J Mascis/Beyond 2007.2.26:Liquid Room Ebisu

2005年にオリジナルメンバーで復活を遂げ、精力的にツアーをこなしていたダイナソーJr.。それで勢いがついたのか、なんと新作『Beyond』のレコーディングまでしてしまった。リリースに先駆けてアルバム全曲の先行試聴会が行われることになり、そしてなんとJマスキス本人のアコースティックライヴも併せて行われることに。会場は、当初リキッドルーム2階の「リキッドロフト」という狭いスペースで200人限定で行われる予定だったが、応募者多数ということで、急遽本丸であるリキッドルームに変更になった。





『Beyond』先行試聴会

 時間になると、この日の進行を務めるブライアン・バートン・ルイスがステージに登場。つい先ほどJとのインタビューを終えたばかりだそうで、エピソードを少し語ってくれた。ダイナソー活動当時、ルー・バーロウが脱退したのはJとケンカしたからであり、そして一昨年に再結成したのはルーが謝ったから、なのだとか。そして、J自身試聴会に立ち会った経験がないそうで、ステージの袖の方から見ているという状態の中、場内が暗転した。


 いきなり爆音が場内に響き渡り、試聴会スタート。ステージ上はもちろん無人で、そして何の装飾も特殊効果もなく、暗がりの中をただ音だけが鳴っている状態。それを、会場に集まった数100人のファンたちが聴いているという具合だ。体を小刻みに揺らして踊る人もいたことはいたが、直立不動で耳に神経を集中し、音を聞き漏らしてまるものかという人の方が大半だった。ここで敢えて言わせてもらえれば、スクリーンを用意して、そのとき流れている曲名をステージに表示するくらいのことはしてもよかったはずだ。


 さて音の方だが、非常にラウドでハードであり、『Where You Been』『Without A Sound』に近い印象がある。ただ、これらの作品はJがバンドを牽引する形でプレイされているのに対し、『Beyond』はJとルー、それにマーフという3者が対等に渡り合い、同じくらいの熱量を以ってぶつかり合い融合しているように思え、この感触はまぎれもなく初期ダイナソーだ。つまりは、サウンド面とパフォーマンス面の両方を以って、ダイナソーのキャリアを集約したかのような仕上がりだと感じる。


 ほとんどの曲は爆音直球一本槍のようなハードでストレートなロックだが、中にルーがリードヴォーカルを取っている曲もあり(確か2~3曲)、こちらはというと、ウィーザーのようなパワーポップ趣向が見られた。曲の長さは4分から6分くらいがほとんどと思われ、大作の空気漂うスケール感溢れる曲でも実はコンパクトにまとまっているという、ダイナソーらしさを見出すことができた。曲は恐らくアルバムの収録順そのままに流されたと思われ、日本盤ボーナストラック2曲を含み、約1時間に渡って爆音が鳴り響いた。





J Mascisアコースティックライヴ

 再びブライアンが登場して少しコメントし、Jを紹介。ブライアンと入れ違いになるようにJが登場した。メガネをかけ、紺に白いラインが入ったジャージ姿というリラックスしたスタイル。トレードマークの長髪は相変わらずだが、ほとんど銀髪と化していた。ステージ前方中央に用意された椅子にどっかりと座り、ギターのチューニングを少しした後で、いよいよソロライヴがスタートした。


 アコースティックとは言いながら、この人はやってくれた。序盤こそ丹念にエレアコを弾き、発せられる音色は心地いいもので、よくあるアコースティックライヴだったのだが、これが間奏に差し掛かったところで様相がガラリと一変。一度弾いたリフレインをループさせ、そしてファズを効かせまくり、爆音モードにシフトチェンジしたのだ。かと思えば、すぐさま通常のアコースティックモードに戻し、そしてまた爆音と、その辺りはうまくコントロールしているのだが、とにかく非常にユニークなパフォーマンスだった。ギターは何本か用意されていたが、結局Jは交換することなく、1本のギターで弾き続けた。


 そんなJを観ていたら、自然と顔がニヤニヤしてきた。基本的に、アコースティックライヴは地味で渋くて穏やかなもので、中には情感を込めて歌い上げアコギをかき鳴らす人もいて、そのエモーショナルな姿にぐっとくることはある。が、エレアコと機材と技法で以って音そのものを爆音にしてしまい、最早アコースティックの範疇を超えたかのようなパフォーマンスなんて前代未聞。この人はただ自分がやりたいことをやっているだけなのだろうが、観る側としては、こんなアコースティックライヴまず観たことないし、それだけに受けるインパクトは絶大なのだ。





 曲は、ソロからもダイナソーからもランダムにセレクトされていて、Jがやりたい曲をやっているように見えた。『Little Fury Things』『Freak Scene』『The Wagon』といった、いわゆる定番曲に場内のリアクションがよかったのは当然だが、個人的にはソロキャリアを代表する名曲(と勝手に思っている)『Ammaring』を演ってくれたのが嬉しかった。J自身も気に入っている曲なのでは?と都合よく想像しているけど。ラストは後期ダイナソーの大作ナンバー『Alone』で、こちらも言うことなしの嬉しい選曲だ。


 いったんJはステージを後にするが、ブライアンが客を煽るようなMCをし、客もそれにつられるようにして拍手のヴォリュームを上げた。私はステージ向かって左側にいて、右奥の袖の様子が結構よく見えていた。何人かのスタッフがいる中でJはもそもそしていて、そのJに届けとばかり私も拍手をした。するとJは再登場してくれて、アンコールとして『What Else Is New』を披露。ソロアコースティックライヴの方も結局約1時間に渡り、全てが終わったときは、時刻は午後10時近くになっていた。





 今回こうした形でプロモーション来日してくれたということは、『Beyond』リリース後に行われるであろうツアーで、フェスかあるいは単独か、何らかの形でまた日本に来てくれることが期待できる。そのときは『Beyond』を生バンドで堪能できることと思うし、歳を重ねていながらも「円熟」の方向ではなく、「攻め」の姿勢でギターを手にしステージに立つJの勇姿に、また私たちはお目にかかれるはずだ。




(2007.3.29.)














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