The Who 2008.11.16:さいたまスーパーアリーナ

さいたまスーパーアリーナには過去何度か足を運んでいるのだが、いずれも席はスタンドだった。しかし今回は初のアリーナ席で、しかもステージ向かって右端ながら前から4列目という好ポジション。ステージは目と鼻の先だ。この会場は用途に応じて場内の座席が可変になるのだが、今回はアリーナとスタンド席との境い目がほとんどなく、アリーナクラスにしては密閉感のある設営になっていた(横浜アリーナを彷彿とさせた)。





定刻より少し遅れて客電が落ち、当たり前のようにアリーナ席は総立ちに。まもなくメンバーがゆっくりとステージに姿を見せ、場内からは大きな歓声が沸く。オープニングは、ピート・タウンゼントのリフで始まる『I Can't Explain』だ。ビート系の曲はまさにライヴの幕開けにはもってこいで、場内の温度もイントロだけで押し上げられた感がある。ピートが腕を振り回すたび、そしてロジャー・ダルトリーがシャウトする合間にマイクコードを振り回すたびに、客の歓声が一段と高くなる。


続くは『The Seeker』~『Anyway,Anyhow,Ahywhere』と、ビート路線が続く。バックドロップには横長のスクリーンがあって、開演前まではターゲットマークが5つ横並びになっていたのだが、『I Can't Explain』ではバンドの映像が流れていたのだが、以降はイメージやデジタル加工された映像が流されるようになった。つまり、ステージ上のメンバーを抜くことは全くなかったのだ(私は席に恵まれたのだが、後方の席の人にとってはどうだっただろうか)。


メンバー配置だが、前方やや右にピート、やや左にロジャーで、この2人でフロントラインを形成。2人の中間の後方にドラムのザック・スターキー、> その右にキーボードのジョン、ザックの左にはギターでピートの実弟サイモン、 ベースのピノが陣取っている。ジョンは私の位置から機材の影になってその姿が全く見えず、音だけでその存在感を確認。サイモンはリズムギターに終始し、またほぼ全曲でコーラスを務めていた。長身のピノは、プレイそのものはかなり地味だ。 ピートは黒を基調とした衣装で、ハットを被りサングラスをかけていた。ロジャーはブルーのシャドウがかかった眼鏡をかけ、白いシャツにグレーのベストといういでたち。当然といえば当然だが、メインとサブの力関係がはっきりしている。





フーの来日はロックオデッセイ以来4年ぶりとなるのだが、前回と大きく異なるのは、この4年の間にオリジナルの新作『Endless Wire』をリリースしていることだ。というわけで、序盤はこの新作からいくつか披露されていて、イントロが『Baba O'Riely』にちょこっと似ている『Fragment』が演奏された。また、お世辞にもキャリアを代表する曲とは言い難い『Eminence Front』や『Sister Disco』などもあって、意外と言っていいものやら貴重と言っていいものやら。


しかし、やはり場内がひときわ沸き立つのは往年の名曲たちだ。一時期テレビのCMでも流れていた『Who Are You ?』は最早ロックスタンダードと言っていいだろうし、片や『Behind Blue Eyes』といった、派手さこそないが味わいのある曲が聴けるのも嬉しいところ。そして何より素晴らしいのは、これらの曲自身が保有している魔力に演奏する側が依存しておらず、今現在のフーが緊張感を以てステージ上で表現できていることだ。ココが懐メロアーティストと現役アーティストとの分かれ目だと思っていて、もちろんフーは後者であり、だからこそピートとロジャーが60の歳を過ぎていてもカッコいいのである。


『Baba O'Riely』では、出だしをロジャーが歌うが、その後にピートが引き継いで歌うパートとなる。ココはライヴの場では場内合唱になるところでもあって、私は開演直前に必死で歌詞を覚えていた。のだが、この曲のときはスク リーンに歌詞が出ていて(笑)、結局コレにより場内は大合唱に。


Don't cry~

Don't raise your eyes~

It's only Teenage Wasteland~♪


後半は更に怒涛の名曲攻撃となり、コンセプトアルバム『Quadrophenia』からの『5:15』や『Love,Reign O'er Me』(後者ではスクリーンに映画「さらば青春の光」の映像がモノクロで流れていた)、そして『My Generation』へ。ここまでほとんど地味だったピノが、ベースソロをこなすときにピンスポットを浴びていた。もともとコンパクトな曲なのだが、ココでは10分近くに拡大され、中盤以降は延々とインプロヴィゼーションが繰り広げられた(少し間延びしてしまったのが残念)。


そして、本編ラストは問答無用の『Won't Get Fooled Again』。シンセのイントロが響いただけで聴く側は体内に電流が走ったような衝撃を受け、そして手拍子に。もともと長めの曲なのだが、終盤なるとまたシンセのイントロが響くパートがあり、これがいい「タメ」になって、ロジャーのシャウトが一層冴え渡る。映画『The Kids Are Alright』のラストもそうだが、絶対的なパワーを持つキラーチュ−ンであることを、改めて実感させられた。





さてアンコールだが、ピートによるカッティングのリフが印象的な『Pinball Wizard』で口火を切り、いよいよ名作『Tommy』からの怒涛のメドレーとなる。続いて、今年公開された映画のタイトルにもなっている『Amazing Journey』からインストの『Sparks』へとなだれ込み、緊張感がどんどん増幅していくのがわかる。そして曲が終わり一瞬の静寂が訪れたそのとき、ロジャーが歌う『See Me, Feel Me』が、あまりにも圧倒的なメッセージとして場内を支配するのだ。


終盤のスケール感溢れる演奏から、大団円のような雰囲気になり、曲が終わるとサポートの4人はステージを後に。これで終わり?と思いきや、ロジャーとピートはステージに残り、ピートのアコギ弾き語りによる『Tea & Theatre』がオーラスだった。地味でシンプルな曲だが、締めくくりとしては不思議と似合っていた。この『Endless Wire』のラストナンバーを持ってくるところに、2人のプライドと意地を見たような気がした。








キース・ムーンもジョン・エントウィッスルもいない現在のフーだが、ピートとロジャーは2人の魂を感じながらステージに立っているそうだ。2人だけでなく、サポートの4人もそれを感じながら演奏していると思われ、特にザックのドラムは、これまでにもジョニー・マーオアシスのライヴなどでそのプレイを観てきたのだが、今回ほどパワフルでダイナミックに見えたことはなかった。


来日しない最後の大物と言われていたのも今は昔で、2004年のロック・オデッセイで初来日が実現し、そして今回は東阪をツアーする単独公演だった。もっと早くに来日が実現していれば、フーの日本におけるステータスはローリング・ストーンズやレッド・ツェッペリンに比肩していたはずだが、逆にこういう形での認められ方というのもアリなのかなと思えるようになった。フーの曲をカヴァーする若手や中堅のアーティストは数多く存在していて、そうしたフォロワーを横目に見ながらも、その大元であるピートとロジャーは、(一時解散していたとはいえ)40年以上の時をサヴァイヴしてきていて、その生きざまがロックそのものだからだ。




(2008.11.20.)






























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