しずつ落ちた。場内からは大きな歓声が沸き、その中を『Fuckin' In The Bushes』のSEが流れ出した。
真っ先にステージに現れたのは、なんとリアムだった。他のメンバーもゆっくりと現れては自分のポジションに陣取る。SEがちょうど終わったところで、ノエルのギターから聴き覚えのあるリフが。『Rock N' Roll Star』でライヴは幕を開け、立て続けに『Lyla』~『The Shock Of Lightning』と、アッパーな曲で攻め立てる。オールスタンディングという環境もいい方に作用していて、オーディエンスの熱気も尋常ではない。これまでのオアシスの来日公演では客が棒立ちでノリが必ずしもいいとはいえず、バンドとオーディエンスの共鳴が生まれにくかったこともあったのだが、この日は軽くそのハードルをクリアしていた。
この前日にテレビ「ミュージックステーション」で既に見てはいたものの、モニターにどアップで映し出された坊主頭でみあげをアゴの下に来るまで伸ばしていたリアムは、これまでのイメージと大きく異なっていた。向かって右にはノエル、左にはアンディとゲムで、3人とも黒(あるいはもしかすると紺)系の衣装をまとっていた。リアムの真後ろには今回のツアーから加わったドラマーのクリス、そしてその右には今やオアシスのツアーメンバーとしてすっかり定着した感のある、元クーラ・シェイカーのジェイ・ダーリントンである。
『Cigarretts & ALchool』までが怒涛の勢いを見せていて、続く『The Meaning Of Soul』でようやく少しクールダウンし、落ち着いたモードへとシフト。ステージは、後方に4面のスクリーンが横並びになっていて、それぞれの間にライトが設置されていた。スクリーンは、ステージ上の4人を捉えたり、あるいは4面全てリアムだったりノエルだったり、またアブストラクトな映像を流したりしていた。またステージの両サイドに巨大モニターがあって、こちらはメンバーのアップを中心に映していた。Bブロックの人たちは恐らくステージがあまりよく見えないと思われ、モニターはそのサポートになるだろうが、A1ブロックの私も時折モニターに視線をやっていた。
新作『Dig Out Your Soul』はこれまでのオアシスの作風とはかなり異なる、ある意味実験性の高い作品だと思う。ライヴでは以前の曲との温度差が生まれてしまうのではとも思ったのだが、『To Be Where There's Life』『Waiting For The
Rapture』といった曲が演奏されてもそうはならず、私が勝手に心配したに留まった。続いてはリアムがさらっと袖の方に下がり、ノエルがヴォーカルを取る隠れた名曲『The Masterplan』に。間奏ではなんとゲムがギターソロを披露していてびっくり。これまで、オアシスのギターソロといえばほぼ100%に近い形でノエルだった(という印象が強かった)ので、これは嬉しい誤算だった。続いては『Songbird』『Slide Away』と、オアシスの中で定番とまではいかないが隠れた名曲が披露される。
新作からの『Ain't Got Nothin'』を経て、再びリアムが下がってノエルコーナーにシフト。ここで来たのが、今回の来日の超目玉と言っていい『Whatever』だ。ノエ
ルは演奏の前に「日本のファンに捧げる」と言い、アコギを弾きながら切々と歌った。クリスは全般的にタンバリンで合わせていて、また間奏ではゲムがブルースハープを披露し、これもとてもよかった。日本では何度かテレビのCMに使われ、今現在も放送中なのだが、何かの機会にノエルがこのCMを観たのではないかと想像する。来日初日の名古屋や追加の幕張では演奏されず、札幌からセットリストに入ってきていたのだ。イントロが始まったときの場内のどよめきようは凄まじかった。
「水戸黄門」こと『The Importance Of Being Idle』を経て(笑)、再びリアム生還。最新シングルである『I'm Outta Time』はスロー気味のじっくり聴かせる曲だったが、続く『Wonderwall』から本編ラストとなった『Supersonic』というくだりは、最早反則技に近かった。アンコールは、アコギバージョンの『Don't Look Back In
Anger』でスタート。圧倒的な勢いを以て迫ってくる原曲とは異なり、シンプルなアレンジだ。サビに差し掛かるとノエルは歌うのをやめ、オーディエンスの大合唱に委ねた。日本は英語圏の国ではないこともあってか、英語詞の合唱というのはどうしてもパワーダウンしてしまうと、これまで私はずっと感じてきた。しかしここでは、パワーダウンどころか見事なまでに合唱が成立していて、そのことにびっくりしてしまった。
リアムが加わり、新作からの『Falling Down』を経て、これまた問答無用の『Champagne Supernova』へ。そして、オーラスはビートルズの『I Am The Walrus』だ。初期の頃にカヴァーしていてその当時のライヴの締め曲でもあったのだが、その当時を思い起こさせるなつかしさはなく、むしろ今の曲として鳴らされているように思えた。リアムは歌い終えると早々にステージを後にし、他のメンバーも適度に手を振りながら袖の方にはけて行った。最後まで残ったのがノエルで、手を叩きながらオーディエンスに向けて挨拶をしてくれた。
ドラマーがザックからクリスに替わり、はてライヴバンドとしてどうか?というのが開演前までに考えていたことだった。しかしクリスはリズムキープのみに終始することなく、メリハリの効いたビートで思ったよりも目立っていて、それがバンドにもマッチしているように思えた。また、来日が決まったときからうすうすそうなるだろうと思っていたのだが、この日の深夜にフジロックフェスティバルの出演アーティスト発表があり、オアシスのエントリーが正式に発表になった。オアシスが出るとすれば、それはグリーンステージのヘッドライナーでほぼ間違いないと思われる。前回出演は2001年だったが、そのときは新譜にリンクしてではない、新譜と新譜との間のツアーだった。今回はまさに新譜→ツアーという流れの中での出演となるし、この日の出来から言って充分に期待していいと思う。
(2009.4.7.)