Rovo 2007.5.5:日比谷野外大音楽堂

 Rovoは5月5日を「宇宙の日」と銘打っていて、毎年日比谷野音でライヴを行っている。心配された天気だが、雨が降ることもなく過ごしやすい気候に落ち着いていた。客層は割と若い人が多く、男女半々といったところ。ビール等のアルコール類を口にしている人が、私がこれまで観てきたライヴからするとかなり多い。中にはクーラーボックスで持ち込んでいる人もいたし。他にも、シャボン玉を吹いている人やお香をたいている人など、「らしい」人たちが集まっていて、ここが都会のど真ん中であることを忘れそうになる。





 定刻となり、まずひと組目はフライング・リズムズという2人組が登場。中年の日本人がドラムを叩き、黒人がパーカッションを操っている。ドラムはバスドラとシンバル主体で、パワフルなビートというよりはリズムを細かく刻んでいる。一方の黒人の人だが、指に細かくバンデージを巻いていて、その指先や指の腹、手の甲、手の腹などを器用に駆使しながら、パーカッションを奏でている。


 演奏は基本インストなのだが、時折黒人の人が「Yeahhhhhhhhhh−−−−−−−−」「Ahhhhhhhhhh−−−−−−−−」といった雄叫びを入れ、また「キョウ ハ コドモノヒ」など、日本語でMCも入れていた。面白かったのはパーカッションの機材で、中にはポリバケツに水を張ったものも用意されていたし、木魚のように見える黄色の半球体の機器は、これが実は電子音を発するようになっていた。





 続く2組目はスペシャル・アザーズ。4人組で、こちらもインスト。全員が帽子を被り、全員が髭をたくわえている。楽器はドラム、エレアコ、スティックベース、そしてキーボード&プログラミングで、ぱっと見はドラマーがやたらと存在感があったので、パワフルなドラムが売りになるのかと思いきや、この人はリズムキープに徹していた。スティックベースは時折独特の野太いリフを発していて、エレアコはその音色を心地よく響かせてはいたものの、さほど前面に出てこない。


 ではライヴをリードしていたのはというと、キーボードとプログラミングを駆使している人だった。ともすればヘヴィーでコアでマニアックな演奏至上主義の方向に行きがちなところだが、この人がいることで音がポップで聴きやすくなっていて、それが野音の空間にもマッチしていた。MCはドラマーとキーボードが交互に発していて、彼らが野音のステージに立つのはこの日が初めてなんだとか。ちゃっかりCDやライヴの宣伝もしつつ(笑)、うまく最後を締めくくっていた。なおこのとき、私は場内でゆらゆら帝国の坂本慎太郎に遭遇。その後坂本は、関係者側のエリアで座ってビールを飲みながらライヴを観ていた。





 セットチェンジになり、既に建てられているライトの鉄塔には、スタッフの手作業で更にライトが追加された。いつのまにか上部にはミラーボールが吊るされていて、また計7本の鉄の棒が垂れていた。いよいよそのときがという感じになってきて、そして約20分後、ついにRovoが登場。客席はこの日初めて総立ちになり、歓喜の瞬間を迎え撃つ準備はできあがっていた。


 勝井祐二が体全体でリズムを取り、やがてツインドラムが稼働して演奏がスタート。しかし勝井はまだ演奏には加わらず、引き続き体を揺らしているままだ。バンドは、ドラマー2人が後方に陣取り、その手前中央にはベーシスト、左前方にはギターの山本精一、その更に左にはプログラミングの人が陣取っていて、勝井は右端に立ちメンバー全員を見るように(つまり客席には背を向けるように)立っていた。序盤を牽引していたのは、山本によるギターだ。


 そしてついに勝井が弓を振り、エレキバイオリンを弾き出した。これで演奏に弾みがつき、厚みが増したような状態になった。客側もそれを敏感に察知し、自然に歓声が沸き起こった。勝井のエレキバイオリンだが、ブルーのボディーで、そしてその形状は非常にシンプル、かなり軽量そうに見えた。発せられる音色はまぎれもなくバイオリンのそれなのだが、といってバイオリン独特の渋味はなく、むしろ官能的ですらある。そして勝井のプレイは間違いなく「攻め」であり、これが他のメンバーのプレイと相俟って、極上の音の世界を作り上げている。





 1曲1曲が長尺であることは、CDを聴いていたので知ってはいたが、これがライヴの場でもそのまま再現されている。しかし実際に長尺ではあっても、聴く側としては「長い」と感じることはあまりないはずだ。いつのまにか演奏の中に引き込まれてしまって、時間の経過から解き放たれたような感覚に陥ってしまうからだ。その演奏もさることながら、用意されたライティング機材も曲にリンクして閃光し、その色彩がまた美しい。更に、時間的にはちょうど夕暮れから日没に差し掛かっていて、夜の野外という神秘的な空間が、幻想的な時間と空間にダメを押している。


 客のアルコール摂取率が高いことは最初に書いたが、そうしたこともあったのだろう、客の弾けっぷりも尋常ではなくなっていた。私は客席の2つ目のブロックの最前にいたのだが、目の前には鉄柵があった。より前のブロックに行くためには、サイドに回って通路を歩いていけばいいのだが、ライヴ中になると後ろから鉄柵を飛び越えて(あるいはくぐって)前に行かんとする若者が次々に出てきて、係員との小競り合いになっていた。席に立って踊る人も多く、酩酊している人も決して少なくなかった。





 曲が長尺であることの利点のひとつは、1曲の中に起承転結のドラマ性が包含されていることだと思っている。なので中盤からは1曲1曲がクライマックスのような状態になり、この曲が終わったらライヴ終わりかな、という感覚を持ったかと思えばまた次の曲、という、更なる目まぐるしいドラマティックな展開にさらされる快感が味わえるのだ。もちろん、ただ演奏していたのでは中だるみが生じてしまうのだが、Rovoの技術からしてそんな問題が生じるはずはなく、終始緊張感を持続させたまま、圧倒的なパフォーマンスを見せている。先に出演した2バンドには申し訳ないが、はっきり言って役者が違いすぎる。


 極上の空間がこれでもかとばかりに続けられ、本編が締めくくられた。最後に勝井が「ありがとう」と挨拶してステージを去り、アンコールがあるのかないのか微妙な空気が漂った。通常のライヴなら客の側が強くアンコールを求めるものだが、ではここではというと、拍手も歓声もまばらだった。これは、バンドの凄まじさに客が追いついていってないからだと思う。しかしバンドは再登場し、最後に1曲と言って『極星』を放った。ステージ後方の壁には、微生物の動きやユニコーンが駆ける映像が映し出されていた。バンドは結成10周年を迎えたそうで、この日のライヴはそれを記念する意味もあったのかもしれないが、にしてもライヴが2時間弱にも渡ろうとは、予想することはできなかった。





 Rovoはこれまで何度かフジロックに出演しているが、その多くはフィールド・オブ・ヘヴンでだった。バンド側の希望にもよるのかもしれないが、私はこのバンドをヘヴンに封じ込めておくのは勿体ないと思う。演奏自体は申し分なし。後はライティングをよりド派手にし、映像を導入して演奏とシンクロさせることができれば、ホワイトステージのヘッドライナーを充分張れると思う。あるいはグリーンステージで日中に出演しても、そこで新たな伝説が生まれるはずだ。





(2007.5.6.)


















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