スピッツ 2008.3.12:神奈川県民ホール

スピッツのツアー「さざなみ OTR」は昨年の12月から始まり、ほぼ全国を横断して今月末に終了する。この日の公演は終盤の部類に属するが、ネットで情報を収集していたところ、会場でCDを買うと先着でメンバーのサインがもらえることがわかった。そこで早めに会場に到着して入場の列に並び、開場するとすぐさまCD売り場に直行。新譜『さざなみCD』もしくは『さざなみLP』のどちらかが対象で、私はCDの方を購入してサイン色紙をもらった。メンバー4人のサインに加え、「08.3.12 横浜」という日付と場所が入っているのが嬉しい。その横には☆マークがあったのだが、横浜ベイスターズからの引用かな。





予定時間を10分ほど過ぎたところで、客電が落ちる。ステージ向かって左の袖からメンバーがゆっくりと入ってくるのがうっすらと見え、やがてそれぞれが持ち場についたと思われる頃に演奏がスタート。バックドロップにはボード状のライトが横並びになり、それが3段に重ねられていたのだが、その最下段のライトが発光し、メンバーがシルエット状に浮かび上がるのとほぼ同時に、『僕のギター』が始まった。


メンバー配置だが、前列中央に草野マサムネ、向かって右にギターの三輪テツヤ、左にベースの田村が陣取っている。後方はひな壇状になっていて、マサムネのほぼ真後ろにドラムの崎山、そしてその向かって左には2段×2列の鍵盤を操る女性がいた。ステージセットは前述のバックドロップのほか、両サイドに鉄塔があって、ホール会場にしてはセットが揃っている方と感じる。この鉄塔は、よく見るとスピーカーを覆ったものだった。


『不思議』を経て『ヒバリのこころ』となり、ここで早くもショウはクライマックスを迎えた。スピッツの曲は大半がコンパクトにまとまっていて、それがポップで親しみやすくなっていると思っているのだが、ここでのこの曲は終盤が拡大された。テツヤのギターソロがフィーチャーされ、マサムネはその間マイクスタンドを離れてステージの前方ににじり寄り、その後向かって左前方の方に足を進めていた。個人的には、初期の曲なのに古くなっていないことに驚かされ、そして嬉しくなった。





私がスピッツを聴くようになったのは『ロビンソン』がヒットした95年からで、つまりは10年以上になるのだが、ライヴとなるとこの日が初めてである。ので、スピッツのライヴならではのお約束というのも知るはずがなく、転校生の心境だ(笑)。そこでまずびっくりさせられたのが、MCが異様なまでに多かったこと。3~4曲くらいおきにMCがあって、ライヴ中トータルで7~8回はあったのではと思われる。しゃべるのはだいたいマサムネだが、テツヤと田村も適時フォローを入れるという形だった。


MCの内容をここで集約する。この公演の前の週末に韓国に行ってソウルで公演を行っていたのだが、ホテルと会場と空港にしか行っておらず、外国に行った気がしなかったとか、マサムネはMCをほぼ韓国語でこなしたが、メンバーは相槌は打つもののことばの意味をわかっていないとか、韓国語はマサムネの故郷である博多弁に似ているとか、そんなことを言っていた。他には、ウルフルズがタコ焼きならスピッツはカレーだとNHKホールで言ったらそれが波紋を呼んだらしく、スピッツは(みそ汁に入れる)麩でありたい、とここでは言っていた。


他には、マサムネは花粉症だけどステージに立つと自然に鼻が通るとか、ティッシュ1枚作るのに水1.5リットルが必要で、だからティッシュを使わないように手鼻をやってみたとか、去年で結成20年を迎えたとか、神奈川県民ホールでやるのもこの日が9回目だとか、いろいろしゃべってくれた。しかし最も印象的だったのは、20年やっていてMCがぜんぜん上手くならないと、半ば自虐的に繰り返し言っていたことだった。確かに上手ではないが、独特の味わいは出せていたと思うし、観客とも適度にコミュニケーションが取れるので、これはこれでいいのかなと。





新譜『さざなみ』にリンクしたツアーなので、当然ながら演奏される曲はそこからを中心としてライヴが進む。多くの日本のアーティストはシングルをポップにしてアルバム収録曲では結構冒険することが少なくないと思うのだが、ではスピッツはどうかというと、これがどの曲も同じトーンで仕上がっていて、それがライヴの場でもほぼそのまま生かされているように感じる。つまりは全曲をシングルカットしても充分に通用すると思っていて、この水準の高さが素晴らしい。『さざなみ』の制作はスピッツと東京事変の亀田誠治とで行われたそうで、亀田の手腕もその一因かもしれない。


ライヴの場でのメンバー4人の役割も、面白いほどに明確だった。マサムネはヴォーカルとギターだが、アコギとエレキを使い分けるも、ほとんどがリズムギターで自らソロを弾くことはまずなく、歌に重点を置いていた。暴れまくっていたのがテツヤのギターで、ほとんどの曲の間奏でソロを炸裂させていた。テツヤのギタープレイが、CDとライヴとの違いの最たるものだろう。アクションはさほどでもないが、アーミングやチョーキングを駆使し音で暴れまくっていた。


対照的に最も動きが豊富だったのが田村で、だいたいは自分の立ち位置の周辺をゆっくりと歩きながらベースを弾き、時には観客に背を向けてドラムセットを向いて弾いていた。何度もハイジャンプしていて、もしかしてスティングを意識してる?とも思った。そしてドラムの崎ちゃんだが、この人は徹底して地味で、とにかくリズムキープに終始。ここまで自己主張を抑え黒子に徹しているドラマーを観たのも久しぶりで、今ではむしろ珍しいあり方のように思える。メンバー全員にマイクスタンドがあったが、コーラスをこなしていたのはサポートの女性のみだった。





本編を『漣』で締めくくり、アンコールでは各自着替えをして登場。まずは映画「ハチミツとクローバー」の主題歌でもある『魔法のコトバ』で、懐かしさと普遍性を同時に表現するスピッツ節が冴え渡る。そしてその次だが、なんと『ロビンソン』『涙がキラリ☆』等を収録しているアルバム『ハチミツ』のタイトル曲だった。今回のツアーは、セットリスト的には本編が固定でアンコールが日替わりらしかったので、何が来るかと密かに期待はしていたのだが、私にとってはよもやのセレクトだった。


前述の通り、私がスピッツを知ったきっかけは『ロビンソン』が大ヒットしてスピッツがメジャーブレイクを果たしてからだった。インターネットの普及やロックフェスティバルの定着などで、ここ数年は日本人アーティストも聴くようになってはいるが、私の趣向は基本的に洋楽である。増してや10年以上前となると、今以上に洋楽にどっぷり浸かっていたのだが、それでも『ロビンソン』は衝撃的だった。こう感じた人はきっと少数派だと思うが、今まで洋楽アーティストに求めていた表現をスピッツはやっていたのだ。


だから『ハチミツ』は迷わず購入し、しばらくの間愛聴していた。タイトル曲はアルバムの冒頭に配されているのだが、決してポップとも派手とも言えないこの曲がここで演奏されるとは思わなかったし、もちろん嬉しかった。序盤の『ヒバリのこころ』もそうだったし、終盤の『スパイダー』もそうで、もちろんスピッツ自身は軸がブレることなく良質の作品を輩出し続けているのだけれど、私にとって切実なのはやはり初期から前半のスピッツなのだということを、この場で改めて実感した。ライヴは、『春の歌』で幕を閉じた。





この日の公演には、カメラが入っていた。MCでメンバーもそのことに触れていたのだが、ここで収録した映像がDVDになるともならないとも言わなかったので、どういう形で日の目を見るのかはまだわからない。BSやCSの番組用だったのかもしれないし、あるいは今後シングルカットされる曲のPV撮影だったのかもしれない。ビデオ撮影は、そのほとんどが東京公演が対象になると思っていて(これは機材の手配やスタッフ召集の都合もあると思っているのだが)、横浜の公演が収録されることは結構珍しいと思っている。なので、自分が観に行った公演だからというのももちろんあるが、純粋にライヴDVDとしてリリースされ流通されることを願っている。




(2008.3.15.)
















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