浜田省吾 2007.6.16:NHKホール
開場とほぼ同時に会場入りし、早々にグッズを購入。パンフレットは、その大きさといい分厚さといい、手にしただけでずしりと来るものがあった。そしてその内容だが、ソロキャリア30周年を迎えた浜田のアーティストとしての歩みを、事細かにフォロー。当時の新聞や雑誌の記事や写真などがふんだんに取り込まれつつ、今回のツアーで歌われている曲の歌詞が合間合間に挿入されている。なんとも贅沢な超豪華版で、3,500円という価格も決して高いとは思わない。
開演時間きっかりになると、場内から拍手と省吾コールが自然発生的に沸き起こる。そうした中で客電が落ち、ステージを覆っている幕に映像が映し出される。青空の中を流れる雲、海、街並み、砂漠の真ん中を通る1本の道・・・といった風景がランダムに捉えられ、それらが落ち着いたところで不意に「Like a long lonely stream ~♪」という浜田の歌声が聞こえ、少しして幕がせり上がって来た。浜田、及びバンドメンバーの姿が見え、ここで場内は総立ちとなる。曲は、スティーヴィー・ワンダーの『A Place In The Sun』だ(この曲は浜田にとってかなり重要らしく、この後も形を変えて絡んでくる)。
続いては『光と影の季節』。前回のツアーでも序盤に歌われていて、現在の浜田のテーマ曲的な位置づけにあると思っている。サビの「ウォーーウォーーウォーーー♪」のところでは早くも場内が大合唱になり、そしてその音圧が尋常ではない。私は過去に2回この人のライヴを観ているが、それらはいずれもアリーナだった。つまりホールでのライヴは今回が初めてで、ファンの熱狂度がここまで凄まじいとは思わず、これだけでもう圧倒されてしまった。更に『Hello Rock & Roll City』と畳み掛け(もちろんサビは「Tokyo City」に置き換えられていた)、前半から「攻め」モードであることにもびっくりさせられる。
バンドメンバーは、2年前と全く同じだ。ステージ中央には黒づくめの浜田、その左にはギタリストとサックスの古村。浜田の右にはベーシストとギタリストだが、このギタリストには見覚えがあった。長田進という人で、グレイプバインのプロデュースをしている人であり、去年はCoccoのプロデュースも手掛け、彼女のツアーにギタリストとして参加していた人だ。2人のギタリストと古村は、曲によりステージ前方ににじり寄ってはソロプレイを繰り広げ、それなりに見せ場を作っていた。そして後方には、中央にドラマー、右にはキーボード、左にはピアノが陣取っている。バックには鉄柱によるセットが設営されていて、曲により微妙にライトアップされたり映像が流れたりしていた。
浜田のライヴは、実はMCがとても多い。ファンに対する感謝のことばがあり、今日この日このときを楽しんで行ってほしいという力強いことばがあり、そして、この日だけしかないことばもあった。チケットが取れずライヴに来られないファンから、ライヴをDVD化してリリースしてほしいという嘆願が事務所宛に殺到しているそうだ。ライヴDVDを出すためには、その収録をしなくてはならない。それがこの日です!この日皆さんがここにいたことは記録され、10年後も20年後も残ります。・・・という浜田のことばに、場内は一層沸いた。私は3階の左前方の席だったのだが、私の少し横にもカメラクルーがいた。
この後はアコースティックセットとなり、『彼女はブルー』~『ロマンスブルー』~『紫陽花のうた』と、スローナンバーが続けて披露された。20年以上も前の曲、10年前の曲、それらが温度差を感じさせることなく、自然な流れで演奏されることに、この人のソングライターとしてのセンスと、ライヴパフォーマーとしての力量を感じさせる。そしてこの後が、個人的なハイライトになった。このツアーは、浜田のソロ活動30周年にリンクして行われている。30年前というと1970年代で、その頃にステージを「タイムスリップ」させたのだ。
キーボードの福田が語り部となり、70年代の世相や浜田の活動を饒舌に披露する。浜田は大学をやめてアーティストを志し、やがてドラマーとして愛奴でデビュー。その翌年にソロに転じている~といったことが簡単に紹介される。その間ステージにはバーカウンターやテーブルなどがセッティングされ、バンドメンバーやスタッフらが客に扮してトランプに興じる、という寸劇が始まった。やがて浜田が再登場するが、そのいでたちはベージュのコートを羽織り、ベレー帽を被っていた。当時はまだライヴハウスはなく、アーティストが演奏する場は喫茶店や酒場のようなところだったそうだ。
そして浜田本人から、浜田が当時していたのと同じと思われるMCが発せられる。広島から横浜に出てきて、今は東京に住んでいます/オイルショックの影響で、オレのアルバムは3000枚しかプレスされてません/まだそんなに仕事がなく、ふだんは下北沢で歌っています/なんとか30歳までは、この仕事を続けたいと思っています/次に歌う曲、もし知っていたら一緒に歌って下さい・・・。そうして浜田が歌い始めたのは、『路地裏の少年』だった。ステージ後方には、デビュー時と思われる浜田の写真が映し出された。ステージでは引き続きメンバーたちがトランプに興じていて、両サイドには壁のセットがあって、右にはイーグルス『Hotel California』の、左にはスティーヴィー・ワンダー『A Place In The Sun』のジャケットが、それぞれ飾られていた。
オーディエンスは浜田を暖かく見守り、歌を口ずさみ、手拍子を送っていた。キャリア30周年を迎えた浜田が、アリーナではなくホールツアーを行い全国都道府県を廻っているのは、単に30周年を祝祭するのではなく、アーティストとしての原点に立ち戻り、初心に返るという気持ちがあったらしい。個人的には、あの浜田省吾にも先ほど本人が語ったような不遇の時代があったのかということに驚かされ、そしてその気持ちを今でも失っていない姿勢に感動を覚えた。この後は通常のバンドセットに戻り、『ある晴れた夏の日の午後』が披露された後に、幕がゆっくりと降りてきた。
to be continued ...