東京事変 2007.10.18:横浜Blitz
開場の2時間前からグッズが先行販売されるとのことだったので、少し並ぶことを覚悟して3時半頃に横浜Blitzに到着。しかし行列は全くなく、そしてなんと既に先行販売は始っていた。こりゃラッキーだと、Tシャツとパラパラマンガをすかさず購入。おかげで開場までにかなり空き時間ができてしまったが(笑)、ファミレスでのんびりと過ごし、やがて時間になって入場の列に並び、整理番号に従って入場した。客層は、女性がやや多めだ。
予定時間を10分近く過ぎたところで女性の声で場内アナウンスが入り、その直後に客電が落ちた。すると「7時のニュースです~」というSEが流れ、最近の時事ニュースの音声が流れる。しかし別のニュースも次々に流れ、それらが何重にもかぶさってやがて聞き取れなくなり、するとステージ向かって左の袖からバンドメンバーが登場。暗がりの中、亀田と浮雲はバスローブをまとっているように見えた。4人はそれぞれ持ち場につくと早速『復讐』のイントロを始め、少ししてから椎名林檎がステージに現れた。
ステージ上はまだ薄暗いままで、メンバーの立ち位置や動きこそなんとかわかるが、その表情までを伺うのは難しい。立ち位置は去年のツアーのときと同じで、向かって右から左へドラムの刃田、ベースの亀田、ギターの浮雲、鍵盤の伊澤となっていて、中央前方に林檎女史という具合。ただし『復讐』では、伊澤もギターを弾いていて、つまり浮雲とのツインギターになっていた。続く『酒と下戸』でもステージ上は薄暗いままだったのだが、「バンドメンバー紹介ソング」でもある『歌舞伎』になると、各メンバーにピンスポットが当たり、それからステージを照らすライトも全般的に明るめになった。
そのままメドレー形式で『Osca』となり、この曲はそもそも間奏にメンバーひとりひとりのソロパートがあるので、ここで各々が自己主張をする。バスローブに見えた亀田と浮雲の衣装はダブダブのガウンで、伊澤はツイードのジャケットだった(刃田の衣装は失念。帽子をかぶっていた)。そして林檎女史だが、ベージュのコートをまとっていたのをいつのまにか脱いでいて、シルクでできたサロペットのような衣装姿になっていた。浮雲のインナーのシャツ、亀田がはいているパンツ、伊澤がかぶっているハットの色がいずれもパープルで、これが今回のツアーのイメージカラーになっているのだろうか。
MCを挟んで『ランプ』を披露し、更に『ミラーボール』~『金魚の箱』と、まさに新譜『娯楽(バラエティ)』からの曲を冒頭から演奏する格好に。『ミラーボール』は去年のツアーで既に演奏されている曲だが、去年バージョンは直球でスペイシーなメロディーラインだったのが、『娯楽(バラエティ)』バージョンはスピード感を押さえつつ、随所に凝った音作りにしていて、去年聴いたのとはかなり印象が異なっている。ステージ上部には4つのシャンデリアがあって、この曲のときに妖しい光を発していた。
『群青日和』は今や懐かしささえ感じられる事変クラシックのような風格があり、続く『ピノキオ』はシングルカットされた『Osca』のカップリングで、サビは林檎女史のヴォーカルに浮雲がバックヴォーカルを被せていた。そして曲の終盤になると、林檎女史はひとりで袖の方に捌けていった。こりゃ衣装替えタイムだなきっと、と思い、この「間」を他の4人でどう持たせるのかというのが、期待と不安の両方を抱きながら注目。まずは浮雲が切り出し、伊澤に振ってみるもあまりうまくいかず、場慣れしている亀田が適度に助け舟を出しつつオーディエンスにも呼びかける形を取ってなんとか体裁を取った。
すると刃田が、「自分は鳥だったらペリカンになりたい」とか言い出し、「もし自分が鳥だったら♪」というお題をメンバーに振りつつドラムを叩き始める。亀田は「つくね」、浮雲は「砂肝」、伊澤は「鶴」と答え(笑)、そして曲は『某都民』。東京事変史上、椎名林檎の歌のパートが最も少ない曲で、もしかしたら今後のキャリアを踏まえても非常に稀有な曲になるのではと、個人的に予感している曲である。その冒頭は浮雲が甲高いトーンで歌い、伊澤が低いトーンでつなぎ、そして林檎女史が引き継ぐという構成だ。林檎は歌いながらステージに再登場し、先ほどとは別のコートに衣装替えしていて、そしてこの日初めてギターを弾いた。
曲は『月極姫』~『鞄の中身』と、相変わらず「現在の」事変を徹底している。『娯楽(バラエティ)』にリンクしたツアーなので当然と言えば当然かもしれないが、過去の曲を極力排しているところに、意図的なものを感じずにはいられない。この後披露された『丸ノ内サディスティック』が、この日演奏された唯一のソロ時代の曲だった。『丸の内』は事変になってもコンスタントに歌われ続けていて、林檎本人がよほど気に入っているのかな。
2度目のMCは亀田が口火を切り、このツアーで初めて演奏する新曲をやります!と大きくブチ上げる。このツアーでということは、初日である今日この日が初披露になります!と、更にオーディエンスの心をくすぐるような言い方をし、そして披露されたのが11月にリリースされる『閃光少女』だった。なんだかナンバーガールの曲みたいなタイトルだが、曲調はストレートでエモーショナルでポップであり、シングル向けと言っていいと思う。『キラーチューン』はともかく、『Osca』をシングルカットしたのはかなり冒険だと思っていたので。なお帰宅後ネットしてみると、『閃光少女』のサンプル試聴が解禁になっていた。
ライヴでは終盤に演奏されるだろうと予想していた『私生活』を経て、前作『大人』からのヒットチューン『修羅場』となり、マーチングのテイストが入っている『黒猫道』へとつながれる。この後刃田が「言いづらいんですが、次の曲が最後です。」と言って、本編ラストの『キラーチューン』へ。個人的に、この曲はあまりにも歌謡曲テイストが強すぎて凡庸であるように感じていて、正直に言ってあまり好きな曲ではない。のだが、曲自体をハイライトにするのではなく、本編をきちっと締めるための「はずみの曲」としてのこの使われ方は、悪くはないなと思った。
アンコールでは、メンバーがツアーグッズのTシャツ姿に着替えて再登場。亀田のMCで、このツアーのタイトルが「Spa & Treatment」であることをオーディエンスに再確認させ、更に「体」と「心」のどちらをトリートメントしてほしいのかな?という呼びかけをする。オーデイエンスからは「体」「心」といろいろ入り混じっていて収拾がつかず、結局亀田が「じゃあ今回は「体」で」と言って、始まったのが『キラーチューン』のカップリングであるその名も『体』だった。ジャジーで落ち着いた曲調で、場内も静まりかえり、じっくりと曲を聴くモードにシフト。更に『SS/AW』~『透明人間』と展開して、林檎とバンドは再びステージを後にした。
さすがにこれで終わりだろうと思っていたら、なんとセカンドアンコールが!これが今回のツアーの定番となるのか、それともこの日がツアー初日だからなのかはわからないが、とにかくこの場にいた身としては嬉しい限りだ。林檎女史が「せっかくの横浜、もう1曲だけ歌わせてもらいます」と言ってくれ、更に場内は沸いた。恐らく、椎名林檎はソロ時代から数えても、東京では何度か公演を行い、横須賀ではゲネプロをやってはいるが、「横浜」は今回が初めてになるのではないだろうか。そんなことをつらつら思っているうちに、『娯楽(バラエティ)』のラストナンバ−でもある『メトロ』でライヴは締めくくられた。
私がこの日のチケットを取ったのは、ツアーの初日に馳せ参じたいという思いからではなく、自分が横浜在住で会場が自宅から比較的近いからという、かなり安易な理由からだった。しかし結果的に、この日の公演に立ち会えたことは大正解で、とても楽しい時間を過ごさせてもらった。よりバンドとしての結束力が強固になったように感じ、各メンバーも、そして椎名林檎自身も、そのことを楽しんでやれているように見えた。東京事変になってからはホール公演がほとんどであり、その分ステージセットにはいろいろと趣向を凝らしてきたバンドではあるが、今回はセットは最小限に押さえ、音楽そのもので勝負しに来ているように見えたのだ。
(2007.10.21.)