Battles 2007.10.1:Club Quattro
フェスティバルでオーディエンスの記憶に大きく深く焼きつく名演をやってのけたアーティストが、その直後に単独で来日を果たすとスゴイ騒ぎになる、というのは今までになかったわけではない。がしかし、今回のバトルスほどそれを痛感したことはない。もともと決まっていた日程はチケットが発売即完売し、追加公演も同様。結局再追加公演まで発表され、しかもそれは初日に2公演を行うという、かなりムチャなスケジュールに。私は幸いにして追加公演のチケットが取れ、期待に胸膨らませながら会場入りした。
定刻より10分ほど遅れたところで、ゆっくりと客電が落ちた。フジロックのときと同じく、まずはデイヴ・コノプカひとりだけがステージに登場し、ベースを弾き始める。弾きながら機材を調整していて、やがて自分が発していた音にループ加工を加え、自らが演奏の手を止めても残響音がフロア内に響く格好に。と、ここで他の3人も登場して持ち場につき、演奏が正式にスタートした。
もともと狭いクアトロのステージだが、4人の勇者たちが織りなすパフォーマンスが、更にステージを狭く感じさせる。メンバーの配置だが、ドラムのジョン・スタイナーを中心にし、その向かって右後方に今度はギターに持ち替えているデイヴ、右端にはアフロヘアのタイヨンダイ・ブラクストン、そして左端にはイアン・ウィリアムスが陣取るという具合だ。ステージには何の装飾も演出効果もないが、ことバトルスに限っては演奏そのものが強力な武器であり、その必要もないのだろう。
フジロックではステージの規模も約10000人で(ちなみにホワイトステージ)、そして大勢のオーディエンスが集まっていて入場規制状態だったこともあり、結構ステージから距離を置いたところで観戦する格好だった。しかし今回は真逆で、天井が低く密閉感に溢れた物理的な環境の中で、ステージも間近にしてメンバーの一挙手一投足までもがつぶさに捉えることができる。私は向かって左前方、つまりイアン側にいて、この人のプレイを中心にしながら他の3人の状況を伺うという見方だ。
そのフジロックでは、いちおうジョンのドラムがサウンドの軸になっていて、ジョンがリズムを変えることで演奏が次のフェーズに入ったことをオーディエンスは知り、曲が単発ではなく連続することに驚異を感じていた。がしかし、誰が明確な指示を出しているというわけでもなく、いったい誰がバンドをコントロールし、どうやって統率を取っているのかがわからない異様な状態だった。この場ではその「謎」が明らかにできると思って観たのだが・・・。恐らくは、あらかじめ決めておいたセットリストがあって、それに沿う形を取り、ドラムのジョンがバンドを牽引し、他の3人がジョンに合わせる・・・の、ように見えた。
主にタイヨンダイとイアンとがアイコンタクトをし、タイヨンダイとジョン及びイアンとジョンもアイコンタクトを繰り返している。デイヴは一歩引いた状態で3人のプレイに合わせているように見えた。レッド・ツェッペリンは、今になってリード・ドラム・バンドと呼ばれているが、このバトルスはまさしくリード・ドラム・バンドだ。イアンとタイヨンダイは曲によりギターとキーボードを使い分け、あるいは左手でフレットを押さえながら右手で鍵盤を弾くという、2つの楽器を同時にこなしながら演奏をするという職人技を繰り広げていた。
主なメロディーはイアンがキーボードで弾き、間奏のギターソロをタイヨンダイとデイヴとで分け合っていた。タイヨンダイのギターは割かし音が高めであり、一方デイヴのギターはまるでベースのような重低音だった。イアンの鍵盤にはデジタル機材が接続されており、イアンはツマミを調整して鍵盤の音色を調整し、曲により異なる音が出せるようコントロールしていた。この人の鍵盤は真紅のボディーで、結構使い込まれている様子。そしてなんと、「バトルス」というカタカナのステッカーが貼られていた。
バトルスの曲はほとんどがインストナンバーだが、曲によってはヴォーカルが入るものもあって、そのヴォーカルは全てタイヨンダイが担っていた。ヴォーカルと言ってもエフェクトがかけられていて限りなく電子音に近いものがあり、ことばを伝えるというよりは楽器のひとつとして機能させている。MCを担当したのもタイヨンダイで、激しく流れるような怒涛のプレイぶりとは対照的に、MCは驚くほどに穏やかで柔らかい口調だった。
選曲としては、今年リリースされた待望のアルバム『Mirrored』からの曲順を逆に演奏し、合間にEPからの曲を添える、という構成になっていた。つまり『Mirrored』のラストナンバーである『Race : Out』で幕を開け、『TIJ』を経て、『Tonto』~『Atlas』で絶頂に達するという具合だ。『Tonto』は、来日公演にリンクするようにリリースされたライヴアルバム(その名も『Lives』)の看板曲ということもあり、オーディエンスのリアクションも上々。そしてシングルカットもされている、言わば現時点でのバトルスの「顔」的な曲である『Atlas』は、原曲の3倍くらいのヴォリュームにまで拡大され、アフリカンなリズムと日本の祭囃子とが混合したかのような不思議なリズム感に、場内が揺れた。
本編を『Dance』で締めくくり、アンコールはなんと2回も。1回目にはジョンが現れず、3人で『Bad Trails』を披露。よもやの2回目ではジョンも再登場したものの、この人は明らかにバテていて燃え尽きた感ありあり。それでもなんとかパーカッションをこなし、オーラスは『Hi/Ho』。イアンとデイヴはかなりゴキゲンだった様子で、フロア前方に詰めているオーディエンスとハイタッチを交わしたり、その前の柵にいた関係者?と思しき人とハグしたりしていた。タイヨンダイは「we'll come back very very soon...」と言っていたのだが、ほんとうに近いうちに再来日するのかな?
衝撃のライヴであったことに間違いはないが、私はこの日の彼らを手放しで絶賛したくはない。というのは、今のバトルスが臨界点に到達しているとは思っていなくて、2年後や3年後にまた彼らのライヴを観る機会があったとしたら、そのときには今回を遙かに上回る、更に凄まじく更に観る側を驚愕させるパフォーマンスをしてくれるに違いないと、信じているからだ。ともあれ、今回バトルスのライヴを観る機会に恵まれたのはほんとうにラッキーだったと思う。
(2007.10.14.)