The Nightwatchman 2008.2.13:Club Quattro
レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのライヴの興奮も醒めあらぬ中、今度は幕張メッセとはキャパシティも真逆のクアトロにおいて、トム・モレロのソロプロジェクトであるナイトウォッチマンのライヴである。私が手にしていたチケットは、整理番号がそんなに早い方ではなかったのだが、ウイークデーということもあってか開場直後から入場する人の数はそれほどでもなく、なんとかカウンター席をゲット。そして開演時間の頃になると、場内はほぼ満員に近い入りになった。
予定より10分くらい過ぎた頃に客電が落ち、トム・モレロその人が登場。アーミーシャツにキャップというお馴染みのいでたちで登場し、そしてサングラスをかけていた。早速アコースティックギターを抱え、首にはブルースハープのホルダーをかけていて、アルバムのタイトル曲でもある『One Man Revolution』でライヴはスタートした。
アルバムに収録されている曲には女性コーラスやキーボードなどが入っていて(キーボードは、プロデュ−スを務めたブレンダン・オブライエンが弾いていたのだそうだ)、ではこの日のライヴはどのような編成になるのかと思っていたのだが、完全にトムひとりだけのソロ・アコースティック・スタイルだ。ステージにはアンプも最小限しかなくがらりとしていて、その分トムの存在感が際立ち、観る側の視線も必然的にこの人に釘付けになる。そしてトムだが、低音ヴォーカルが際立っていて、歌の合間に入る「ハッ!」という掛け声が心地よく場内に響き渡る。
2曲を歌い終えたところで、トムはサングラスを取って素顔をオープンにした。そして、次の曲はクラッシュのジョー・ストラマーに捧げると言い、『Maximum Firepower』を披露した。演奏はトムひとりだが、トムは曲間にMCをサポートしてもらうための通訳を呼び寄せ、自ら放す英語もかなりゆっくりめにしゃべって、その意図を通訳を介してオーディエンスに伝えようとする。
しかあし、この通訳の兄ちゃんがとんだ食わせ者だった。レコード会社の担当なのか、あるいはプロモーターの担当なのか、はたまた別の関わりの人なのかは知らないが、まず根本的に通訳の役目を果たせていなかった。「アパルトヘイト」を伝えられなかったのは、英語が堪能ではない私ですら痛い&恥ずかしいと感じたし、ネイティヴなニュアンスを汲み取って伝えるだけの語学力がないのは明白。フランク・ブラックの招待ライヴでの鮎貝健の通訳&ナビゲーションが如何に上手かったかを、ここにきて痛感させられた。
さて、そのMCの内容は結構多岐に渡った。トムはクラッシュ好きであることを以前から公言しているが、金銭的に恵まれていなくても、また技術に優れていなくても、アーティストにはなれるんだということを教えてくれたのがパンクムーヴメントでありクラッシュだったと、語ってくれた。また、ハリケーンカトリーナのことやジョージ・W・ブッシュのことなども語り、この人らしいなと感じた。
そしてユーモラスなエピソードも披露。オーディオスレイヴ時代、ツアーでスウェーデンに行っていて、18歳の女の子にトム・モレロですかと声をかけられ、もちろんと答えると、すかさずクリス・コーネルはどこにいるの?と聞かれたそうだ(失礼だなあ/苦笑)。トムは、彼は恐らくホテルでオーディオスレイヴをどう解散させるか考えていると思うよと言ったそうで(でも、いくらなんでもこれはネタだろう)、そのおかげで全てうまくいったと締めくくった。うまくいったというのは、レイジを再結成することができ、こうしてツアーができているということを指しているのだろう。
ナイトウォッチマンとしてのアルバムは1枚しかリリースしていないので、当然ながらそこからの曲のほとんどを演奏することになる。がしかし、次のナイトウォッチマンのアルバムに入る予定の曲なんだと言って新曲もいくつか披露してくれ、またレイジの『Guerilla Radio』も披露してくれたのだが、原曲とは全く異なるアレンジで、正直に言ってその場では気づかず、後で調べてみてわかったという具合だった(大汗)。
終盤はMCをほとんどせず、歌とギターのみで攻勢をかけるトム。曲が進む毎に緊張感が高まり、いつライヴが終わってしまってもいいような状態になっていく。それでもトムはなお演奏を続け、ブルースハープを駆使し、時折マイクスタンドから離れて生声で歌い上げ、果てはジャンプまでし、オーディエンスもそれに呼応するかのようにジャンプ。アコースティックのライヴもそれなりに観続けてきたつもりだが、ジャンプなんて記憶にない。そうして、マイケル・ムーア監督の映画「シッコ」に提供した『I'm Alone Without You』でライヴは締めくくられた。
レイジの音楽のようにハードでもヘヴィーでもラウドでもないが、しかしトム・モレロという人のスピリットがにじみ出た、とてもいいプロジェクトとしてナイトウォッチマンは機能していると思う。そしてこの日のこの人の姿に、私はボブ・ディランの面影を見た。ディランが初期のフォーク時代にやっていたこと、そしてブルース・スプリングスティーンやニール・ヤングがアコースティックギターを「武器」として叫び訴えてきたことの精神性を、この人は継承していると思う。レイジの新作が作られるかどうかは微妙なところがあるが、ナイトウォッチマンの新作はそう遠くない将来に作られるはずだ。
(2008.2.17.)